CFOとの夜に得た財務の気づき
この回のテーマは「作ったら完成ではなくて、作ってからがスタートだ」という話です。
きっかけは、先日ちむにんタウンのCFOと過ごした夜だと話されています。
ちむにんタウンのCFO、CFOってお金周りの人ね、と五反田で焼き鳥を食べた後に、二軒目のスナックで夜中三時頃までカラオケに興じるという、なんとも昭和の会社員のような時間を過ごしたんですけども。
その席で会社の財務やファイナンスについてかなり踏み込んだ話をする中で、「確かにそうだ」と思ったことがあったと言います。
映画を「作品」ではなく「IP」として運用する
西野さんは以前から、映画を一本の作品としてではなく、一つのIPとして捉えるべきだと言い続けています。
つまり、公開後の運用にもっと体重を乗せるべきだという考え方です。
しかし多くの映画の現場では、いまだに映画を「公開興行で完結するビジネス」として見ているきらいがある、と話されています。
議論の中心は、初週でどれだけチケットを売るかとか、公開三日間が勝負だみたいな短期戦になって、その数字を最大化するために人気俳優をキャスティングするっていう発想になりがち。
それ自体は間違いではないと西野さんは言います。ただ、財務・ファイナンスの視点で見ると、資産価値を長期的に育てる設計にはなっていないと指摘します。
俳優グッズが抱える「寿命」の問題
西野さんは、実写映画のグッズを例に挙げます。
実写映画には俳優さんの肖像権があるため、劇中の写真や俳優さんの顔を使った商品は、販売期間や販売方法に制約が生まれてしまいます。
俳優さんは事務所にとって大切な商品なので、映画側が勝手にずっと使うことはできません。プロモーション期間中は売れても、公開後に何年も売り続けるのは難しいと話します。
さらに、コアファンを除けば、俳優さんの顔がプリントされたグッズを日常的に持ち歩きたい人はそれほど多くないのではないか、とも指摘します。
つまり、そのやり方だと商品そのものの寿命が最初から決まってしまうのです。
ロングセラーになる可能性がない商品に、大きな開発費を投じる合理性が薄いわけじゃないですか。
結果として、劇中の場面写真をそのままコピペしたグッズが増える。開発コストを抑えるうえでは、それが最も合理的な判断になってしまうと言います。
ただし、その合理性はお客さんに確実にバレる、と西野さんは強調します。
消費者バカじゃないからさ、いろんなものを毎日選んでる方だから、ここに思いが乗ってるか乗ってないか、コストがかかってるかかかってないかはもう一瞬でバレちゃう。
チケット売上の最大化が中心。人気俳優をキャスティングし、劇中写真を使ったグッズは肖像権の制約で寿命が短い。
公開後も何年も売り続ける資産として設計。一つ一つゼロからデザインを起こし、長期の売上で開発費を回収する。
一つのアイテムに数ヶ月かける理由
一方で、ちむにんタウンでは一つのアイテムを作るために、そのワンアイテムのためだけにゼロからデザインを起こしていると話します。
コピペの提案をされると西野さんはぶち切れる、というエピソードも語られます。
一個一個描くって言って、一個一個描いてんすよ。そのグッズに合ったイラストっていうのがあるから。
何度も工場に足を運び、素材や色味、質感を確認しながら、テストを何パターンも重ねる。一つのアイテムが仕上がるまで数ヶ月、時には一年近くかけることもあると言います。
たとえばルビッチのぬいぐるみも、映画のキャラクターをそのまま使うのではなく、ぬいぐるみ用のルビッチをゼロから作るところから始めたそうです。
絵本でもない、映画でもない、ぬいぐるみ用のルビッチをまずゼロから作るっていうところからスタートして、お腹をこれくらいぷっくり膨らませて、ここちょっと細すぎてキモいな、とかいうのをずっとやって。
そこにはいいものを届けたいという思いもある。けれど、それ以上に大きいのは財務・ファイナンス上の設計だと西野さんは言います。
商品を公開期間だけ売るのではなく、IPとともに何年、何十年と売り続ける資産として設計している。だからこそ、開発コストを回収できる前提が生まれるのです。
映画も絵本も「IPのチラシ」
この設計の話として、西野さんは印象的な見立てを示します。
『映画えんとつ町のプペル約束の時計台』のチケット売上、いわゆる興行収入というものよりも、モフのグッズの売上の方が絶対に上回る。確実にこっちの方が大きくなる。
グッズはどんどん積み上げていくものだから、丁寧に作って何年も売れる耐久力のあるものにする、という発想です。
そう考えると、映画は作品であり、結局PRなのだと西野さんは言います。絵本『えんとつ町のプペル』も、作品であると同時にPRでありチラシだ、という捉え方です。
この話を絵本作家に伝えると怒られたこともあるそうですが、西野さんはチラシを低く見ているわけではない、と補足します。
チラシにお前命かけてる人だっているんだから。絵本が上でチラシが下で、映画が上でチラシが下とは俺思わない。そこに上下なんかない。
だから「映画ができました、公開になりました」というのは、「チラシをバンって出しました」というスタート地点にすぎない、という考え方です。
その後にミュージカルになり、今は美術館になって、三百六十五日ずっと自分たちのコンテンツを回している。美術館では西野亮廣展が楽しまれ、モフの家ではグッズがじわじわ売れ続けている、と話します。
作品を作る
絵本や映画を「IPのチラシ」として世に出す。ここがスタート地点。
展開を広げる
ミュージカルや美術館など、IPを軸にした場を増やしていく。
資産として回収
グッズを何年も売り続け、開発コストを長期の売上で回収していく。
銀行にも説明すべき「回収の設計」
この考え方について、CFOから言われたことがあると西野さんは振り返ります。それは「そういう説明を銀行にもした方がいい」ということでした。
自分たちだけが分かっていればいい話ではなく、外に説明するときにこそ必要だと気づいたと言います。
銀行に融資を受ける時に、僕たちが絵本で回収しようとしてる会社なのか、映画で回収しようとしてる会社なのか。いや、映画とか絵本っていうのはIPの投資だ、PRだと思ってやってます、僕たちの回収はその後にありますって言った時に、銀行さんのチムニータウンの見方が変わってくる。
西野さんは、映画『えんとつ町のプペル約束の時計台』の事業投資型クラウドファンディングでも、同じズレを感じていたと話します。
多くの人は映画をチケット代で回収するものと思い込んでいる。だからリターンの説明が伝わりにくかった、というのです。
このクラウドファンディングのリターンは何かっていうと、映画にまつわるすべての商品の向こう十年の売り上げをバックっていう話なんですよ。
ただ、自分たち以外の映画はほとんどIPを運用する設計で作られていないため、その前提がそもそも共有されていなかった、と気づいたと言います。
だからいつまでプペルにしがみつくねんってなるわけで。ここの説明はもうちょっと丁寧にした方がいいし、銀行さんに対してもそういう説明ができる資料を作った方がいい。
そういう夜を過ごし、勉強になったというお話でした。
まとめ
西野さんは、映画や絵本を「完成品」ではなく「IPのチラシ」と捉え、公開後の商品展開で長期的に回収する設計を語りました。だからこそ一つのアイテムを数ヶ月かけて丁寧に作り、その考え方は銀行など外部への説明にも必要だと気づいたと話します。
- 映画や絵本は完成がゴールではなく、そこからがスタートというIP運用の発想。
- 俳優グッズは肖像権の制約で寿命が短く、ロングセラーになりにくい。
- ちむにんタウンは一つのアイテムをゼロからデザインし、何年も売れる資産として設計している。
- 作品はPRでありチラシ、回収はその後のグッズや展開で行うという考え方。
- この設計は自社内だけでなく、銀行など外部への説明にも必要だという気づき。
