33種類の薬を飲む患者に、どこから手をつけるか
薬局で働いていると、複数の医療機関を受診し、それぞれでたくさんの薬をもらっている患者さんに出会うことは珍しくない、とたいぞーさんは話します。
たいぞーさんは毎月月初の金曜日に「イケてる服薬情報提供書執筆講座」というセミナーを4、5年続けています。先日の講座では、33種類の薬を現在内服している患者さんの症例を参加者みんなで検討しました。
多剤併用 ── 複数の薬を同時に使っている状態。ポリファーマシーとも呼ばれ、薬の数が多いほど副作用や飲み間違いのリスクが高まるとされていますを前に、そのまま放置するのがベストではないことは、薬の数を見れば一目でわかるといいます。
(33種類となると)僕自身もなかなか現場で仕事をしながら、これだけの薬を併用している患者さんというのは、なかなかお目にかかれないぐらいの多剤併用というような状態になっているわけなんですが。
一方で、その患者さんは特に困った症状もなく、治療も比較的良好に進んでいました。今までどうにもならなかった症状が、薬を足しに足した中で、なんとか絶妙なバランスで均衡を保っている状態だったのです。
症状が落ち着いているからこそ、33種類の薬のどこから介入するかを決めるのはとても難しい、とたいぞーさんは感じています。
相互作用のデータだけでは見通せない理由
33種類もの薬があると、薬同士の相互作用 ── 複数の薬を一緒に使ったときに、効き目が強まったり弱まったり、副作用が出やすくなったりする現象のことも、何がどう影響しているのかを理解するのが難しくなります。
薬の相互作用には、試験や研究の成果として、良い意味でも悪い意味でも確認されているものがあります。ただ、33種類という組み合わせをそうしたデータに照らし合わせても、一致した結論になるとは限らない、とたいぞーさんは話します。
理論的なところを組み合わせながら、自分の頭の中で、その人のことを見立てていくということがどうしても必要になってくると思います。
しかし、見立てがとても難しいために、薬剤師がなかなか手を出しきれない状態に陥るのが、こうした多剤併用のケースだといいます。
理想は、ある薬を中止したら次に何が変化するかを薬学的に予測しながら、薬物治療を組み立て直すことです。たいぞーさんは、それがベストだとしつつも、その一歩手前の段階でやれることがあるのではないかと考えています。
まず、すべての医師に「薬の全体像」を共有する
たいぞーさんが挙げる第一歩は、複数の医療機関で多数の薬が処方されているという事実を、すべての医療機関の医師に共有することです。そんなに難しくなく、薬剤師ができることだと話します。
以前たいぞーさんが介入したケースでも、複数の医療機関でたくさん薬をもらっている患者さんについて、まず医師に現状を共有しました。医師自身も、診察している患者さんがそれほど多くの薬を飲んでいるとは思っていなかった可能性があるといいます。
全体像を見るだけで、医師の方から、「あ、じゃあこれはちょっと一旦控えようかな」というような処方の見直しの、薬剤師が気づけなかった案とか(が出てくる)。
さらに、医師はそもそもその薬を処方した最初の経緯を知っています。経緯を知る医師だからこそ踏み出せる、治療見直しの選択肢もあるのではないか、とたいぞーさんは考えています。
事実を共有
複数の医療機関で多数の薬が出ていることを、すべての医師に伝える
全体像を把握
医師が、患者さんの飲んでいる薬の全体を知る
医師からの提案
処方の経緯を知る医師から「一旦控えようか」という見直し案が出る
診療科ごとの「混線」をほどく
複数の診療科が絡む多剤併用では、診療科ごとの混線が起きていることもよくある、とたいぞーさんは指摘します。
たいぞーさんが挙げる混線の例は、次のようなものです。
- 消化器内科にかかっているのに、整形外科でも胃薬が出ている
- 心療内科を受診しているのに、精神科領域の薬が一般内科でも出ている
- 整形外科に通いながら、骨粗しょう症の薬は内科でもらっている
本来なら専門の診療科で診てもらったほうがよさそうな治療が、別々の医療機関で行われていたり、両方で同時進行していたりすることもあります。
そのため、診療科を1本化する、いわば整理整頓を行うだけでも、薬の内容を整理できる場面があるのではないか、とたいぞーさんは話します。
絡み合った糸がほどけてから、薬学的な引き算へ
たいぞーさんは、患者さんの状態を薬学的に評価できるに越したことはないとしつつ、その一歩手前の段階として情報の共有と整理を重視します。
まずはその一歩手前の段階で情報の共有であるとか、情報の整理というのを行うことで、少しずつ絡み合った糸がほどけてくる。
情報の共有と整理が進むと、今飲んでいる各薬が良くも悪くも体にどんな影響を及ぼしているのかが見えてくるようになる、とたいぞーさんは考えています。
そこで初めて薬学的な知識を使い、治療に必要な薬と、悪さをしていて引き算をしていける薬が見えてきます。33種類あったとしても、少しずつ適正化していく形を、患者さんと医師と一緒に探していけるのではないか、という見立てです。
まとめ
33種類の薬を飲む患者さんのように、多剤併用が絶妙なバランスで保たれているケースでは、いきなり処方をいじるのは難しいものです。たいぞーさんは、薬学的な評価の一歩手前として、医師への情報共有と診療科の整理から始めることを勧めています。
- 多剤併用でも症状が安定していることがあり、どこから介入するかの判断は難しい
- 33種類もの薬では、相互作用のデータだけでは結論が出にくく、薬剤師自身の見立てが必要になる
- まず、すべての医師に薬の全体像を共有すると、処方の経緯を知る医師から見直し案が出ることがある
- 診療科ごとの重複や混線を整理するだけで、薬を整理できる場面もある
- 情報が整理されてから、薬学的な知識で減らせる薬を見極め、患者さんと医師と一緒に適正化していく



