知識が足りないと、なぜ動けなくなるのか
薬剤師のたいぞーさんは、薬局で在宅医療や外来患者の対応に取り組みながら、社内の新人育成や研修の講師、勉強会やセミナーの開催、オンラインサロンの運営などにも携わっています。
この回のテーマは、「必要なものとあった方がいいものをきちんと分ける」ことです。たいぞーさんは日々、「薬学で患者を語る」ことを意識して仕事をしています。
たいぞーさんは、病気や薬の知識、ガイドライン、論文といった専門知識について、あればあるほどいいものだと認めています。学ぶほど視野が広がり、患者のことがしっかり見えるようになるからです。
ただ、たいぞーさんはここに1つの問題があると指摘します。「知識がまだ足りない」と考え始めると、行動する前に立ち止まってしまうことがあるというのです。
薬学で患者を語り、そして患者によりよい治療を届けたい、そう思っているのに、まだできない理由を知識が作ってしまう。
たいぞーさんは、学ぶための知識が行動しない理由になってしまう状態を「ものすごくもったいない」と表現しています。そこで大切にしているのが、「なければならないもの」と「あったらいいもの」を分けて考える視点です。
必須の知識と「あったらいい知識」の境目
たいぞーさんが、薬剤師が薬学的な視点で患者の状態を見極めるために絶対に外せないと考えているのは、薬理学、薬物動態学、製剤学の3つの知識です。
この3つは薬学のど真ん中にあたる専門知識だといいます。これらがなければ、薬が体にどう働くのか、なぜこのタイミングで効果や副作用が出るのかという視点で患者を見ることはできない、とたいぞーさんは話します。
一方で、病態の知識、エビデンスを読み解く力、基礎薬学、有機化学などについて、たいぞーさんは「あった方がいいに違いない」としています。介入の精度が上がり、薬学的な視点で読み解いた内容の説得力も増すからです。
ただ、これらの知識がないからといって薬学的な介入ができないかと言われると、そうは思いません。
たいぞーさんの判断基準はシンプルで、その知識が薬学的に読み取ったロジックを支えてくれるものかどうかです。病態やエビデンスの知識は、薬学的な視点そのものを生み出すというより、視点を補強してくれるものだと位置づけています。
薬理学・薬物動態学・製剤学。薬が体にどう働き、なぜそのタイミングで効果や副作用が出るのかを見る視点を生み出す
病態の知識・エビデンスを読み解く力・基礎薬学・有機化学など。介入の精度と説得力を高め、薬学的な視点を補強する
この比較のように、たいぞーさんは知識を「視点を生み出すもの」と「視点を補強するもの」に分けて考えています。
まずは「自分の中にある宝物」から始める
たいぞーさんが一番最初に必要だと考えるのは、患者の状態から薬の影響に気づける視点です。たとえば「この患者さんは薬の影響を受けているかもしれない」「この症状は薬の作用時間と合っているのか」といった気づきです。
たいぞーさんによれば、こうした気づきを生み出すのが、薬理学、薬物動態学、製剤学の知識です。ここがなければ、薬剤師ならではの疑問や問いは立ってこないといいます。
だから僕は、まだ知識が足りないからできないではなく、まずこのど真ん中の薬学で考えるところから始めてみる、そこから始めていっていいのではないかなというふうに思います。
しかも、このど真ん中の薬学の知識は、新しく学ぶものというより、薬剤師が大学の専門教育ですでに十分に教わってきたものだ、とたいぞーさんは考えています。
そのため、たいぞーさんは何かを積み上げる前に、自分の中にある大切な宝物を使っていくことを勧めます。そのうえで、より良い介入をしたいと思ったときに、プラスアルファの知識を積み上げていけばよいという考え方です。
土台を使う
大学で学んだ薬理学・薬物動態学などで、患者を薬学的に考える
問いを立てる
症状と薬の作用時間などを照らし、薬の影響に気づく
知識を積み上げる
より良い介入を目指し、病態やエビデンスなどの知識を加える
この流れのとおり、たいぞーさんは必須の視点がなければ積み上げる土台がないと話します。必要なものとあった方がいいものを分けることで、薬学で患者を語る実践はぐっと現実的なものになると締めくくっています。
まとめ
たいぞーさんは、知識不足を理由に立ち止まるのではなく、薬剤師がすでに持っている薬学のど真ん中の知識から実践を始めることを勧めています。
- 知識は大切だが、「まだ足りない」という思いが行動を止める理由になることがある
- 薬理学・薬物動態学などは、薬学的な視点そのものを生み出す必須の知識とされる
- 病態やエビデンスの知識は、薬学的な視点を補強する「あったらいい知識」と位置づけられる
- 必須の知識は大学ですでに学んでおり、まずはそれを使うことから始めてよい



