なぜ「伝え方」で医師の反応が変わるのか
この回でたいぞーさんが取り上げるのは、狭間研至先生の著書『薬剤師のための医師への情報の伝え方』です。狭間先生はファルメディコ株式会社の社長で、日本在宅薬学会 ── 在宅医療に関わる薬剤師などが、在宅での薬学的管理や多職種連携を学ぶための学会。バイタルサイン講習会なども開いていますの理事長も務めています。
たいぞーさんは狭間先生から本を送ってもらい、まだ第1章まで読んだところだといいます。それでも、自分の現場経験に強く結びつく内容だと感じたため、医師の視点と薬剤師の視点というテーマで話すことにしました。
たいぞーさんによると、薬剤師が医師に情報を伝える場面は、疑義照会 ── 処方せんの内容に疑問がある場合に、薬剤師が処方した医師に問い合わせて確認すること。法律で定められた薬剤師の業務ですや服薬情報提供書など、ここ10年ほどで格段に増えました。
同じ情報を伝えるにしても、伝え方次第で伝わり方もそうですし、相手の(情報の)受け入れも含めて大きく変わってくるなというのを感じる
たいぞーさんは、処方監査で相互作用などを確認し、疾患と薬の組み合わせの問題や副作用があれば医師に変更を提案しています。提案がそのまま受け入れられることもあれば、「このままでいこうか」と返されることもあるといいます。
たいぞーさんは本を読みながら、医師への情報伝達がうまくいく時といかない時の違いを振り返りました。その結果、相手の視点をきちんと考えられているかどうかが非常に大事だと改めて感じたそうです。
医師は「治療効果」、薬剤師は「リスク回避」を見ている
たいぞーさんは、薬剤師が処方監査で患者の薬物治療を見る時、どうしてもリスク回避に重点を置きがちだと話します。併用や疾患との組み合わせが良くない薬があれば、副作用で困るかもしれないから避けておこう、という考え方です。
たいぞーさんは、このリスク回避の視点を良い悪いで語るものではないとしています。状態を良くしようとしているのに副作用で悪い方向に向かうのは本末転倒なので、事前にリスクを避けることは非常に重要だという立場です。
一方で、薬物治療には悪い面だけでなく、効果を期待して行っている面もあります。たいぞーさんは、もともとの疾患を治療することを念頭に置いたうえでリスク回避を考えるべきだと述べています。
たいぞーさんの見立てでは、医師は病気を見て治療戦略を立て、薬剤を選ぶという思考プロセスで薬物治療を組み立てていることが多いといいます。目の前の疾患をどう解決するかという視点です。
病気を見て治療戦略を立て、この薬でどんな効果が期待できるかという視点で薬剤を選ぶ
治療も考えつつ、患者がいかにリスク少なく効果を得られるかという視点で処方を確認する
どちらの職種も、患者の健康に貢献するという同じ目標を目指しています。それでも、たいぞーさんは、治療効果を見る医師とリスクを見る薬剤師では、同じところを見ているようで少し視点がずれていると指摘します。
そうした視点のずれがですね、医師に対して情報提供するときに、なんかちょっと違うんやけどなみたいな、こう渋い感じの反応を引き起こしてしまったり
ただし、たいぞーさんは、薬剤師も医師と同じ治療の観点から見ればよいとは考えていません。医師が治療の観点から見ていると認識したうえでリスクを伝えれば、それだけで伝わり方は大きく変わるのではないか、と話しています。
医療用麻薬を「潰して」と指示されたケース
たいぞーさんが挙げた事例は、がんの痛みに医療用麻薬を使っていた患者のケースです。徐々に体の中で溶け出す薬なのに、医師から錠剤を潰して服用させるよう指示が出ていました。
たいぞーさんは、半日ほどかけてじわじわ吸収されるように作られた薬を潰すと、一気に吸収されて副作用のリスクが生じると考えました。そこで医師に連絡し、潰すのは避けたほうがよいと伝えています。
医師からの返答は、この患者はがんの進行で口から飲み込むことが難しく、潰さないと服用できないというものでした。治療効果を得るには潰すしかないため、副作用のリスクは承知のうえで潰して出してほしいと言われたそうです。
たいぞーさんは、飲めなければ治療効果も得られないので、医師の判断は治療のための苦肉の策として理解できたといいます。そのうえで、潰さずに済む粉の剤形への変更を提案しましたが、医師からは潰すしかないと言われ、受け入れてもらえませんでした。
同じ提案を「治療が続かないリスク」として伝え直す
医師に提案を断られたとき、たいぞーさんは「先生もリスクは承知と言っているし、潰すか」と一瞬考えたといいます。それでも、患者が副作用で困るリスクは見過ごせないと思い、視点を変えて話すことにしました。
それまでたいぞーさんは、潰すと半日かけて吸収される分が短時間で入り、副作用が起きるという視点で話していました。ところが、錠剤を潰すことにはもう一つ別のリスクがあると気づきます。
錠剤を潰す
半日かけて溶け出す設計の薬が、短時間で吸収される
短時間で排出
短時間で吸収された薬は、短時間で体の外に出ていく
効果が続かない
薬の働きが持続せず、痛みが十分に取り切れない時間帯が生じる
たいぞーさんは、錠剤を潰すことが患者の治療をよりよく続けることを妨げるという視点で、同じ内容を伝え直しました。そのうえで、徐々に溶け出す粉の薬への変更を改めて提案しています。
いや、確かに治療が継続できないというか、その持続できないというのは非常に困ると。
医師はこのように反応し、どうしたらいいのかと薬剤師の情報に関心を向けてくれたといいます。副作用の話では動かなかった医師が、治療効果の視点に置き換えたことで耳を傾けた場面です。
たいぞーさんは、医師の視点も薬剤師の視点もどちらも大事だとしたうえで、医師がどんな視点で薬物治療を設計しているのかに感覚を向けることが大切だと話します。そうすることで、同じ情報をどう伝えればよいかが見えてくるのではないか、という考えです。
本の紹介とバイタルサイン講習会の告知
たいぞーさんによると、『薬剤師のための医師への情報の伝え方』には、医師とのコミュニケーションの取り方や、同じ情報をどう伝えるかが具体例を交えてわかりやすく書かれています。読みやすく面白い内容で、続きを読むのが楽しみだと話しています。
たいぞーさんは、医師への伝え方に困っている人がこの本を手に取れば、現場の課題を解決する一助になるものが得られるのではないかと勧めています。
最後の告知は、10月25日に兵庫県姫路市で開かれる日本在宅薬学会のバイタルサイン講習会です。一度満席と案内していましたが、急遽2枠を増席し、放送時点で残り1枠とのことでした。
たいぞーさんは、バイタルサインは医師と同じように患者をきちんと見て情報を伝えるためのツールとして役立つと考えています。薬剤師ならではの視点で患者を見立て、医師とコミュニケーションを取る際にも使えるのではないかと話しています。
まとめ
この回では、医師への情報伝達がうまくいくかどうかは、医師と薬剤師の視点の違いを踏まえられるかにかかっている、という考えが医療用麻薬の事例とともに語られました。
- 医師は治療効果、薬剤師はリスク回避に重点を置きがちで、同じ目標でも視点が少しずれる
- 副作用の話で受け入れられなかった提案が、「治療効果が続かない」という視点で伝え直すと医師の関心を引いた
- 薬剤師が医師と同じ見方をするのではなく、医師の視点を認識したうえでリスクを伝えることが大切だとされる
- 狭間研至先生の著書は、医師への伝え方を具体例とともに学べる一冊として紹介された


