そもそも「営業」と「販売」は何が違う?
この回で廣田さんが持ち込んだのは、「営業と販売の違い」というテーマです。セールスとの連携や、ISメンバーと話す中で、明確に変えていきたいと感じたところだと話します。
樋口さんは、この違いをXや記事でちらほら見かけたことがあるといいます。自分なりの解釈として、販売と営業をこう整理しました。
販売は、ただお客さんに買ってもらう活動をする人。営業はお客様との問題解決みたいなところが、いろいろなところで書かれてるなという印象ではありますね。
廣田さんは、学術的な整理もあると補足します。取引前・取引後・社内・社外の4象限で見ると、販売は社外に対して取引の前後だけを担うのに対して、営業はそのすべてを網羅するといいます。
つまり構造としては、営業という大きなくくりの中に、販売が含まれているという関係になります。
ニーズがある人に売るのが販売、ない人にも売るのが営業
廣田さんはさらに、自分なりの切り口として「ニーズの有無」を挙げます。
販売の人はニーズがある人に対して売る。営業はニーズがない人にも売らないといけない。さあ果たして我々インサイドセールスが販売してはいないだろうか、というのは一個伝えたいことです。
樋口さんは、4象限の「社内」と「社外」がどういう意味か質問します。廣田さんは、身近な例で答えました。
たとえばジュエリーショップの販売員には、社内調整はほとんど発生しません。欲しい人が買って帰るだけだからです。
一方でSaaSのプロダクトを扱う企業では、何をどうデリバリーして、いくらでやるのかを社内で調整したうえで売る必要があります。廣田さんは、価格だけでなく「この人に本当に売っていいのか」「自分たちが価値を提供できるのか」を考える点が、販売との違いだと話します。
ニーズがある人に、ありものを売る。社外への取引が中心で社内調整は起きにくい
ニーズがない人にも売る。問題解決のために社内調整や価格・提供価値の設計まで行う
「販売員のまま」だとキャリアが抜け出せない?
廣田さんが今回いちばん伝えたいのは、ISが無意識のうちに販売員になっているケースが多い、という点です。
無意識的にずっと販売員のままインサイドセールス活動をしていると、その人のキャリア的にもちょっと厳しいんじゃないかな、というちょっとそんな話があって。
ISのキャリアとして、セールスやマーケ、事業企画、さらにはビズデブへ進みたい人は多いはずだと廣田さんは言います。そのうえで、厳しい見方も示しました。
だからこそ、活躍している人は営業スタイルか販売スタイルかで大きく差が出る、というのが廣田さんの実感です。
仮説の立て方が、営業と販売を分ける
樋口さんは、営業ができるメンバーとできないメンバーの違いを問われて、「お客さんのことを本気で考えられているか」を挙げます。ヒアリング自体はどちらもやるものの、その姿勢が違うと話します。
営業ができている人に関しては、お客さんのことを本気でよくするためにはこうした方がいいんじゃないですか、とか、どうなんですか、みたいなところが聞けてる感覚はありますね。
廣田さんは、販売から脱却する鍵は「仮説の立て方」にあると言います。
この違いは、トークスクリプトの順番にも資料作りにも表れると廣田さんは言います。販売スタイルは、いわゆるクレデン ── クレデンシャルの略。会社の実績や信頼性を示す会社紹介資料のこと。営業の冒頭で自社の説明として使われることが多いですをなぞって「私たちこういうことできます」と自社主語で話しがちです。
一方の営業スタイルは、まずお客さん主語で相手を理解し、どこに問題があってどんな原因があるかをインプットします。役に立てないなら潔く「役に立てない」と言い、別の会社を紹介することさえある、と廣田さんは話します。
「なんで?」を連発する尋問型の危うさ
樋口さんは、質問の難しさに悩んだ経験を語ります。転機になったのは、ある1冊の本でした。
『無敗営業』って本があるじゃないですか。あの本を読んだのは結構、僕の中でターニングポイントだったところがあって。
その本にあった「というと?」「なんでですか?」「他には?」といった質問で、お客さんの言うことを構造化していける、と知れたのが大きかったと樋口さんは振り返ります。
ただし廣田さんは、テクニックだけを鵜呑みにするのは危険だと釘を刺します。
いちいち「というと?」とか「なんで?」とか言われても浅いんですよ。知識がないと、質問さえできない。
知識がないまま質問すると、切り口が浅くなり、「知らない人だな」とすぐ相手に伝わってしまいます。廣田さんは、それが減点になり、信頼を得られないまま脱落していることに本人が気づかない、と指摘します。
あ、そういう取り組みされてらっしゃって、その課題なんですね。え、でもこういう取り組みしてると、この辺りの問題ってもう解決されてるんじゃないかな。それってもしかして困ってるのこっちですか?
そうそうそう、って出てきそうですね。
知識があると、聞かなくても質問をジャンプできるので質問回数が減り、「わかる人」になれると廣田さんは言います。回答のパターンが見えていないうちは、まだ知識不足だという見立てです。
ISで「かるた」をしてはいけない
廣田さんは、ISが陥りやすい姿勢を「かるた」にたとえます。自社が解決できる課題を、上の句と下の句のセットのように待ち構えてしまう状態です。
たとえば「業務削減」や「歩留まり改善」といった、自社で解決できるキーワードが出た瞬間に飛びついて札を取ってしまう。これがまさに販売スタイルだと言います。
営業スタイルの人は、多分全部出るまで待つんですよ。で、どれを取るかを選ぶという、やってるゲームがそもそも違う。
廣田さんは、上の句が来ても飛びつかず、下の句まで相手に言い切らせるべきだと話します。お客さん自身が発言することで、それが本人の思っている話になるからです。
樋口さんも、資料請求のリードに対して背景を聞いても「そうなんですね」で終わり、今あるものを販売するだけのISになりがちだと共感します。
三流・二流・一流の営業マンの違いとは
話は、営業マンの3段階に及びます。廣田さんが昔教わった整理です。
一流の営業マンは、お客さんのToBe(ありたい姿)自体を引き上げる、と廣田さんは言います。ここで話は樋口さんが読んだ本の「天秤の絵」につながります。
天秤は、お客さんが払えるお金と、解決できる範囲の費用対効果を表しています。解決できる範囲を大きくするほど、払ってもらえる金額も変わってくる、という考え方です。樋口さんは新卒時代にこれを実践しようとしていたと話します。
そのために必要なのが知識だと廣田さんは言います。販売員なら自社プロダクトの知識だけでよいけれど、営業マンとしてお客さんのToBeを引き上げるには、前提となる知識のうえで、その会社固有の特徴まで踏まえて話せることが求められます。
だからあれですね、斧屋になっちゃいけないですね。武器屋にならないといけないですね。
樋口さんの言う「斧屋」は、道具を売るだけの存在のたとえです。廣田さんも、単に売る斧屋ではなく、情報を渡せる武器屋・情報屋であるべきだと応じます。
これをやってたら販売員?「販売員診断」
廣田さんは、自分が販売スタイルかどうかは意外とわかりにくいとして、いくつかの見分け方を「販売員診断」として挙げます。
1つ目は仮説の立て方です。プロダクトを売るための仮説を立てるのが販売スタイル、問題を特定するための仮説を立てるのが営業スタイルです。トークでいえば、自社主語で「こういう課題はありませんか?」と投げるのは販売寄りだといいます。
2つ目は価値の定義の仕方です。廣田さんは、価値とは「未来の変化量」だと話します。お客さんの未来に対する変化量が大きいほど、その価値は大きいという考え方です。
販売スタイルの人は価値が一定なんですね。自社ができることがこれだから、これが価値だと決めきってる。
一方で営業スタイルの人は、提案そのものからお客さんに価値を生めると廣田さんは言います。問題・原因・課題の構造を整理してあげるだけでも、お客さんの中に変化が起きるからです。
価値は一定。自社が売れるものが価値で、売ってからしか価値を渡せない
価値は未来の変化量。提案や情報提供の段階から、受注前でも価値を生める
「本日は提案しません」と言った営業のエピソード
廣田さんは、自身が営業に入っていた案件のエピソードを紹介します。良い感じで進んでいたのに、クロージング間際で「御社の提案、違うかも」と言われた案件です。
急いでアポを取り直して訪問した廣田さんは、開口一番でこう切り出しました。
すいません、今日は提案しません。
問題・原因・課題をお客さんと一つずつ合意して作った提案だったからこそ、廣田さんは「これが一番解決できる方法」だと自信を持っていました。それでも選ばれないなら、何かが違うはずだと考えたのです。
私はお役に立てる内容をご用意したつもりでしたが、お役に立てないと感じていただいている。どこが違ったか教えてください。これがわからない以上、私は提案できません。
廣田さんは、これは販売スタイルなら絶対に出てこない発想だと言います。販売しようとすると、なりふり構わず「うちです、安くしました」となってしまうからです。
樋口さんは、それはお客さんにとっても気持ちのいい体験だっただろうと応じます。そして、安易な値下げの話題へ移ります。
簡単な値下げは「価値がない」と自分で言うようなもの
樋口さんは、選ばれなかったときに値引きしてしまいがちだと問いかけます。廣田さんの答えは明確でした。
簡単に値下げできるってことは、価値が低いと思ってるってことなんですよ。営業マン自体が価値がないって自分で言ってるようなものです。
廣田さんは、まず「この問題が解決できたらいくら」という価値の合意を取ることを優先します。そのうえで予算や稟議の都合で調整するなら値下げもありだけれど、価値合意なしに受注目的で値下げすると、CS(カスタマーサクセス)も疲弊するだけだと話します。
SDRやBDRといった役割の区分にかかわらず、問題解決につながる知識をつけてアプローチできれば営業活動になり、上席にただ右から左へ流すだけなら販売でしかない、というのが二人の整理です。
インサイドセールスをやってきて本当に良かった
最後に廣田さんは、こうした経験も踏まえて、ISをやってきて本当に良かったと話します。
ISは登竜門的に見られたり、「とりあえずアポ取っとけ」と肩身の狭い扱いをされたりしがちで、若い人ほどキャリアに悩みやすい、と廣田さんは言います。それでも続けてきてよかったと感じているそうです。
僕、ISだったらこれアポ取らんよな、みたいな。でもアポって何のためにあるんだっけ、を考えてきたんで、渋くなった瞬間にもう一回アポを取り直せる。
関係構築や、ISの時代に培ったものをフル活用しながら営業をしているという廣田さん。次回は、そうした「ISをやってきて本当に良かった」と思う話を、樋口さんと一緒に掘り下げる予定だと締めくくりました。
まとめ
営業と販売を分けるのは、仮説の立て方と価値の捉え方でした。プロダクト起点で売るのが販売、問題起点で相手のToBeを引き上げるのが営業です。ISが販売員のままだとキャリアも頭打ちになりやすい、という危機感が全体を貫いていました。
- 販売はニーズがある人にありものを売り、営業はニーズがない人にも問題解決から入る
- 販売スタイルはプロダクト起点、営業スタイルは問題起点で仮説を立てる
- 質問テクニックは知識があってこそ活きる。知識がないと「尋問」になり信頼を失う
- 自社が解決できる課題に飛びつく「かるた」をせず、下の句まで相手に言い切らせる
- 価値は未来の変化量。安易な値下げは、自分の価値の低さを認めるようなもの


