なぜいま、アメリカのクリエイターはライブ配信に振るのか
宮武さんによると、アメリカではここ1〜2年でライブ配信が大きく流行し、特に去年は「全クリエイターがライブ配信に振る」ほどの勢いだったといいます。
ライブ配信はもともとTwitch ── Amazon傘下のライブ配信プラットフォーム。ゲーム実況を中心に広がり、視聴者がチャットや投げ銭で配信者と交流できる仕組みが特徴ですやYouTubeでのゲーム配信が中心でした。最近はゲーム以外の配信にも広がっている点が特徴だと、宮武さんは説明します。
ゴリさんは、事前収録のコンテンツにはないライブ配信の魅力として、コメントや反応、スパチャといった独自の収益スタイルを挙げます。そのうえで、失敗できないリスクと引き換えに得られる「作られていないリアルさ」に価値を見ています。
ライブって失敗しちゃいけないリスクみたいなのがあるんですけど、でもその代わりにやっぱりこう、なんかリアル、作られてないみたいなのがやっぱあって、それはすごいいいなって思う。
ゴリさんは、前回話したAIの時代だからこそ、こうしたリアルさに若者が魅力を感じているのではないかと話します。日本でもライブは徐々に増えている感覚があるそうです。
宮武さんが重視するのは、配信者と視聴者の関係性です。TikTokやYouTube、ポッドキャストと違い、ライブ配信ではお互いがリアルタイムでその場にいるため、チャットでのやりとりを通じて親密な関係になりやすいといいます。
大手配信者の大量のコメントをどう読んでいるのかというゴリさんの疑問に、宮武さんは、専用フィードや裏で動くモデレーターが良いコメントを拾っていると答えています。
宮武さんは、チャットと向き合う力は新しいスキルセットであり、YouTuberがすぐ人気ライブ配信者になれるわけではないと指摘します。世界一のYouTuberであるMrBeastもライブ配信を始めていますが、宮武さんの感想としては「ちょっとぎこちない」そうです。
多分作られた世界観を演じきるのが得意な方なのかなっていう気がしますし。
MrBeastの名前が挙がらなくなった理由とIShowSpeedの素顔
宮武さんが2〜3年前にアメリカのクリエイターに話を聞くと、全員がMrBeastを世界一だと答えていました。ところが去年あらためて聞いたときには、MrBeastの名前が挙がらなくなっていたといいます。
MrBeastはYouTubeだけで登録者5億人を抱える存在です。それでも、いまカルチャーに最も影響を与えているクリエイターとして名前が挙がるのは、IShowSpeedとKai Cenatという2人のライブ配信者だと宮武さんは話します。
ゴリさんは以前からIShowSpeedの配信をちょこちょこ見ていて、Kai Cenatは2人のコラボなどで最近見るようになった程度だそうです。個人的にはIShowSpeedの動画と配信のほうが見やすく好みだといいます。
宮武さんは、日本ではワールドカップやミームを通じてIShowSpeedを知った人も多いのではないかと話します。反応が大げさでうまく、それがミーム化されやすい人物です。
IShowSpeedはゲーマーであり、アニメ好きでもあり、リアルな場での配信でも人気を集めています。宮武さんによると、ワールドカップではFIFAのプレジデントから直々に依頼されて配信することになったそうです。
彼は運動能力がわけわからんレベルで高いので。
宮武さんも「プロアスリートレベル」と応じ、ゴリさんはエネルギーと毎回の反応のよさがIShowSpeedの引き込まれる理由だと話します。さらに歌も歌い、ワールドカップ決勝のハーフタイムショーで歌ったり、テーマ曲の一つに選ばれたりしているといいます。YouTubeの登録者は最近6000万人を突破したそうです。
IRL配信で国が動く。IShowSpeedのツアーと中国の印象の変化
宮武さんは、IShowSpeedとKai Cenatの大きな共通点としてIRL ── In Real Lifeの略。ゲーム画面ではなく、街歩きや旅行、日常生活など現実の場面をそのまま中継する配信ジャンルを指します配信を挙げます。外に出ていろんな場所を回り、その様子をリアルタイムで配信しながら、反応したり人と話したりするスタイルです。
IShowSpeedがよく行う企画が各国を巡るツアーです。去年はヨーロッパを回り、アメリカでは1日1州のペースで移動するなど、おおむね30日間の企画として、各地の食べ物や人との出会いを視聴者と一緒に体験していきます。
作られた世界観じゃない、ライブ配信だからこそ、余計なエフェクトも何もなく、もうとにかくその場をどんどんどんどん撮って配信してるっていう感じがいい。
宮武さんは、IShowSpeedのツアーは現地の人にとって「本当に会いに行ける」ことがコンセプトとして大きいと話します。IShowSpeedが国を回るときは、常にファンが周りを囲み、ずっとついていくそうです。
影響は国にまで及んでいます。宮武さんによると、去年のヨーロッパツアーでは、いくつかの国がフライトやホテル代を出して「うちの国に来てください」と依頼したといいます。
裏ではIShowSpeedのチームが各国のセレブに連絡し、企画を入れているそうです。ギリシャでは有名なNBA選手と話す場面があったといいます。
宮武さんが印象的な例として挙げたのが中国での配信です。アメリカ人クリエイターが中国で配信するケースが少ないなか、IShowSpeedは毎日配信を続け、新しい車やテクノロジー、伝統的な体験を紹介しました。中国側は喜び、「スピードさんありがとう」という野外広告まで出したそうです。
ある種クリエイターが国境を超えて、政治のいろんなしがらみを超えて、なんか平和をもたらすっていう、なんかすごい素敵なストーリーですね。
宮武さんによると、この配信をきっかけに多くのアメリカのインフルエンサーが中国へ行くようになりました。古い国、発展していない国といったアメリカ人の思い込みが、想定以上に違ったことで変わったといいます。
ゴリさんは、ライブ配信だからこそ「リアルでそのままの状態を見ている」という安心感が印象の変化につながったと受け止めます。宮武さんも、フェイクなら配信中にバレるはずだと同意しています。
企画型のKai Cenatは何が違うのか
宮武さんは、その場で自然に行動するIShowSpeedと対照的な存在としてKai Cenatを紹介します。Kai Cenatはより企画型の配信者だといいます。
大きな企画より、その場でのリアルタイムな反応や自然な行動が面白さの中心。各国ツアーなどのIRL配信が得意
決まった期間に30日間・7日間・5日間といった単位で配信する企画型。多くのセレブが出演する
Kai Cenatの代表的な企画が、30日間カメラを一切切らずに配信し続ける「Mafiathon」です。豪邸を借り、100台以上のカメラを設置して、常にライブ配信を続ける状態を保ったといいます。
宮武さん自身は配信を通しで見たわけではなく、主に切り抜きで追っていたそうです。宮武さんによると、Mafiathon 3は3.4億回再生、9000万時間視聴されました。
期間中には多くのセレブが出演し、寝起きドッキリでエド・シーランが登場したり、セレーナ・ゴメス、トニー・ホーク、ジョナス・ブラザーズなども出たといいます。
Kai Cenatは去年と今年、「Streamer University」という配信者向けの教育プログラムも開いています。今回は5日間で、大学を貸し切り、トップ配信者と次に来そうな若手を集めて教え合う企画だったそうです。
宮武さんは、多くの配信者を呼ぶことで、それぞれがその企画について配信し、さらに反応する配信者やYouTuberも現れるため、人気が広がっていく構造があると説明します。
切り抜きが届ける、本編を見ていないファンの存在
宮武さんは、ライブ配信が伸びたもう一つの理由として切り抜き動画を挙げます。長時間の配信を常に見ることはできないため、切り抜いてTikTokなどのショート動画として届けるのが鍵だといいます。
宮武さんによると、切り抜きには、配信者自身が出すパターン、外部に頼むパターン、視聴者が勝手に作るパターンの3つがあるそうです。
長時間のライブ配信
常に見ることはできず、見るには集中が必要
切り抜き
配信者自身、外部、視聴者がハイライトを切り出す
ショート動画で拡散
TikTokやYouTubeショーツで多くの人に届く
切り抜き文化の起源を尋ねたゴリさんに、宮武さんは、YouTubeの時代やビデオポッドキャストで、5分程度の切り抜きを別動画として出していた流れがそのまま広がったと答えています。
ゴリさんは、切り抜きを見てフル版を見ようと思っても、長すぎて見られないことが多いと打ち明けます。宮武さんはこれを大事なポイントだとし、ライブ配信そのものを見た人は実はあまりいないと指摘します。
僕もKaiCenatさんの動画めちゃくちゃ見てますけど、基本切り抜きとして見てるので、でもそれによってそれをいっぱい見ると、彼が今こういうことをやってるんだっていうのが分かったりする。
ゴリさんは、長尺の本体を小さく刻んで出す構造は、2ちゃんねるとまとめサイトの関係と同じだと話します。宮武さんも「全く同じ」と応じ、以前は成立しにくかった仕組みが、TikTokやYouTubeショーツによって成立しやすくなったと説明します。
OpenAIが買収したTBPNは、なぜ7,000人の視聴で成り立つのか
宮武さんによると、ライブ配信はIShowSpeedやKai Cenatのような消費者向けにとどまらず、アメリカではBtoBの領域にも広がっています。その例が、OpenAIに買収されたテック系ライブ番組「TBPN」です。
TBPNは2人の連続起業家が立ち上げた番組で、当日のニュースや資金調達を発表した起業家、VCへのインタビューを扱います。買収額は噂では数百ミリオンドルとされているそうです。
宮武さんは、ライブ配信の視聴者数と切り抜きの再生数を組み合わせることで、面白い媒体になると話します。切り抜きの最後には必ず広告が入っており、スポンサーに対して7,000人以上に届いていると説明できるといいます。
さらに、TBPNは経営者向けの番組で、お金を持ち判断できる層に届いています。母数は少なくても視聴者の質が高いため、より高値の広告を受けられるというのが宮武さんの見立てです。
『セヴェランス』の体験型プロモーションと「その場にいた」価値
宮武さんは、ブランドもライブやオフラインの企画を取り入れる傾向にあると話します。例として挙げたのが、Appleがドラマ『セヴェランス』を宣伝した際、ニューヨークのグランドセントラル駅にセットを置き、役者が演じる姿を見せたポップアップ企画です。
宮武さんによると、こうしたライブイベントはこれまでコスパが悪いとされてきましたが、その前提が変わってきたといいます。
手間がかかり、コスパが悪いとされていた
親密で共感を生む体験を作りやすく、視聴者がスマホで切り抜きを共有して広げてくれる
ゴリさんは、儲からず大変だった構造がひっくり返ってきたのは、クリエイターにも企業にもいい話だと受け止めます。そのうえで、ライブ配信の魅力として「その時じゃないと見られない」期間限定感を挙げます。
ライブ配信だとなんか見とかなきゃみたいな。
宮武さんも、ライブ配信のアーカイブはあまり見られないと同意します。ゴリさんは中学生のころ、翌日学校で話題にするため音楽番組を見ていた体験を重ね、ライブ配信では視聴者同士だけでなく配信者にも声を届けられ、うまくいけば拾ってもらえる点が魅力だと話します。
宮武さんはさらに、その場に行ける人が限られているからこそ、参加したこと自体がステータスになると付け加えます。音楽の伝説的なコンサートに行けた人が、コミュニティの中で一目置かれるのと同じ構造だといいます。
最後に宮武さんは、インターネットやテックは摩擦をなくす方向に進んできたものの、あえて摩擦を作ることで人間味が出ると話します。時間をあえて使う、スピードアップではなくスローダウンするという考え方は、AI時代だからこそ需要が高まっているのではないかと締めくくりました。
まとめ
この回では、IShowSpeedとKai Cenatを中心に、アメリカでライブ配信がカルチャーの中心になりつつある様子が語られました。リアルタイムの親密さ、切り抜きによる拡散、その場にいたことの価値が重なり、AI時代にあえて不完全なライブが求められていると考えられます。
- ライブ配信は視聴者とリアルタイムでつながるため親密な関係を作りやすく、チャットと向き合う新しいスキルが求められる
- IShowSpeedのIRL配信は国から招待されるほどの影響力を持ち、中国配信はアメリカ人の中国観を変えたと話されている
- Kai CenatはMafiathonやStreamer Universityなどの企画型配信で、多くのセレブや配信者を巻き込んでいる
- ライブ本編を見る人は少なく、切り抜きが広く届ける役割を担う。TBPNのようにBtoBでも成り立つ形が生まれている
- 期間限定感と「その場にいた」ステータスが、AI時代にライブの価値を高めている







