島根の酪農をめぐる危機的な状況
配信はまず、酪農をめぐる現状の話から始まります。指定団体への牛乳出荷量が6ヶ月連続で前年割れとなり、酪農家の件数も生産量も減り続けているといいます。
一方で、一部地域では生産量を伸ばしているところもあり、川上さんは地域格差が大きくなってきていると話します。北海道では指定団体を通さず自分で販売する「アウトサイダー」の動きも影響しているかもしれないとのことです。
7月の暑さの影響で、店頭では「お一人様1パックのみ」や品切れといった状況も出ているそうです。夏休みで学校給食も止まるため、地元の牛乳を飲んでほしいと呼びかけます。
皆さん、本当にあの飲むだけではなくアクションにつなげていただくことをしていかなければ、ちょっとやばい危機的状況になってきてますよ。
川上さん自身の牧場でも、前日に暑さで死んでしまった牛を出したそうです。この夏はこれからさらに厳しくなるのではないかと、運送の人とも話していたと語られています。
今日の質問「農家の子どもはアレルギーが少ない?」
今回の質問は、YouTubeコミュニティのレイニーさんから寄せられたものです。
農家の子どもにはアレルギーなどが少ないという噂を友達(ジェミニ)から聞きました。本当ですか?
川上さんは、ヨーロッパで小さい頃に酪農を体験するとアレルギーや鼻炎が減るという記事を過去に紹介したこともあると触れつつ、まだ研究段階で根拠が曖昧な部分もあると前置きします。
ちなみに川上さん自身の子どもは、仕事場である牛舎にはあまり入れていないそうです。鼻水は出るし季節の変わり目には体調を崩すので、「農家の子どもだから」という実感は特にないと正直に話しています。
農家の子供だからなんだかんだっていうのは、あんまりない気がするんですけども、実際これどうなのかっていうのを、日本だけではなくて、世界各国のやつを調べてきました。
家畜のいる農場で育つ子どもの傾向
調べてみると、これは単なる噂ではなく、家畜のいる農場で幼少期を過ごした子どもは喘息やアレルギーになりにくい傾向があるという研究が複数あるといいます。この現象には名前もあり、「ファームエフェクト(農場効果)」と呼ばれています。
ただし川上さんは、最初に大切な注意点を挙げます。農家の子どもなら誰でもアレルギーにならないわけではなく、稲作や野菜、林業でも同じ効果があるという話でもない、と釘を刺します。
研究で比較的強く示されているのは、単なる田舎暮らしではなく、牛や馬などの家畜がいる伝統的な農場環境で育つことだといいます。
ヨーロッパで行われたパーシフェル研究5カ国約1万5千人の子どもを対象に、農場環境と喘息やアレルギーの関係を調べた大規模な疫学研究とされています。では、農場で育った子どもは、喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、そしてアレルゲンに対するIgE感作が少ない傾向を示したそうです。
つまり、症状が軽いだけでなく、免疫反応の段階から違いが見られたということです。さらに別の分析では、農場の子どもは家庭内でより多様な微生物に触れており、その多様性が高いほど喘息の割合が低いという関連も示されたといいます。
「清潔すぎ」ではなく「微生物の多様性」
ここで川上さんは、「汚い環境にいれば健康になる」という話ではない、と強調します。
かつては衛生仮説清潔になりすぎたためにアレルギーが増えたと説明する考え方です。現在はより正確に、多様な環境微生物との接触の減少が関係していると考えられています。で説明されることがありましたが、現在は少し違う見方になっているといいます。
病原菌ではなく、土や植物、動物、家畜の周辺にいる多様な微生物と幼少期から接することが重要なのではないか、という考え方ですね。
この農場効果を考えるうえで興味深いのが、アメリカのアーミッシュとフッタライトという二つの集団を比べた研究です。遺伝や宗教的な生活文化は近いものの、農業のやり方が大きく違うといいます。
馬を使い、家の近くで家畜を飼い、子どもも日常的に牛舎や納屋の近くで暮らす
機械化された大規模農場で、家畜施設と人の居住空間が離れている
研究では、アーミッシュの子どもはフッタライトの子どもより喘息やアレルギーが明らかに少なく、家庭のホコリに含まれる微生物成分も大きく異なっていたそうです。マウス実験でも、アーミッシュの家庭のホコリにはアレルギー性の気道炎症を抑える作用が確認されたといいます。
なぜ微生物でアレルギーが減るのか
では、なぜ微生物に触れるとアレルギーが少なくなるのか。川上さんはできるだけ簡単に免疫の話を説明していきます。
鼻や気管支の表面には、外から入るものを見張る上皮細胞があります。花粉やダニが入ると、この細胞が警報を鳴らして免疫細胞に知らせるそうです。
ところが、家畜の周辺に多い微生物成分や農場の粉塵に低い濃度で繰り返し触れていると、上皮細胞の中でA20炎症反応のブレーキ役をするとされる仕組みです。マウス実験で、農場の粉塵に触れることで働くことが示されています。という仕組みが働くことが、マウス実験で示されているといいます。
A20、つまり免疫が弱くなるのではなく、反応すべき相手と、過剰反応しなくてよい相手を学習するというイメージですね。
ただし川上さんは注意も添えます。A20の詳しい仕組みは主に細胞やマウスの研究で確かめられたもので、人間の子どもに同じことがどこまで当てはまるかは、まだ研究が続いている段階だといいます。
日本の農家に当てはまる?生乳とペットの話
では酪農家の子どもは本当にアレルギーが少ないのか。川上さんは、欧米の伝統的な酪農環境ではそうした傾向を示す研究がかなり多い、と答えます。
ただし、日本の農家にそのまま当てはまるとは限らないといいます。酪農、畜産、稲作、野菜、果樹、花、林業では環境が全く違い、同じ酪農でも飼い方や換気によって牛舎内の微生物環境は異なるからです。
農家の子供はアレルギーが少ないというより、幼少期に家畜や土壌由来の多様な微生物に継続して触れる生活環境では、特定のアレルギー疾患が少ない傾向がある、という言い方が現時点では正確だと思います。
よく話題になるのが、農場で搾った未殺菌の生乳を飲む子どもはアレルギーが少ないのではという研究です。実際に関連を報告する研究もあり、熱に弱い保護タンパク質などの成分が関係している可能性も指摘されているといいます。
しかし川上さんは、これが今回で最も重要な注意点だと強調します。この研究を理由に、未殺菌の生乳を子どもに飲ませてはいけない、と。
未殺菌牛乳には病原性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ、リステリアなどが含まれる可能性があります。特に5歳未満の子供、妊婦さん、高齢者、免疫機能が低下している人では重篤化する危険があります。
これらは観察研究であって、生乳を飲ませればアレルギーを予防できると証明した実験ではないといいます。研究者が目指すのは、生乳をそのまま飲ませることではなく、有益な成分を特定して感染症の危険をなくした安全な食品や予防法を作ることだと語られています。
もう一つ、日本の研究で興味深いのが犬や猫との暮らしです。環境省のエコチル調査子どもの健康と環境の関係を調べる、環境省による大規模な出生コホート調査です。ここでは約6万6千人の子どもが分析されています。では、胎児期や乳児期から犬や猫と暮らしていた子どもに、3歳までの一部の食物アレルギーが少ない傾向が示されたそうです。
ただし川上さんは、これもアレルギー予防のためにペットを飼うべきと証明した研究ではないと注意します。ペットは10年以上生きる命であり、対策の道具ではなく、最後まで飼える家庭が迎えるべきものだと話しています。
牧場の価値は「予防」ではなく「学び」
ここまで聞くと、免疫のために少し汚く暮らした方がいいのかと思うかもしれませんが、それも違うと川上さんは言います。
自然の多様な微生物に触れることと、感染症を経験させることは別の話だといいます。自然との接触と感染症対策を両立させることが大切だという考え方です。
川上牧場のような酪農体験の価値は、アレルギーを予防できるかどうかにはないと川上さんは語ります。牛の体温や干し草の匂い、餌を食べる音、生き物は思い通りに動かないこと、食べ物は工場だけで作られるのではないこと。そこには免疫研究では測れない学びがあるといいます。
牧場に来ればアレルギーが治りますとは言えません。科学的な可能性と、医療として証明された効果は分けなければいけません。牧場は病院ではなく、牛との触れ合いは治療ではありません。
それでも、人間が自然や動物から離れすぎた生活が免疫や心身にどんな影響を与えているかを考える場所として、牧場には大きな価値があると締めくくります。
最後に川上さんは、酪農ヘルパー時代に、牛乳・牧草・粉塵・牛の毛のアレルギーを持ちながら、夏でも完全防備で作業していた酪農家の息子さんを見たことがあると明かします。農家の子でも、こうしたケースもあるという実感を添えて話を終えました。
まとめ
「農家の子どもはアレルギーが少ない」という話は、根拠のない噂ではなく、家畜のいる伝統的な農場で育った子どもに喘息やアレルギーが少ない傾向を示す研究が複数あります。ただし、すべての農家やすべてのアレルギーに当てはまるわけではなく、確実な予防法として使うにはまだ研究が必要という段階です。
- 重要なのは「農家かどうか」ではなく、幼少期に家畜や土壌由来の多様な微生物に継続して触れる環境かどうかだと考えられている
- これは「清潔すぎ」の問題ではなく、病原菌ではない多様な環境微生物との接触が関係しているという考え方
- 生乳とアレルギーの関連を示す研究はあるが、感染症の危険があるため未殺菌の生乳を子どもに飲ませることは推奨できない
- 自然との接触と、手洗いやワクチン、殺菌などの感染症対策は両立させることが大切
- 牧場の価値はアレルギー予防ではなく、生き物や食べ物を知る学びにあり、牛との触れ合いは治療ではない
