牛の肥満について届いた質問とは?
この回のお便りコーナーでは、TikTokで届いた牛の肥満についての質問を、川上牧場の川上さんが取り上げます。
牛さんの肥満とか餌をあげる際に気をつけていることはありますか?
川上さんはまず、牛が太っているか痩せているかは、栄養状態や体調が表れる大事な観察ポイントだと話します。そのうえで、牛の太り具合そのものに単純な良し悪しはないとも言います。
牛が太っている、痩せている、どっちがいいとかどっちが悪いってこともね、特になかったりするんです。太りすぎは本当に悪いですけどね。
一般には「牛はたくさん食べるほど健康で、お乳もたくさん出る」と思われがちです。けれど川上さんによると、乳牛は痩せすぎても太りすぎてもダメで、しかも同じ牛でも分娩直後と妊娠後期ではちょうどいい餌がまったく違うそうです。
この回の結論として川上さんが最初に示したのは、餌を見るときは何キロ食べたかより、牛の今の体の状態と、その餌をどう使っているかを意識する、という考え方です。
体重計ではわからない?ボディコンディションスコアという物差し
人間なら体重計に乗れば太り具合がわかります。ところが牛の場合、体重だけでは太っているかどうかを判断しにくいと川上さんは説明します。
理由は、牛によって体の大きさが違って適正体重がわかりにくいこと、体重を測るのも大変なことです。さらに妊娠中ならお腹の胎児の大きさ、食べた餌がお腹にどれだけ入っているかでも体重は変わってしまいます。
そこで酪農の現場でよく使われるのが、ボディコンディションスコア ── BCSとも略される、牛の体脂肪の付き具合を見た目や触感で点数化する評価法。乳牛ではエネルギー状態を推し量る目安として広く使われていますです。腰やお尻まわりを見ながら、体脂肪の蓄積具合を評価します。
一般的な乳牛の方式では、1が非常に痩せている、5が非常に太っているという5段階で、0.25刻みなどで点数をつけます。川上さんは、これを単なる見た目ではなく、牛のエネルギー状態を間接的に見る指標だと位置づけています。
体格差や胎児、お腹の餌の量で変わり、判断しにくい。測るのも大変
腰やお尻まわりの脂肪の付き方で評価。5段階・0.25刻みなど
お尻のね、ちょうど枕っていうところがあるんですけど、そこのプニプニ具合の、その触った時に骨が当たるのか、脂肪に当たるのかみたいなんでも判断したりとかしますね。
太っている牛ほど危ない?分娩前後の厳しい時期
人間の感覚では、牛は多少ふっくらしているほうが栄養状態がよさそうに見えます。ところが乳牛では、太りすぎた状態で分娩を迎えることは、むしろ避けたいのだそうです。
特に問題になるのが、TransitionPeriod ── 日本語では移行期。分娩前後の数週間を指し、妊娠から泌乳へ体が大きく切り替わるため、乳牛の病気が集中しやすい時期とされていますと呼ばれる、分娩前3週間から分娩後3週間ほどの時期です。
この移行期は、分娩が近づくにつれて餌を食べる量が落ちやすくなります。一方で分娩後は、牛乳を作るためのエネルギー需要が一気に増えます。食べる量は落ちるのに必要なエネルギーは急増する、ものすごく厳しい時期だと川上さんは話します。
「脂肪をたっぷり蓄えておけば後で使えるからいいのでは」と思うかもしれません。けれど肥満気味の牛は、分娩前後の乾物摂取量が低くなりやすいことが知られているそうです。乾物とは、餌から水分を除いた、本当に栄養になる部分のことです。
牛が自分の貯金を下ろしてお乳を出しているというような感じですかね。
川上さんによると、多少の体脂肪を使うのは正常です。問題は一気に大量に使うことで、そうなるとケトーシス ── 体脂肪が急激に分解されてケトン体が血中に増える代謝病。乳牛では食欲低下や乳量減少につながり、分娩後に起きやすいとされますや脂肪肝などの代謝トラブルのリスクが高くなります。
分娩前後
肥満気味の牛は乾物摂取量が落ちやすい
分娩後
牛乳を作るエネルギー需要が急増する
体脂肪の動員
足りない分を体脂肪の分解で一気にまかなう
代謝トラブル
ケトーシスや脂肪肝のリスクが高まる
つまり乳牛では、太っていることが「エネルギーに余裕があるから安全」とは限らない、というのが川上さんの説明です。
スコアはいくつが正解?点ではなく線で見る
では、ボディコンディションスコアはいくつが正解なのでしょうか。川上さんは、1つの数字を絶対値にしないほうがいいと答えます。品種や飼い方、評価法、泌乳ステージによっても考え方が違うからです。
川上さんが紹介したペンステートエクステンションの資料では、分娩時はおおむね3.0〜3.5程度が適正域とされています。3.5を超える肥満気味の牛では、摂取量の低下や代謝病のリスクが高まる可能性が指摘されているそうです。
ただ、川上さんが現場でより重視しているのは、1回の数字よりボディコンディションスコアの変化です。3.25だった牛が短期間で2.5まで落ちたら注意が必要ですし、乳量が下がってきた泌乳後期に3.25から3.5、3.75と太っていくのも気になるサインだといいます。
分娩直後と泌乳後期で、餌の考え方はどう変わる?
川上さんは、餌の管理で大事なのは牛のステージによって考え方を変えることだと話します。まず分娩直後の牛に対しては、「太らせたくないから餌を減らそう」とは基本的に考えないそうです。
分娩直後は乳量が急激に増え、必要なエネルギーを餌だけでは十分に補えない時期があります。そのため川上さんは、食べやすい餌、新鮮な餌、十分な水、餌場へ行きやすい環境、暑さのストレスを減らす工夫まで含めて、牛に「食べてもらう」管理をしていくといいます。
一方で、同じ餌を1年中与えればいいわけではありません。乳量は分娩後に増えてピークを迎え、その後徐々に下がります。乳量が下がれば必要なエネルギーも減るので、餌だけ高エネルギーのままだと、余った分が体脂肪として蓄積されて太っていきます。
では太ってしまったら、乾乳期に餌を減らして痩せさせればいいのか。川上さんは、これもあまり理想的ではないと話します。乾乳期は次の分娩に向けて体を整える時期で、大きく太らせも痩せさせもせず、適正なスコアを保つことが推奨されているからです。
そのため、太ってから直すより、泌乳後期から太らせすぎないことが重要だというのが川上さんの考えです。
20キロ食べたら十分?餌は乾物と選び食いで見る
「餌をあげるときに何を気をつけているか」という質問への答えとして、川上さんは、餌は量だけでは見ないと強調します。今日20キロ食べた、というだけでは判断しないそうです。
川上さんが見るのは、乾物でどれだけ食べたかです。さらに餌の水分、繊維が足りているか、エネルギーやタンパク質はどうか、どんな速度で消化されるかまで考えていきます。
川上さんの例では、同じ10キロの餌でも、水分が50%なら乾物は5キロ、水分が70%なら乾物は3キロになります。見た目の餌の重さと、牛が実際に摂っている栄養の量は違うということです。
さらに牛は「選び食い」もします。英語ではフィードソーティングと呼ばれ、細かい配合飼料を先に食べて、長い粗飼料を残してしまうことがあるそうです。
乳牛の混ぜご飯のようなTMR ── Total Mixed Rationの略で、日本語では完全混合飼料。粗飼料や濃厚飼料などを混ぜ合わせ、1回で必要な栄養をとれるようにした餌ですでも、長い粗飼料を残すことで、発酵しやすい炭水化物を予定以上にとり、有効な繊維を予定以下しか食べられないケースがあると研究されているそうです。これはルーメン ── 牛の4つある胃のうち1番目の胃。微生物が餌を発酵・分解する場所で、その酸性度(pH)は消化や健康に大きく関わりますのpHや乳成分にも影響すると川上さんは説明します。
飼槽に何を入れたかよりも、牛が実際に何を食べたか、ここを見る必要があります。
そのため川上さんは、朝に昨日の餌がどう残っているか、長い草だけ残っていないか、食べる勢いや反芻、糞の状態まで見るといいます。そこから乳量や乳成分、ボディコンディションまでつなげていくので、飼料設計表だけで牛を飼うことはできないと話しています。
太った1頭だけ餌を減らせばいい?群れ飼いと平均値の落とし穴
群れの中に1頭だけ太った牛がいたら、その牛だけ餌を半分にすればいい、と考えたくなります。けれど群れで飼う乳牛では、同じ餌場からいろんな牛が食べに来るので、そう簡単ではないと川上さんは話します。
乳量40キロの牛と20キロの牛、分娩したばかりの牛と妊娠後期の牛では、必要な栄養量が全部違います。似た牛ごとにグループ分けする管理が有効ですが、小さな牧場では分けるほど餌の種類も場所も労力も増えるため、栄養学上の理想と現実のバランスを取る必要があるそうです。
川上牧場で意識しているのは、乳量を出すためにとにかく餌を増やす、という考え方にしないことです。特に乳量が落ちてきた牛は、高エネルギーの餌を食べ続けているのに乳として出すエネルギーが減り、体に残りやすくなります。
よく食べているから健康ではなく、食べた栄養がどこへ行っているかまで見る必要があります。
また川上さんは、太った牛を見て「餌の食べ過ぎ」と決めつけないことも大切だといいます。繁殖が遅れて泌乳期間が長くなり、乳量が下がっても餌は食べ続けると、太りやすくなることがあるからです。ボディコンディションスコアは、繁殖管理の問題を映す指標にもなるそうです。
牧場全体で気をつけたいのが平均値です。牛群の平均スコアが3.25でちょうどよく見えても、半分が2.5、半分が3.75なら平均は同じくらいになります。
3.25で、ちょうどよさそうに見える
半分が2.5の痩せすぎ、半分が3.75の太りすぎ
だからこそ川上さんは、痩せすぎや太りすぎの牛が何頭いるか、どの泌乳ステージに偏っているかを見るべきだと話します。平均値だけでは問題が隠れることがある、という考え方は牛群検定でも飼料設計でも同じだそうです。
食べてもらうことと太らせることは別
質問への答えをまとめると、川上さんが意識しているのは、体重だけでなくボディコンディションスコアを見ること、泌乳ステージを見ること、そして置いた量ではなく乾物摂取量と選び食いを確認することです。そこから乳量、乳成分、繁殖、体調までつなげていきます。
分娩直後の牛にはできるだけ食べてもらいたい。でも乳量が落ちてきた牛に必要以上のエネルギーを与え続ければ太りすぎ、次の分娩後に食べられなくなって代謝病のリスクを高めることがある、と川上さんは振り返ります。
だからこそ、痩せさせない、太らせすぎない、急激に変化させないという真ん中をバランスよく狙うのが大事だそうです。
川上さんは、牧場で牛を見る機会があれば、大きさに驚くだけでなく、腰やお尻のあたりを見て「この牛はどれくらいエネルギーを溜めているんだろう」と考えてみてほしいと呼びかけています。
太りやすさは血統でもわかる?遺伝改良とのつながり
ボディコンディションスコアの話は、川上さんの大好きな遺伝改良にもつながります。牛の太りやすさや痩せやすさは、血統情報からもわかるそうです。
太っててもね、全然病気にならない、それがその子の正常だったりみたいなケースもね、あったりするんで。
体質的にぽっちゃりした牛もいれば、骨格がキリッとしたショータイプのような痩せ型の牛もいます。飼料設計、牛群検定の結果、乳成分、ボディコンディション、遺伝情報まで合わせて見ると、牛はめちゃめちゃ面白いと川上さんは話しています。
こうした内容は、川上牧場のKindle本『酪農未経験者のために』の遺伝改良と飼料設計編でも扱っているそうです。
まとめ
乳牛の健康は「たくさん食べさせればいい」では測れません。川上さんは、ボディコンディションスコアの変化と泌乳ステージ、乾物で見た実際の食べ方を組み合わせて、牛ごとにちょうどいい状態を探っています。
- 牛の太り具合は体重より、腰やお尻の脂肪を見るボディコンディションスコアで判断する
- 太りすぎて分娩を迎えると、分娩後に体脂肪を一気に使い代謝病のリスクが高まる
- スコアは1回の数字より、どう変化しているかを「線」で見ることが大事
- 餌は置いた量ではなく、乾物でどれだけ食べたかと選び食いまで確認する
- 牛にたくさん食べてもらうことと、太らせることは別


