労務の役割を3層で捉える「OE・RM・ST」とは
今回のテーマは、産業保健におけるOE・RM・STです。小橋さんは、これらが企業の健康管理業務を整理するための切り口になると話します。
OE・RM・STはそれぞれ、オペレーションエクセレンス、ルールマスター、ストラテジストを指します。前回まで番組にゲスト出演していた岩田佑介さんが、「図解労務入門」の中で労務の役割を3層に分けて説明した概念です。
この回では、労務の中に含まれる産業保健、つまり企業における健康管理業務を、この3つの切り口で整理するとどうなるのかを、小橋さんが自身の経験をふまえてまとめていきます。
オペレーションを滞りなく正確に処理する役割。産業保健では法令業務が該当する
ルールを使いこなして会社や社員を守る役割。産業保健では事例対応が該当する
ルールや働き方そのものを作る役割。産業保健では統括管理が該当する
OE(法令業務)を月・年のタームで整理する
1つ目のOE、オペレーションエクセレンスは、様々なオペレーションを滞りなく正確に処理していく役割です。小橋さんは、産業保健ではいわゆる法令業務がこれに該当すると整理します。
ここでは従業員50人以上の企業を前提に話が進みます。具体的には、衛生委員会、職場巡視、そして法令3点セットである長時間労働対応・健康診断・ストレスチェックが挙げられます。
OEをタームごとに分けると、まず毎月必要になるのが衛生委員会と産業医の職場巡視です。職場巡視について、衛生管理者は月1ではなく週1で必要になります。
業種によって頻度は変わり、船の場合は衛生管理者が月1、産業医が年1になるといった違いもありますが、いずれにせよこうした業務が必要になると小橋さんは説明します。
長時間労働への対応も毎月必要です。長時間労働者を集計するだけでなく、必要に応じて医師の面接指導や疲労蓄積チェックが入ってきます。
年度単位で毎年必要になるのが、健康診断とストレスチェックです。これらもやって終わりではありません。
健康診断では事後措置が必要になり、ストレスチェックでは高ストレス者への対応や集団分析が基本的にセットでついてきます。
有害業務がある場合は、特殊健診や作業環境測定を基本的に半年に1回は行う必要があります。局所排気装置を設置する場合は、毎年の定期自主検査に加えて毎月の点検も必要になります。
| ターム | 主な業務 | 付随して必要になること |
|---|---|---|
| 毎月 | 衛生委員会、職場巡視、長時間労働対応 | 面接指導、疲労蓄積チェック |
| 毎年 | 健康診断、ストレスチェック | 事後措置、高ストレス者対応、集団分析 |
| 半年ごと | 特殊健診、作業環境測定 | 有害業務がある場合 |
さらっと聞こえて実は重い、ルーティン業務の現実
ここまでさらっと挙げてきましたが、これらをきちんとやるのは結構大変だと小橋さんは言います。
例えば健康診断1つを取っても、予約、結果の回収、個別への連絡と、それなりの工数がかかります。
健康診断一つ取っても、予約とか結果の回収とか、個別への連絡とか、それなりの工数がかかるわけですよ。
小橋さんは第13回の法令遵守の回にも触れつつ、都心の最新オフィスで本当に週1や月1の職場巡視が必要なのか、疑問に思うところもあると率直に語ります。
一方で、だからといってやりませんとなれば、それは法令違反になってしまいます。だからこそ、まずはこうしたルーティン業務を意識することが、オペレーションを考える上で大事になると小橋さんは話します。
RM(事例対応)に必要な「軸」とスキル
2つ目のRM、ルールマスターは、ルールを使いこなして会社や社員を守る役割です。小橋さんは、産業保健では事例対応がメインになると整理します。
具体的には、これまでの回でも取り上げてきた休職や勤怠・パフォーマンス不良、さらに長時間健診やストレスチェックからの産業医面談で会社へのフィードバックが必要になるような、個別事例対応全般が含まれます。
ここで一定の軸がないと、対応がばらついてしまうと小橋さんは指摘します。実際にそうした場面をたくさん見てきたといいます。
なんであの人はOKなのに私はダメなんですか?とか、前の担当者とか産業医と言ってることが全然違うんですけど、みたいな、そういうカオスな状況になりかねない。
そのため、まずは関係法令や就業規則といったルールやポリシーを知るハードスキルが大前提として必要になります。
その上で、相手は人ですから、1例1例対話を重ねて最適解を考え抜くソフトスキルが求められます。小橋さんはこれを、クールヘッド・ウォームハート的な運用だと表現します。
関係法令や就業規則といったルールやポリシーの知識。事例対応の大前提となる
相手は人という前提で、1例1例対話を重ねて最適解を考え抜く力
ST(統括管理)はルールと働き方そのものを作る
3つ目のST、ストラテジストは、ルールや働き方そのものを作っていく役割です。産業保健では統括管理が該当し、具体的には年度計画の策定や文書体系づくりが挙げられます。
より具体的には、休職や療養支援のマニュアルを作ったり、健康診断の事後措置のフローや基準を作ったりと、誰が対応しても一定の質が担保される仕組みづくりが必要になります。
さらに大きな話として、マネジメントシステムや健康経営があります。そもそも自社はどこを目指すのか、その上でなぜ健康が大事なのか、より健康と経営をリンクさせる形に持っていくことだと小橋さんは説明します。
OEあってのRM、RMあってのST。積み上げの順番
岩田さんが強調していたのが、OEあってのRM、RMあってのSTという順番でした。小橋さんもこれには共感できると話します。
小橋さん自身、統括産業医として年度計画やルール・方針を作り、健康経営を主導してきた経験があります。その上で、現場の業務を知らないまま作ったルールや方針の限界を語ります。
現場の業務を知らないのに、なんとなくふわっとどっかから借りてきたような、それっぽいルールや方針を作っても、おそらくそれってワークしないですし、何よりイメージが全然湧かないんですよね。
現場を知らなくてもOE・RM・STを結びつけるのが天才的にうまい人もいるかもしれないが、少なくとも当時の自分には難しかった、と小橋さんは振り返ります。
そこで小橋さんが挙げるのが、日々の産業医活動で感じた疑問から方針を作っていく積み上げの例です。フィジカルの病気で倒れる人が多いと感じたことが出発点になりました。
健康診断のフォローアップに手応えがないと気づき、実際に病院に行った人がどれくらいいるかの数字を出してみると、その割合がとても低かったといいます。
これは問題だからと次の衛生委員会で議題にし、来期の年度計画で健診の事後措置を最優先にしつつ、具体的なフローやルールも合わせて作っていく。そうした流れです。
こうして積み重ねてできたルールや方針は、最終的にはよくあるものになっていたとしても、ストーリーとして伝えられ、何より確実に血肉になっていると小橋さんは語ります。
小橋さんは、必ずしも全員がSTを目指す必要はなく、1人がすべてを見極める必要もないと補足します。それでも、OEを土台にRM・STを積み重ねてリンクさせることが、足腰の強い組織体制につながると改めて感じたと話します。
現場で疑問を持つ
フィジカルの病気で倒れる人が多いと感じる
数字を出す
病院に行った人の割合を調べると、とても低かった
議題にする
問題として次の衛生委員会で取り上げる
計画とルールに落とす
来期の年度計画で健診の事後措置を最優先にし、フローやルールも作る
次回はOEの深掘りへ。岩田さんとの対談を振り返る
今回は、現場の産業保健におけるオペレーションエクセレンス、ルールマスター、ストラテジストを整理してきました。
次回以降は、その中でも最も土台となるオペレーションエクセレンス、いわゆる普段のルーティン業務を深掘りしていく予定です。衛生委員会、職場巡視、健康診断あたりから具体的に扱っていくといいます。
小橋さんは、このタイミングで岩田さんと対談できたのは本当に良かったと振り返ります。岩田さんが最後に、労務を肴に酒をワイワイ飲める仲間を増やすのが夢だと話していたことにも触れます。
対談はワンセルフのオフィスで収録されました。その後は同じビルの蕎麦屋で一次会をし、東京・赤坂で産業保健師が営む「月曜日の保健室」というスナックへ移動したそうです。
他の客とも一緒になって盛り上がり、月曜日からかなりフィーバーした一日になったと小橋さんは楽しそうに語ります。あわせて、岩田さんがVoicyで配信している「ラジオ労務入門」も紹介されました。
まとめ
この回では、労務の3層モデルであるOE・RM・STを切り口に、企業の健康管理業務の全体像が整理されました。法令業務・事例対応・統括管理という3つの役割を、土台から積み上げていく視点が語られています。
- OEは法令業務(衛生委員会・職場巡視・健診・ストレスチェックなど)、RMは事例対応、STは統括管理にあたる
- OEは毎月・毎年・半年ごとといったタームで回り、さらっと見えて実際は工数のかかるルーティン業務である
- RMには関係法令や就業規則を知るハードスキルと、対話で最適解を探るソフトスキルの両方が必要
- STのルールや方針は、現場の疑問を数字にし、衛生委員会や年度計画に落とし込む積み上げから作ると血肉になる
- OEを土台にRM・STを積み重ねてリンクさせることが、足腰の強い組織体制につながる


