YouTuberが監督した映画がなぜアメリカで話題なのか
アメリカでは最近、人気を集めているハリウッド映画の監督がYouTuberであるケースが続いており、宮武さんによると業界内で議論になっています。偶然なのかどうかも含めて話題になっていて、危機感を抱く人もいるといいます。
narumiさんは月に1本ほど映画館に足を運ぶそうで、この回のテーマに合わせて、YouTuber出身のCurry Barker監督によるホラー映画『Obsession』を観てきました。
めちゃくちゃ怖かったですね。
ホラーあんま苦手なんですけど、怖いの。ちょっと勇気出して見に行ったんですけど、やはりめちゃめちゃ怖いです。
宮武さんは、YouTuber監督の映画で特に有名になったのが『Obsession』と『Backrooms』だと紹介します。『Backrooms』はYouTuberのKane Parsonsさんが手がけた作品で、日本にもこれから上陸する見込みだといいます。
宮武さんによると、Kane Parsonsさんは21歳、Curry Barkerさんは26歳です。narumiさんは、映画を1本任される監督は本来40〜50代が多いはずなのに、その半分ほどの年齢で重責を担えるところまで来ていることに驚いていました。
全員若いんですよね。
俳優を演出するという初めての壁
narumiさんは『Obsession』を観たあとにWikipediaを調べ、Curry Barker監督が撮影で苦労した話を知ったそうです。映画監督の経験がなかったため、特に演技指導に苦労したと書かれていたといいます。
宮武さんはこの点を、YouTuber監督に共通する課題として受け止めます。これまでのYouTube動画では本人が出演するパターンがほとんどでしたが、『Obsession』でも『Backrooms』でも、監督自身は出演せず、他の人に指示を出す立場になりました。
プロの役者を呼んで、その演出をつけるっていうところがむずみたいなことが書いてあって、面白いなと思いました。普通に。
低予算ホラーが生む驚異的なリターン
宮武さんは、『Obsession』の製作予算が100万ドル以下、日本円で1.5億〜1.6億円ほどだったと紹介します。それに対して、宮武さんが最後に確認した時点の売り上げは4億7400万ドルで、円換算では700億円を超えていました。
narumiさんは低予算と聞いてB級の笑える映画を想像していたものの、実際は低予算を感じさせない完成度の高い、普通に怖い映画だったと話します。一方で、出演者の人数が多くなく、ストーリーもシンプルなところに工夫を感じたといいます。
『Backrooms』の予算は1000万ドルほど、15億〜16億円ほどで、宮武さんが最後に確認した時点の映画収入は3億9000万ドル、610億円ほどでした。
narumiさんは、YouTuberを監督に起用すると予算が低くなりがちなのかと尋ねます。宮武さんの答えは、もともとYouTuber側が考えた企画に映画スタジオが途中から乗って予算を出している例であり、むしろホラーというジャンル自体が低予算になりやすいというものでした。
宮武さんは、ホラーはCGをあまり使わないうえ、歴史的にもパラノーマル・アクティビティ ── 2007年に公開されたアメリカのホラー映画。家庭用カメラで撮影した体裁の作品で、極めて少ない製作費から世界的なヒットになりましたのように超低予算で大ヒットした例があると説明します。そのため、ヒットの理由がホラーだからなのか、YouTuberだからなのかは見分けにくくなっているとも述べています。
Markiplierの『Iron Lung』はファンの電話で全国公開へ
宮武さんは、今年YouTuberが作ってヒットした映画として、もう1本『Iron Lung』を挙げます。日本には上陸していませんが、アメリカではYouTubeでお金を払って映画を観られる仕組みでも視聴できるそうです。
『Iron Lung』は、YouTuberのMarkiplierさんが300万ドル、4億〜5億円ほどの予算で作り、5000万ドル、80億円ほどの映画収入を上げました。
宮武さんによると、『Iron Lung』が特殊なのは完全な独立型だった点です。『Backrooms』や『Obsession』の背後にはA24 ── インディペンデント映画で知られるアメリカの映画会社。作家性の強い作品やホラー映画のヒット作を多く手がけていますやBlumhouse ── 低予算ホラーを多く製作するアメリカの映画会社。『パラノーマル・アクティビティ』の配給・展開にも関わりましたといった有名な映画スタジオがいましたが、『Iron Lung』はYouTuberの力だけで映画館に働きかけて成功しました。
narumiさんがなぜ1人のYouTuberにそれが可能なのかと尋ねると、宮武さんは2つの理由を挙げます。MarkiplierさんのYouTube登録者が3900万人ほどいること、そして『Iron Lung』がもともとビデオゲーム発のIPで、すでにファンがついていたことです。
自主制作
Markiplierさんが自分でお金を出して作り、ディストリビューターと公開
当初50館
最初は50か所ほどの映画館だけで公開する予定だった
ファンが電話
観に行けないファンに、各地の映画館へ上映を頼む電話を呼びかけた
4000館
最終的にアメリカの4000館で上映された
彼のファンに声をかけて、いろんな映画館に電話してくださいと。この映画を出してくださいと。
そんなのが本当に効くんですね。
効くらしいです。
narumiさんは、SNSやYouTubeで数千万人規模のフォロワーがいて、いいものを作れれば全国上映できる状況になりつつあると受け止めます。宮武さんも、こうした事例はこれから増えていくと見ています。3作の成功を受けてハリウッドも動き始め、次のIPと次のYouTuber監督を探しに行っているといいます。
映画館で公開し、15分足して再上映する売り方
narumiさんは、YouTubeで成功しているのなら、映画館の仕組みを捨ててYouTubeだけで無料公開する道はないのかと尋ねます。宮武さんは、そうする人もいるとしたうえで、特にZ世代の若い人たちは映画館に行きたがるのだと答えます。
結構それ(映画館での公開)でコミュニティ作りの一環として映画館で出すっていうことは皆さんやってるのかなと思っていて。
宮武さんが面白い動きとして紹介するのが『Backrooms』の再上映です。映画館で公開したあと動画配信サービスなどに出し、その後、これまで使っていなかったシーンを15分加えて、もう一度映画館で公開したそうです。
narumiさんは、ホラー映画は一度観ると2回目を観る機会があまりないのに、おまけを付けることで2回目があり得るようになると感心します。宮武さんは、この仕組みを見て他の映画IPもやり出すのではないかと予想します。
narumiさんが、それなら最初から全部見せてほしいとこぼすと、宮武さんはフルバージョン、15分追加版、場合によってはコメンタリー付き版など、複数のバージョンを作って何度か上映するパターンが考えられると話しました。
ET以来の快挙となった『Obsession』の興行
宮武さんによると、アメリカでは映画の興行収入は公開初週の週末が最大になるのが普通です。ところが『Obsession』は2週目、3週目と収入が上がり続けました。
宮武さんは、ホリデー映画以外で3週連続でそれを成し遂げたのは1982年以来、44年ぶりだったと紹介します。その1982年の映画が『E.T.』でした。
ET以来の快挙を成し遂げたのが、あのオブセッション。
宮武さんが恋人役の女優の評判について尋ねると、narumiさんは、生真面目な若い主人公を食ってしまうほどのインパクトだったと話します。いろんな理由で錯乱し、おかしくなっていく様子を見事に演じていて、それが怖さにつながっていたといいます。
宮武さんによると、この女優は出始めの頃で、多くの人が『Obsession』で初めて知った存在です。低予算映画なので給料も多くはなかったはずですが、一気に人気になってレイトナイトショーやテレビに呼ばれ、最近ではマーベル作品にも起用されたといいます。
監督たちも引っ張りだこになっていて、『Obsession』の監督は次の映画もすでに決まり、かなりの予算が付いているそうです。宮武さんは、ここが今とても注目されている領域だと見ています。
1枚の画像から生まれた「The Backrooms」とは?
narumiさんが日本未公開の『Backrooms』について尋ねると、宮武さんは少し特殊なIPだと説明します。もともとはインターネットのフォーラムで生まれた、いわゆる伝説話のようなものだったといいます。
宮武さんによると、「The Backrooms」は2019年に生まれました。アメリカの4chan ── アメリカの匿名画像掲示板。日本の「ふたば☆ちゃんねる」を参考に作られ、ネットミームの発信源として知られていますにあるパラノーマルをテーマにしたフォーラムに、ウィスコンシン州の影屋さんの写真が投稿されたのが始まりです。
その写真に対して、あるユーザーが画像から考えたバックルームズのコンセプトを返信し、そこからストーリーが生まれました。その後、ネットのファンたちが「こうなっているのではないか」と仮説や設定を出し合い、世界観ができあがっていったといいます。
一枚の写真について、みんなあーだこうだコメントして、いろんな設定を言い合ってたら、それが作品っぽくなってしまったという。
宮武さんによると、そのファンの1人が今回の監督でした。当時16歳ほどだったKane Parsonsさんがバックルームズに関するYouTube動画を出したところ人気になり、シリーズを重ねてさらに人気を集め、ついに映画化に至りました。
narumiさんは、明確な原作者がいるわけではなく、コミュニティの手でできたものだと整理し、電車男 ── 2004年に匿名掲示板「2ちゃんねる」の書き込みから生まれた物語。書籍化され、映画やドラマにもなりましたのようなものかとたとえます。宮武さんもその見立てに同意しています。
ハリウッドはなぜYouTuberを探しに行くのか
宮武さんによると、ホラー系にはインターネットから生まれたIPがいくつかあり、『Backrooms』の成功を受けて、他のネット発IPを探すハリウッド企業が増えているといいます。
その中にYOUTUBERがいたら監督させてもしかしたらヒットするかもと。
コケても安いしっかなみたいな。
宮武さんは、ハリウッドだけでなく動画配信プラットフォームもYouTuberやクリエイターに注目していると話します。世界一のYouTuberとされるミスタービースト ── アメリカのYouTuber。大規模な企画動画で知られ、YouTube登録者数で世界トップクラスの人気を持ちますはAmazonプライムと提携して番組『Beast Games』を出し、NetflixもさまざまなYouTuberと提携して番組を配信しているといいます。
narumiさんは、世の中には巨匠と呼ばれる映画監督もいるのに、なぜYouTubeからクリエイターを探す必要があるのかと問いかけます。宮武さんの答えは2つにまとまります。
YouTuber本人のファンやネット発IPのファンが観に来るので、ある程度の観客を確保でき、失敗しにくい
競争の激しいYouTubeで、1秒1秒人の注目を得る争いをしてきたので、動画作りに慣れている
ゆっくり席座って二時間見てくれることが保証されていない世界だから、アテンションを一秒目でつかむ能力に長けてるみたいな。
ただし宮武さんは、この強みには良し悪しがあると言います。映画の良さには、ペースを落としたりストーリー性を高めたりする部分もあり、YouTuberは他の映画監督やハリウッドの人たちと比べると、まだそこが弱いかもしれないので、これから強化していく必要があると話しています。
「Siren Head」「The Mandela Catalogue」争奪戦とミームの権利
宮武さんは、ネット発IPの争奪戦の例として「Siren Head」を挙げます。ホラーミームから始まり、TikTokやYouTube、Roblox ── ユーザーが作ったゲームを遊べるオンラインプラットフォーム。若い世代に人気があり、ここから流行するキャラクターや怖い話もありますで人気だったIPです。
宮武さんによると、5つの映画スタジオが「Siren Head」の権利を競い合い、最終的にはおそらくワーナー・ブラザースが勝ち取りました。YouTubeで流されていたホラーフランチャイズ「The Mandela Catalogue」には11社が名乗りを上げ、おそらくAmazonが勝ち取ったといいます。
narumiさんは、ネットミームを映画会社が競り合うとき、誰からどう買えばいいのかと疑問を投げかけます。宮武さんは、元のミームにはおそらく権利がないので、例えばYouTubeでシリーズを作っている人にお金を出せばよいのではないかと考えています。
今後もしかしたらそのインターネットのファンの人たちがちょっと嫌がるかもしれないですけどね。なんかそこを自分たちが作り上げたIP。
俺たちがやってるところに大手が来たねみたいなのは割とね、ありますよね。
日本でもYouTuber監督は生まれるのか
narumiさんが、日本でも同じことが起きるのかと尋ねると、宮武さんは出てきてほしいと答えます。アメリカではまだホラーが中心なので、日本でもまずはホラーのようなジャンルからかもしれないと見ています。
いろんないいネタが多分転がってると思うので、そこをわざわざ自分たちで作り上げるよりも、そこにすでに存在するものと、そこのストーリーテリングに長けてる人を活用するのがいいんじゃないかなと思いますね。
narumiさんが、ホラー好きで映像制作を志す若い人には大チャンスではないかと言うと、宮武さんも同意します。宮武さんは、YouTubeでファンがつけば映画化の際にダウンサイドを守れるので、映画会社にもクリエイターにもメリットがあり、日本でも流行ってほしいと話しました。
マンガとYouTubeはIPの育成装置になれるか
宮武さんは、日本にはこれに似た流れが昔からあると指摘します。マンガから映画やアニメへ広がる流れです。
宮武さんによると、アメリカにはマンガからアニメという概念がなく、アメコミがマーベル映画になる例がたまにある程度です。IPをうまく育てる仕組みがそれほど存在しない中で、YouTubeがハリウッドのインキュベーターになれるのかが個人的にとても気になっているといいます。
(アメリカでは)そんなにそういううまい、そのIPのインキュベーションっていうものがそんなに存在しない中で、YouTubeがハリウッドのインキュベーターになれるのかっていうところは個人的にすごい気になってるところですね。
narumiさんは、日本でもXで無料公開したマンガが編集者の目に留まり、連載や単行本につながる流れがすでにあると補います。宮武さんは『ちいかわ』を例に挙げ、narumiさんは『ちいかわ』の映画が大人の間でも「意外といい」と評判になっていると話しました。
narumiさんは、日本のこの流れの動画版が、アメリカではYouTubeとハリウッドの関係になっていると整理します。宮武さんはその可能性があるとしつつ、マンガが十分に機能している日本で同じことが必要なのかはわからないと述べています。
続編だらけの映画界にオリジナルIPを
宮武さんは、もっとオリジナルIPが増えてほしいと話します。映画の興行収入ランキングを見ると、ここ10年ほどはほとんどが続編や前編だといいます。
narumiさんも、アニメか続編ばかりで、『マンダロリアン』もそうだったし、『トイ・ストーリー』も5作目が出たと応じ、今映画になっているものには何かしら数字が付いていると指摘します。
宮武さんによると、続編は元のIPのファンが観てくれるので、マーケティングや広告の予算を付けやすい構造があります。『Obsession』のようなオリジナル作品ではそれが難しいため、YouTuberやネット発IPのファンを活用し、マーケティング予算を抑えながらオリジナルIPを打ち出すという戦略なのかもしれないと話しています。
元のIPのファンが観てくれるので、マーケティングや広告の予算を付けやすい
予算を付けにくいので、YouTuberやネット発IPのファンを活用してマーケティング予算を抑える
narumiさんは、シリーズもので確実に稼ぎつつ、YouTubeで活動する若い監督を起用して新しいヒットを狙っているのだと受け止め、いろんな才能に触れる機会が増えるのはいいことだと話しました。
YouTubeはハリウッドを乗っ取るのか?
宮武さんは、テーマの「乗っ取る」という言い方は当たらないと考えています。むしろ、IPの流れの中でYouTubeが1つのポジションとして成立し始め、IPや優秀な監督がこれからハリウッドへ流れていくと見ています。
narumiさんは、クリエイターの裾野が広がるのは可能性のあることだと話し、自分も怖い話を作りたくなったと笑います。宮武さんは、低予算でどんどん出して1本当たればいいと応じました。
それ(怖い話)を低予算で出して、あの、バンバン出して一本当たればいいですからね。
宮武さんは最後に、リアルな世界とデジタルの世界が一緒になっていく中で、YouTubeとハリウッドの架け橋になる事例がこれから増えていくだろうと締めくくりました。
まとめ
この回では、YouTuber監督による低予算ホラーのヒットを入り口に、ファンの力による公開拡大、ネット発IPの争奪戦、そしてオリジナルIPの不足という映画業界の課題までが語られました。宮武さんの見立ては、YouTubeがハリウッドを乗っ取るのではなく、IPと人材を育てる場として位置づき始めているというものです。
- 『Obsession』『Backrooms』『Iron Lung』は、いずれもYouTuberが監督し、予算を大きく上回る興行収入を上げた
- MarkiplierさんはファンにA映画館へ電話を呼びかけ、当初50館の予定だった『Iron Lung』を4000館での上映に広げた
- 「The Backrooms」のように掲示板発でファンが育てたIPを巡り、ハリウッドの争奪戦が起きている
- 映画会社がYouTuberを起用するのは、既存のファンと注目を集める力があるからで、ストーリーのペース作りは今後の課題とされる
- 続編頼みの映画界で、YouTubeがマンガのようなIPのインキュベーターになれるかが注目点として挙げられた





