そもそも「酪農ヘルパー」ってどんな仕事?
今回のテーマは「酪農ヘルパー」。研修生さんは、この仕事があること自体を川上牧場に来て初めて知ったそうです。
職業があるのはここ来て知りました。Twitterとかで牛さん載せている方とかで、プロフィールに酪農ヘルパーみたいな。
酪農ヘルパーとは、休みのない酪農家に休日を与えるために作られた組織のこと。川上さんが説明します。
川上さんのおじいさんやお父さんの代では、近所の牧場同士が交代で助け合う形が主流でした。島根県の山側では、今もそのやり方が残っているそうです。
資格はいる?どこに所属して働くの?
酪農ヘルパーを利用するには「酪農ヘルパー協会」があり、そこを通して派遣してもらう形が基本です。ただし所属先は地域によって違います。
島根県の出雲地域では、以前あった島根乳酪の酪農ヘルパー組織がJAと合併したため、今はJAの職員という立場になっているそうです。
働く側に特別な資格はいりませんが、全国組織による1ヶ月ほどの研修があります。研修を受ければ、いろんな牧場で働けるように斡旋してもらえる仕組みです。
アルバイトと違うところは、その研修を受けているので、どこかに所属しているという感じですか?
そうですね。酪農ヘルパーさんなら、抗生剤を間違えて絞ってしまったり重機をぶつけてしまったときも、全国組織の補償があります。一方で個人のヘルパーさんにはそれがなく、事故時の負担をめぐって酪農家と話し合いになる場合もあるそうです。
派遣のしくみと、雇う側のお財布事情
派遣は基本的に1ヶ月前に希望日を伝える形です。川上さんの組合では5人のヘルパーが日々いろんな牧場をルーティンで回っています。
急な不幸や冠婚葬祭でヘルパーが必要になったときは、その日を休みにしていた人同士で譲り合うそうです。
気になるのは、雇う側のコスト。従業員を雇うのとヘルパーを使うのとでは、どちらが安いのでしょうか。
バイトの方が、従業員の方が圧倒的に安い。安いし、ずっとそこにいるから全部分かってるでしょ。だけど、従業員を雇うほどでもない規模の人が使う。
その分かれ目の目安は、搾乳牛100頭あたり。家族経営のギリギリのラインがうちぐらいで、川上牧場自身がちょうどヘルパーを使うか従業員を雇うか迷う規模だといいます。
ちなみに川上牧場の牛は、搾乳牛が52頭、赤ちゃんも含めると80頭ほど。乾乳中の牛は専用の牛舎で過ごすため、搾乳牛だけをできるだけ多く保ちたいという話につながっていきます。
一級河川と漁業組合、立場が弱い酪農家
搾乳牛を増やしたい川上さんですが、増やせない事情もあります。牧場のそばには一級河川が流れているのです。
この川は国土交通省の管轄で、下流には政治的にも力を持つ大きな漁業組合があります。少しでも汚れが出ると、すぐ圧力がかかるといいます。
お父さんの代には河川敷で牧草やトウモロコシを育て、収量を上げるために堆肥を撒いていました。ところが、それが土壌汚染だと激しく抗議されたことがあったそうです。
自分たちのところの収量が減ったりとかすると、全部酪農家のせいとか、そういうのになっちゃうんで。そう、立場が弱いんですよ。
月29日働いて手取り35万、北海道の夢のために
川上さん自身、実は酪農ヘルパーを2年半やっていた経験があります。仕事としては「すごい素晴らしい仕事」だと振り返ります。
報酬は日給月給のような形で、出れば出るほどもらえる仕組み。休みをいらないと言って働けば、かなり稼げるそうです。
僕が二十歳の入ったばっかりの時に月29日働いた時に、35万もらった。手取りで。
時間帯によっては、搾乳を「はしご」することもできます。朝に1件、昼に自給飼料の手伝い、夕方にまた別の牧場、といった働き方です。
これだけ働いたのには理由がありました。川上さんは高校生の頃から、北海道で牧場を居抜きで始める夢を持っていて、その頭金を貯めていたのです。
もう高校生ぐらいからそういうのを考えてたんで。だから2年半で300万ぐらい貯めたんだよね。
ところがその300万円は、全部結婚式で消えたとのこと。結婚式や出産の準備であっという間になくなったと笑いますが、それだけ稼げる仕事だという証しでもあります。
旅しながら働く「おてつたび」という選択肢
自分が酪農家でなくても酪農に関われるのが、この仕事の面白いところ。関連して川上さんが挙げたのが「おてつたび」というサービスです。
旅先で人手が欲しい仕事とマッチングする仕組みで、沖縄のホテルや農業などで働きながら、一宿一飯とお金をもらって旅ができるといいます。
冬になったら沖縄行って、夏になったら北海道行ってみたいな。もうずっと居住地なしでやってる人もいるよ。
バズる酪農の話題と、見えにくい補助金の話
話題は、研修生さんがSNSで見かける酪農家の投稿へ。飼料費の高騰を訴えるツイートがバズっていたといいます。
飼料費がどんどん上がってってみたいな。「この国は一次産業何だと思ってんだ」みたいな感じで、めっちゃバズってましたね。
これに対する川上さんの見方は、少し辛口です。バズっても何も変わらないし、業界は利権の塊だと感じていると話します。
その理由として挙げるのが、第一次産業は他国と比べても遜色ないほど支援されているという点。個人に実感がないだけで、全体としては多くの補助金が入っているといいます。
ほかにも牛乳の流通費や、脱脂粉乳の保存、流通安定のための費用など、さまざまな場面に補助金が入っているそうです。酪農ヘルパー組織も国から補助を受けています。
動くお金が大きいぶん、農家一人を助けた方が票になるという構図があり、JAの組織票は強いのだと川上さんは説明します。
「使ってやってる」と言われる、大変な仕事
素晴らしい仕事である一方、酪農ヘルパーには人間関係の難しさもあります。「使ってやっている」と思っている酪農家も少なくないそうです。
牧場ごとにやり方が違うのも大変なところ。ディッピングをしない牧場や、前絞りをすると乳が出ないからしないでほしいという牧場もあり、そのたびに戸惑うといいます。
なんで酪農ヘルパーはいろんなところに行って勉強してるはずなのに、こんなこともできないんだって、めっちゃ言われましたね。
一方で、久しぶりに人が来たと喜んでお菓子やご飯をふるまってくれる牧場もあるそうです。仕事の時間より、お母さんと話す時間の方が長いことも。
お茶するのが仕事だからって、先輩に言われたことがある。
大変さもやりがいもある仕事として、川上さんは興味がある人にぜひ見てほしいと締めくくりました。
まとめ
酪農ヘルパーは、休みのない酪農家に休日を届ける仕事。川上さん自身の2年半の経験を通して、稼ぎ方から人間関係の難しさ、そして業界を支える補助金の実態まで、酪農の裏側がぎゅっと詰まった回でした。
- 酪農ヘルパーは365日休めない酪農家に休日を与えるために生まれた仕組み
- 資格は不要だが全国組織の研修があり、事故時の補償の有無で個人と組織に差がある
- 川上さんは2年半で約300万円を貯め、月29日働いて手取り35万を得たことも
- 搾乳牛を増やしたくても、一級河川と漁業組合との関係で立場が弱いという事情がある
- 第一次産業は補助金で広く支えられており、動くお金の大きさが組織票の強さにつながっている

