Voicyの相談から始まった、と畜と食育の話
この日は日曜日ということで、いつもの雑談に近いテーマから話が始まります。川上さんが普段よく聴いている音声配信で、ちょっと引っかかる話題があったそうです。
川上さんが聴いているのは、教育やママカフェをテーマに配信している石田勝紀さんの番組。子供が3人いることもあり、子育ての参考にしているといいます。
そして、その考え方は酪農にも生きているのだとか。子牛を育てる時点で参考になる部分がいっぱいあると、意外な角度で活用しているそうです。
これこの角度で聞いてる人はいないと思うんですけど、生かしてもらって本当に面白いなと。
その配信で、リスナーからこんな相談が寄せられていました。
子供の教育の一環で、屠殺するところから見てもらうレストランに誘われましたが、私も見たくないし子供を連れて行きたくないと思っています。ご意見をお願いします。
友人に誘われたのは、と畜したお肉をレストランで提供し、食や命の大切さを伝えるというコンセプトのお店。そこに子供を連れて行くべきか悩んでいる、というお母さんからの質問でした。
石田さんは「子供が見たくない、嫌だと感じるなら見せない方がいい」という回答をされていたそうです。ここに、川上さんは酪農家として自分の考えを重ねていきます。
「見てほしい」と答える理由と、川上牧場の食育活動
川上さんの結論は、石田さんとは少し違います。ただし、押し付けではありません。
そう考える背景には、川上牧場が続けてきた食育活動があります。うちは酪農教育ファーム ── 牧場での体験を通じて食やいのち、産業の大切さを伝える活動をおこなう、認証を受けた牧場のこと。全国に認証牧場があるとして、積極的に食育をやっているのだといいます。
就農1年目に認証を取り、もう15年ほど続けているそうです。地元の小学生や保育園を受け入れて、餌やりや子牛のブラッシング、乳搾りなどを体験してもらっています。
さらに、中学生や高校生のインターンシップも毎年受け入れているとのこと。長く食育に向き合ってきた牧場ならではの視点が、この相談への答えににじみます。
子供たちの目の色が変わる瞬間
体験の最後、川上さんが必ず伝えている言葉があります。それは、この牛たちがどうなるか、という話です。
最後にこの子たちはお肉になって皆さんに食べられて終わります、というのをお伝えしてるんですよね。
保育園の小さな子にはまだ難しいこともあります。けれど小学校高学年や中学生ぐらいになると、子供たちの目の色が変わるのだそうです。
さっきまで「わー」と楽しそうにしていた子が、グッと真剣な顔になる。その表情の変化を、川上さんは何度も見てきました。
というのも、今の子供たちは動画などでいろいろ調べられる一方で、食べ物がどう作られているかを本当に知らないからだといいます。
魚の切り身がそのまま海を泳いでいるとか、牛乳も工業製品だみたいなイメージがあったりする中で、本当に知らない世界なんだなっていうのを改めて知ることになる。
知らない世界に触れたとき、人の心は大きく動きます。川上さんは、元気な大学生がインドに行って自分を見つめ直す、といった例えでその感覚を説明します。
子供も同じで、知らない世界に触れることで世界の見方が変わる。だからこそ、自分が食べているものがどう作られているかを、早めに知ってもらいたいのだといいます。
いきなりと畜はダメ、大事なのは「順序」
ただし、川上さんが何より強調するのが「順序」です。ここが今回の話の核心になります。
まず子牛に触れて、大きな体への怖さを感じつつ、餌をあげる。牛の体温を感じて「生きているんだ」と実感する。そのうえで、最後にお肉になるという話を伝える、という流れが大事だといいます。
だからこそ、いきなりと畜だけを見せるのは避けた方がいい、というのが川上さんの考えです。
屠殺をいきなり一足飛びで行くのは本当にやめた方がいいと思います。学びにもならないし、トラウマにしかならない。
そのたとえがユニークです。順序を飛ばすことを、ゲームにたとえて表現します。
いきなりラスボスに行くようなもんですよ、本当に。レベル1で。
王様から剣をもらって、そのまま魔王を倒しに行くようなもの。それぐらい一足飛びだと、まずいのではないかというわけです。
川上さんは、修学旅行を例に順序の大切さを説明します。長崎や広島、沖縄へ行く前に、歴史的背景を事前学習しますよね、と問いかけます。
事前学習をやってから原爆ドームやひめゆりの塔に行くから、ちゃんと学習できる、受け止められる。あれが食育にも大事だと思うんですよね。
牛がどう飼われ、どうお肉になるのか。それが伝わってからと畜を見る。この順序こそが学びを支えるのだといいます。
体験がもたらす変化と、大人が果たす役割
食育を続けていると、体験した子供たちから学校や保育園を通じて手紙が届くそうです。そこには、うれしい変化がつづられています。
- いただきますの意味がわかり、給食を残さなくなった
- 学校のメダカや金魚の水槽をとても大事にするようになった
- クラスメイトへの接し方が変わった
さらに、牧場でインターンシップをした子が酪農業界へ進んでいった、という経験もあるといいます。成功体験だからかもしれない、と前置きしつつ、川上さんはこう語ります。
もちろん、トラウマになったらどうしよう、お肉が食べられなくなったらどうしよう、という不安はあるはずです。けれど川上さんは、そこにこそ大人の役割があると考えます。
それ以上に得るものを得ることができるように、大人がサポートするのが大事なんじゃないかなと思う。
だから無理に連れて行く必要はない。でも見られるなら見てほしい、というのが川上さんの本音です。親になっても、大人になっても、なかなか見られない場所だからこそ、と話します。
食を大事にすることは、勉強より大切かもしれない
最後に、話は大人へと広がります。そもそも大人でも、牛がどうお肉になるのかを知らない人が多い、と川上さんは指摘します。
個人経営をしていると、いろんな会社の社長と会う機会もあるそうです。そのなかで、食を大事にしていない人を見ると、どうしても引っかかってしまうといいます。
どんなに仕事してどんなにいいことしてるんだろうと思っても、そこがおろそかになってると、やっぱり疑っちゃいますよね、人として。
食を大事にすること。それは、学校の勉強よりもしかしたら大事なことなのかもしれないと、川上さんは自身の考えを語ります。
石田さんの配信のコメント欄を見て、世のお父さんお母さんの食育の捉え方に少し落ち込むところもあったとのこと。だからこそ、酪農教育ファームを一生懸命続けていかないといけないと、あらためて感じた回だったそうです。
まとめ
今回は、子供にと畜を見せるかどうかという相談に、食育を15年続ける酪農家の川上さんが答えました。ポイントは、見せる見せない以前に「順序」を大事にすること。子供の可能性を信じて、大人がどう橋渡しをするかが問われる回でした。
- 川上さんの立場は「見たい人はぜひ見てほしい、見たくない人は見なくていい」
- いきなりと畜を見せるのではなく、子牛にふれ、体温を感じてから伝える順序が大切
- 修学旅行の事前学習のように、背景を知ってから体験することで学びになる
- 食育を体験した子供には、給食を残さない、生き物を大事にするといった変化が生まれる
- 食を大事にすることは、勉強より大切かもしれないと川上さんは語る



