10月スタート、餌代の値上げと脱脂粉乳8万トンの重み
この日の配信は10月1日の木曜日。10月は牛乳のイベントが多い忙しい月だと、川上さんはまず意気込みを語ります。最高気温は25度で、残暑が少なくてよかったと話されています。
川上さんのこの日の予定は、牛乳のお届け、定期的に通っている歯医者、そして午後からは地元の小学校の稲刈りのお手伝いです。若手農業者の集まりである農政連が企画したもので、鎌を使って稲を刈る体験だそうです。
一方で、酪農家にとって10月は厳しいスタートでもあります。川上牧場では配合飼料の値段が上がり、年末に向けた脱脂粉乳の在庫解消のための拠出金も増えるため、手取りが一気に減ってしまうといいます。
さらに、牛乳の消費が伸びず長期保存のために作られる脱脂粉乳 ── 牛乳から脂肪分と水分を取り除いて粉末にしたもの。長期保存ができるため、飲まれずに余った生乳の受け皿になりますの在庫が、8万トンを超えたというニュースも紹介されました。
めちゃめちゃ牛乳飲んでください。そして脱脂粉乳の解消もですね、ぜひ皆さんご協力いただけたら嬉しいですね。
川上さんは、牛乳だけでなくヨーグルトもしっかり食べてほしいと呼びかけています。
リスナーからの質問「牛の双子は一卵性?二卵性?」
お便りコーナーで取り上げられたのは、配信アプリSpoonのリスナー、カンシンさんからの質問です。
稀に双子の牛さんが生まれると聞きますが、その双子の牛さんは一卵性または二卵性とどちらが多いですか?また、一卵性の場合、乳量や性格などはそっくりなのでしょうか?
人間なら「一卵性なら顔もそっくり」というイメージがありますよね。川上さんは、牛でも一卵性なら模様や性格、大人になってからの乳量まで同じになるのかが気になるところだろう、と質問を受け止めます。
酪農家の感覚としては、生まれた双子を見て「そっくりだから一卵性だわ」というくらいのテンションだそうです。ところが調べてみると、その感覚とは違う事実が見えてきたといいます。
川上さんが先に示した結論は2つです。牛の双子は圧倒的に二卵性が多いこと。そして、一卵性なら遺伝的にはとてもよく似ているものの、乳量も性格も完全なコピーにはならないということです。
一卵性と二卵性は何が違う?双子の95%が二卵性だった研究
まず、一卵性と二卵性の違いについてです。二卵性は、母牛が1回の排卵のタイミングで2つの卵子を出し、それぞれに別の精子が受精して、2つの受精卵が同時に育つものです。川上さんは、普通の兄弟姉妹がたまたま同時にお腹の中で育っているようなもの、と例えています。
一方の一卵性は、1つの卵子と1つの精子からできた1つの受精卵が、発生の途中で2つに分かれて2頭になるものです。そのため、一卵性の双子は基本的に同じ遺伝情報を持っています。
2つの卵子にそれぞれ別の精子が受精し、2つの受精卵が同時に育つ。普通の兄弟姉妹に近い
1つの受精卵が発生の途中で2つに分かれて2頭になる。基本的に同じ遺伝情報を持つ
では、牛ではどちらが多いのか。川上さんが紹介したのは、ホルスタインの双子107組をDNAで調べた研究です。
ただし川上さんは、世界中すべての牛で必ず4.7%という意味ではなく、品種や集団によって多少違う可能性があると補足しています。それでも、牛の自然な双子は二卵性のほうがずっと多い、という点は押さえておいてよさそうです。
牛に二卵性が多い理由は、牛の体の仕組みにあります。牛は基本的に1回の妊娠で1頭を産む動物ですが、ときどき同じ発情周期で2つの卵胞が排卵する「二重排卵」が起こり、両方が受精すると二卵性の双子になります。
乳牛では、この複数排卵が双子が生まれる主な背景になっていて、双子率は初産の牛より経産牛 ── すでに出産を経験したことのある牛のこと。初めて出産する牛は初産牛と呼ばれますで高くなる傾向も報告されているそうです。反対に、1つの胚が自然に2つに分かれる現象はそれほど頻繁には起きないため、二卵性が多くなるわけです。
見た目で一卵性とわかる?オスとメスの双子に潜むフリーマーチン
白黒模様がものすごく似ている2頭が生まれたら、「これは絶対一卵性でしょう」と思うかもしれません。川上牧場にもそういう双子がいるそうです。
本当にこれはもう一卵性だろうと思ってますけど、(DNAを)調べたことはないんですけどね。
けれど、牛の双子が一卵性かどうかは、見た目だけで確実に判定することはできません。先ほどの研究でも、同じ性別の双子67組のうち一卵性だったのは5組だけ。確実に調べるならDNAを比較する必要があります。
逆に、オスとメスの双子なら、通常は二卵性と考えられます。1つの受精卵から分かれた一卵性なら、染色体上の性も基本的に同じになるからです。
そして、オスとメスの双子には、酪農家にとって大事な問題があります。それが、異性の双子で起こるフリーマーチン ── オスと双子で生まれたメスの牛が、生殖器の発達異常で繁殖能力を持たなくなる現象。牛で特によく知られていますです。
オスとメスの双子がお腹の中で育つと、胎盤を介して2頭のへその緒の血管がつながり、血液や細胞、ホルモンなどの影響がお互いに及ぶことがあります。その結果、メスの生殖器が正常に発達せず、繁殖能力を失うことがあるといいます。
異性の双子を妊娠
オスとメスが同じ子宮の中で育つ
血管がつながる
胎盤を介して2頭のへその緒の血管がつながる
影響が及ぶ
血液や細胞、ホルモンなどの影響がメスに及ぶ
繁殖能力を失う
メスの生殖器が正常に発達せず、不妊になることがある
川上さんによると、オスと双子で生まれたメスの子牛は90%が不妊になるとされ、研究でもそうした結果が出ているそうです。現場では「双子でメスが生まれた、得をした」と単純には喜べず、相方がオスならまずフリーマーチンを疑う必要があります。
フリーマーチンについては以前の配信で詳しく話していて、酪農データバンクで「フリーマーチン」と検索すると見つかる、と案内されています。
同じDNAなら乳量も同じ?設計図とエピジェネティクスの話
質問のもう1つのポイント、一卵性なら乳量も同じになるのか。川上さんの答えは、「似やすいけれど同じにはならない」というものです。
一卵性の双子の牛は、昔から畜産研究でとても重宝されてきました。遺伝的な違いをほぼ消した状態で、餌や飼い方を変えたらどうなるかを比べられるからです。
実際、古い双子の研究では、一卵性双子同士の乳量の差は、別々の双子の組同士の差よりも小さいことが示されています。川上さんは、遺伝子が乳量に影響しているのは間違いない、としたうえで、同じDNAだから同じ乳量になるわけではないと話します。
川上さんは、この点を建物に例えています。一卵性の双子の牛は、ほぼ同じ設計図を持って生まれた2頭。
でも、建てる場所、材料、使われ方、メンテナンス、これが違えばですね、同じ設計図の建物でも20年後は全然違ってきます。これ牛も同じですね。
牛にとっての「建て方」の違いとは、子牛のときの栄養、病気をしたかどうか、暑さのストレスを受けたかどうか、初産の時期、餌、分娩、乳房炎、繁殖、飼育環境などです。一卵性双子を使った乳牛の研究でも、飼育環境を変えることで成長や行動が変わり得ることが調べられているそうです。
さらに一段深い話として、川上さんは最近注目されているエピジェネティクス ── DNAの配列そのものは変えずに、どの遺伝子をどれだけ働かせるかが調整される仕組み。環境や経験の影響を受けて変化しますを紹介します。DNAの文字を変えるのではなく、どの遺伝子を強く働かせるか、働きにくくするかという調整のことで、その代表例がDNAメチル化です。
牛でも、栄養や温度、病気、発生段階の環境などによって、この遺伝子の働き方の調整が変わることがわかっています。一卵性のオス牛を比べた研究でも、同じ遺伝的背景を持ちながら、精子のDNAメチル化や精液の性状に違いが確認されたそうです。
川上さんの言葉を借りると、遺伝子は設計図で、環境や経験はその設計図をどう使うか。エピジェネティクスの有名な例として挙げられたのが、夏場のヒートストレスの影響です。
母牛
夏場にヒートストレスを受けた牛は、牛乳の生産量が落ちる
子牛
その母牛から生まれた子牛も、同じように乳量が落ちてしまう
孫
その影響は孫の代まで続くことがわかっている
性格もそっくり?研究者にとっての「自然の比較実験」
では、一卵性の牛の双子は性格も同じなのでしょうか。川上さんの答えは、そっくりになる可能性はあるけれど、完全に同じにはならない、というものです。
人への反応や搾乳のときのおとなしさ、拘束されたときの反応といった牛の気質には、遺伝的な要素があります。ただ、性格のすべてが遺伝だけで決まるわけではありません。
この2024年の研究では、牛の気質は遺伝だけでなく環境の影響も大きい性質だと示されたそうです。そのため、一卵性でも1頭はすごく人懐っこく、もう1頭は少し警戒心が強い、ということが十分ありえるといいます。
川上さんが挙げた例は、生まれてから人に優しく触られた、病気で何度も治療を受けた、群れの中で強い牛に追い回された、別の牛群へ移った、搾乳を怖い経験として覚えた、といった出来事です。こうした経験は、その後の牛の行動にも関わっていきます。
川上さんは、人間の一卵性双生児を考えてもなんとなくわかりますよね、と話します。同じ遺伝子だから同じ人生になるわけではなく、それは牛も同じだということです。
一卵性の双子の牛は、酪農家にとっては「珍しいな」という存在ですが、研究者にとってはとても貴重な存在です。ほぼ同じ遺伝子を持つ2頭に違う餌を与えたり、違う環境で飼ったりすると、遺伝子の違いでは説明できない部分が見えてくるからです。
ニュージーランドでは、一卵性双子77組を使い、片方だけが妊娠した場合の乳量の変化を比べた研究まであるそうです。妊娠中期以降、妊娠している側の乳量などが変わっていくことが示されました。川上さんは、牛の双子を「自然が作った比較実験みたいな存在」と表現しています。
双子はお得?酪農現場での注意点と、川上牧場に双子の予感
牛が双子を産んだら「1回の出産で2頭生まれてお得じゃん」と思うかもしれません。けれど、酪農の現場では、双子の妊娠や分娩は注意して管理する対象です。
川上さんによると、双子の妊娠には流産や難産、死産のリスクがあり、無事に生まれても母牛の後産停滞 ── 出産後に胎盤などが子宮から自然に出てこない状態。そのままにすると子宮の病気などにつながることがありますなどのリスクが上がることと関連しているそうです。乳牛では双子の妊娠を望ましくないものとして扱う研究もあるといいます。
双子だと2頭が同時に産道へ来て、1頭の前足ともう1頭の後ろ足が一緒に出てくるみたいなこともあります。
だからこそ、妊娠鑑定で双子だとわかっていれば、分娩のときにより注意して見守れます。川上さんは、超音波診断装置で妊娠鑑定をするときは、妊娠の確認だけでなく双子かどうかを見ることも大事だと話しています。
質問への答えを振り返りながら、川上さんは話を育種にもつなげます。ゲノム検査でものすごくいい遺伝能力を持った子牛を作っても、それだけでいい乳牛になるわけではありません。育て方や餌、暑熱対策、繁殖管理、病気の管理、人との接し方のすべてが大事で、いい遺伝子といい環境はセットで考える必要がある、ということです。
もう1つ、牧場でオスとメスの双子を見かけたら、「可愛い双子だな」ではなく「このメスはフリーマーチンの可能性が高い」と思い出してほしい、と川上さんは呼びかけています。
実は川上牧場でも、2週間後くらいに、妊娠鑑定で双子のオスではないかと言われている黒毛和牛の出産を控えているそうです。大きい種なので心配だと話しつつ、途中で片方が育たなくなるパターンもあるため、本当に双子かどうかはまだわからないといいます。
双子を妊娠している牛は栄養の必要量が増えるため、タンパク質やバイパスアミノ酸を増やすといった工夫が必要になるそうです。詳しくは酪農データバンクで「双子」と検索すると以前の配信が見つかる、と案内されていました。
まとめ
牛の双子は圧倒的に二卵性が多く、一卵性はかなり珍しい存在です。そして一卵性でDNAがほぼ同じでも、育つ環境や経験、遺伝子の働き方の違いによって、乳量も性格も少しずつ違ってくる、というのがこの回の答えでした。
- ホルスタインの双子107組を調べた研究では、一卵性は4.7%で、約95%が二卵性だった
- 見た目がそっくりでも一卵性とは限らず、確実に判定するにはDNAの比較が必要
- オスとメスの双子の場合、メスの約90%がフリーマーチンで不妊になるとされる
- 一卵性でも乳量や気質は完全には一致せず、栄養や暑さ、経験、エピジェネティクスの影響を受ける
- 双子の妊娠は流産や難産のリスクがあるため、妊娠鑑定で双子かどうかを確かめて分娩に備えることが大切


