ハプスブルク家の動画から届いた、ちょっと難しい質問
この日のお便りは、いつもと少し角度の違うものでした。AWAネーム山さんから、ハプスブルク家についてのYouTubeを見たという話からの質問です。
外から血を入れない牛さんたちは噛み合わせが悪くなったりしますか?似た血統の牛や豚で育てたら同じ病気が流行ったりするのかなと。全て一つの牧場から取れた牛乳とかもよくありますが、生産という面では非常にリスキーなことなのではと疑問に思いました。
歴史の話から家畜、そして酪農へとつながる問いに、川上さんも「グッとくる、難しい」と反応しています。
よくハプスブルク家から牛につなげて質問、家畜に、酪農に絡めて質問来たなと思いますけども。
この回では、AIと協力しながらこの問いに答えていきます。
カルロス2世に見る、近親婚が残した「人類史の教訓」
まず取り上げられるのは、かつてヨーロッパで大きな権力を握ったハプスブルク家です。その王の一人、スペイン国王カルロス2世は、口が閉じられず歩行も困難という重い障害を抱えていました。
原因は、一族が何世代にもわたって近親婚を繰り返したことにありました。
研究によれば、カルロス2世の近交係数は25.38%。これは親子や兄弟姉妹の間に生まれた子どもと同等以上の血の濃さです。
結果として、顎の突出、発達障害、生殖能力の欠如といった遺伝病のリスクが目立って現れたと説明されています。川上さんも、近親婚を繰り返して領土を広げていた事実には驚いたと話しています。
和牛の近交係数はどのくらい?黒毛和種でも同じことが起きている
では、家畜、とくに黒毛和種ではどうでしょうか。黒毛和種は霜降り肉を作るために長く選抜され、特定の血統を集中的に使った結果、近交係数が高まっていることが問題視されています。
報告によると、和牛の平均近交係数は8%から10%とされ、場合によっては20%を超える個体も存在します。これは人間でいうと、いとこ婚や叔父姪婚に相当するレベルだと説明されています。
その影響として、子牛の虚弱体質、流死産の増加、繁殖能力の低下、免疫力の低下や疾病感受性の上昇などが報告されています。
実際、最近発表された黒毛和牛のランキングでは、トップの牛が親子がけだったと川上さんは指摘します。血の濃さが、いよいよ現場のトップにも表れているという話です。
自然放牧が一番、とは言い切れない理由
「自然放牧が一番」という声もあります。たしかに自然放牧には、ストレス軽減や行動の自由度、健康的な筋肉の発達といったメリットがあります。
ただし、話はそこで終わりません。小さな群れで放牧し、去勢をせずに血縁の雄を繰り返し交配させると、実質的に血の濃い交配が固定化されてしまいます。
これは遺伝病の固定化につながりかねず、川上さんは動物福祉の観点から気になると話しています。
だからこそ、自然が一番という考え方は一理あるけれど、科学的な管理は欠かせないという立場が示されます。ゲノム解析による多様性の確保、人工授精による近交回避、輸入血統との適度な掛け合わせなどの取り組みが進んでいるそうです。
「やばい」って具体的に何が起きる?新しい遺伝病と一極集中のリスク
配信中には「やばいというのは具体的にどんなことが起きそうですか?」というコメントも届きました。川上さんは、現場で起きていることを2つの側面から説明します。
1つは、新しい遺伝病がどんどん出てきていること。もう1つは、ハプロタイプと呼ばれる遺伝子の組み合わせによる問題です。
特定のキャリアを持つ牛どうしを交配させると、受精卵の段階で死んでしまう「早期死滅胚」が起きることがあるといいます。現在わかっているのはハプロタイプ6までですが、技術が進めばさらに見つかるだろうと話されています。
もう1つの懸念が、種の多様性の喪失です。日本の気候はもはや夏が1年の半分ほどを占めるようになりつつあり、暑さに強い牛を残す必要が出てきています。
同じような親から生まれた牛ばかりが揃っていると、気候の変化や新しい病気に弱くなります。ここで、お便りの「一つの牧場から取れた牛乳はリスキーなのでは」という問いにも戻ります。
海外では、鳥インフルエンザが出たときに似た血統の牛が揃っていて病気が一気に蔓延し、牧場が丸ごと潰れてしまう例もあったそうです。優れた家畜を選抜しようとすると、どうしても多様性を保つのが難しくなる、というのが結論です。
血を守ることの難しさと、この回で広がった視野
川上さんは普段から「近交係数を下げた方がいい」と話しています。それでも、優秀な牛ばかりを選んでいると、近交係数は自然に上がってしまうのが難しいところです。
和牛だけでなくホルスタインでも、ゲノムを使って生産性の高い牛を掛け合わせる中で、近交係数は上がってきているといいます。
家畜として優れているものを選ぼうと思って選抜していこうと思うと、それ(多様性の維持)が難しいよっていうのが結論になるのかなと思いますね。
最後に川上さんは、リスナーからのふとした疑問で、畜産酪農の視野がまた広がったと振り返っています。
このリスナーさんからのふとした疑問で、こう畜産酪農の視野がまた広がったかなと思って、自分的にはめちゃめちゃ楽しかったです。
なお、この日紹介された川上牧場初のKindle本「酪農未経験者のために」には、近交係数や牛の交配の話も収録されているとのことです。
まとめ
ハプスブルク家の失敗が教えてくれるのは、血を守るために血を濃くした結果、かえって力を失ったという教訓です。和牛でも同じことが起きつつあり、自然と科学のバランスを取りながら、牛たちの健康と多様性を守っていくことが大切だと語られました。
- カルロス2世の近交係数は25.38%で、近親婚が重い遺伝病を招いた
- 和牛の平均近交係数は8〜10%、20%を超える個体もあり、いとこ婚などに相当する
- 近交が進むと新しい遺伝病やハプロタイプによる早期死滅胚などのリスクが出る
- 似た血統の牛が揃うと気候変化や病気に弱く、一極集中はリスクが高い
- 自然放牧も科学的管理なしでは血が濃くなり、多様性を守る工夫が欠かせない

