肩に生えた5センチの白い毛、その名は「福ちゃん」
今回の話のきっかけは、エマさんが自分の肩に白くて長い、5センチほどの毛が1本生えているのに気づいたことです。レンさんに見せたところ「気持ち悪」と言われ、エマさんはショックを受けたといいます。
(肩の毛を)初めて見つけた時はすごい驚いて、めっちゃ嬉しくなって、調べるじゃん。
エマさんが調べると、こうした毛は幸運をもたらす「福毛」と呼ばれていることがわかりました。レンさんは、不吉なものとされてもおかしくないのに、ずいぶんポジティブな扱いだと受け止めています。
エマさんはAIにも相談し、1年ほど前から少しずつ伸びてきたのではないか、抜いてもまた同じように長く伸びてくる可能性が高い、という見立てを聞いたそうです。そこでエマさんはこの毛を「福ちゃん」と名付け、たまに存在をチェックしています。
レンさんは、年を取ると頭の毛は減るのに眉毛が伸びたり、1本だけ暴走したように伸び続ける毛が出てきたりする現象にも触れます。この回は脱毛ではなく育毛、つまり「毛が生える」側にフォーカスし、毛が生える薬はあるのかという話まで進むと予告されます。
これはね、非常にモチベーション高く(調べた)、そもそもね、「毛が生える薬ってないの?」とか。
そもそも毛はなぜ生まれたのか?
レンさんはまず「なぜ毛は生まれたのか」というそもそも論から入ります。エマさんは体温を保つため、そして猫のヒゲのようなセンサーの役割を挙げ、レンさんは物理的な保護やカモフラージュも加えます。
毛が誕生したのは恐竜の時代で、主役は恐竜ではなく、同じ時代にいた初期の哺乳類だと説明されます。人間の先祖をたどると、小さなネズミのような生き物に行き着くといいます。
昼間は恐竜とかが活動してるから危ないと。だから夜に活動しなきゃいけないってなって。
初期の哺乳類は夜に活動するようになり、寒い夜に熱を保てる、毛の生えた個体が生き残ったのではないか、という説があります。爬虫類に近い生き物は鱗で、両生類や魚にも毛はないので、哺乳類の祖先をたどる途中のどこかで毛が生えてきたと考えられます。ただし、はっきりとはわかっていないようだとレンさんは補足しています。
人間はなぜ体毛を失ったのか
多くの哺乳類が毛を持つなか、人間はチンパンジーと比べてもずっと毛が少ない「ツルツルな方」です。エマさんは服や火を使うようになったからではと考えますが、レンさんによると、服ができたのはかなり最近で、それより前から体毛は減っていたといいます。
レンさんが紹介するのは、初期の人類が日中の暑い時間帯に活動するようになった、という説です。サバンナでは暑いとき肉食動物が休んでいるため、その隙に人間は狩りをしていたのではないか、と考えられています。
暑すぎると、何が一番体の中で問題かって、脳。脳がやっぱ熱に弱かったりするのよね。
暑さから脳を守るため、人類は全身で大量に汗をかく方向へ進みました。汗をかくエクリン腺 ── 全身の皮膚に分布する汗腺。主に水分の多い汗を出し、気化熱で体温を下げる働きをします。人間では特に数が多いことが知られていますが全身に発達し、汗が蒸発するときに熱を奪う仕組みを使うには、毛が邪魔になります。
毛を産毛レベルまで減らすと、汗で効率よく体を冷やせます。そのため毛の少ない個体が生き残っていった、という説明です。
一方で、この理論なら頭もツルツルになるはずです。レンさんによれば、その時期に人類が直立二足歩行を始めていたことが関係しているかもしれません。
立って歩くと、四足歩行より日光を直接受ける面積が減ります。そのぶん頭頂部が集中的に日差しを受けるので、紫外線から守るために頭の毛だけが残った、という仮説です。
体毛と頭の毛の関係は、次のように整理できます。
日中に活動
肉食動物が休む暑い時間帯に狩りをしていたという説
汗で冷やす
脳を熱から守るため、エクリン腺が全身に発達
体毛が減る
毛は汗の蒸発の邪魔になるので、産毛レベルに
頭の毛は残る
二足歩行で日差しが頭頂部に集中し、紫外線から守るため
じゃあ暑いから毛なくなったのに、一番日の当たる頭は逆に保護するために残ったんだ。
眉毛は何のためにあるのか?
エマさんは、まつ毛が目を守るのはわかるが、眉毛はそれほど目を守っていないのでは、と疑問を投げかけます。レンさんは、表情を伝えやすくするために残ったという説を挙げつつ、はっきり言えるかはわからないとしています。
そのうえで、眉毛が額の汗をブロックして目を守る役割もあるだろう、と2人は話します。レンさんの見立てでは、眉毛が残った大きな理由は「保護」と「コミュニケーション」の2つだといいます。
この辺はね、こう進化で結果残ってきたやつにうまいこと説明加えてるだけっちゃだけかもしんないけど。
進化に意思はなく、結果としてそうした特徴が残ってきた、という前提も確認されます。チンパンジーにははっきりした眉毛がなく、代わりに目の上の骨が隆起しているそうです。顔に毛がほとんどないのに眉毛だけある動物は、人間以外になかなか思い浮かばない、という話にもなりました。
ハダカデバネズミ、ゾウ、クジラ…毛のない動物たち
全身の毛が減った理由としては、寄生虫対策説もあります。毛が多いとノミやダニなどが住み着きやすいため、毛の少ない個体が生き残ったのではないか、という考え方です。
毛の少ない動物として、エマさんが挙げたのがハダカデバネズミ ── 東アフリカの地下に巣を作って集団で暮らすネズミの仲間。体毛がほとんどなく、長寿やがんになりにくい性質などで研究対象として知られていますです。地下のトンネルのような、毛があまり必要ない環境で暮らしています。
裸デバネズミって別に毛を作るための遺伝子は持ってるんだよね。で、そのスイッチがオフになってるっていう感じなの。
レンさんによれば、ハダカデバネズミは何かしらの理由で、後から毛がない方向に進んだことがわかっています。続いてエマさんが挙げたカバとゾウの共通点は「でかい」こと。大きな哺乳類は毛がないことが多いといいます。
大型の動物で毛が少ない理由も熱です。体が大きくなると、体積に対して表面積の割合が小さくなり、熱がこもりやすくなります。毛が少ないほうが放熱しやすいので、理にかなっているとレンさんは説明します。
人間でも、暑い地域の人ほど毛が少ない傾向はありそうだ、と2人は話します。ただ、エマさんの職場のインド系イギリス人の同僚は自分は毛深いと話していたそうで、インドも暑いのに、と2人は首をひねっていました。
イルカやクジラのような海の哺乳類も、泳ぐときの抵抗を減らすために毛を失ったと考えられます。ただしクジラには、顎にヒゲが残っているそうです。
プランクトンの密度をそれで感知して、口を開けるかどうか決めるみたいな。
このヒゲは福毛ではなく感覚の毛です。本当に機能を持つ毛以外は、すべてなくなっているのではないか、とレンさんは見ています。ここまでの結論として、毛は寒さから身を守るために生まれ、暑さのために減ってきた、つまり熱によって増えたり減ったりしてきたものだ、とまとめられます。
古代エジプトの人もハゲに悩んでいた?
ここから話は人間の悩みへ移ります。レンさんは、ハゲの悩みは最近のものかと思っていたものの、調べてみると紀元前から記録が残っていたといいます。
世界最古の医学書の1つとされる古代エジプトのエーベルス・パピルス ── 紀元前1500年ごろに書かれたとされる古代エジプトの医学文書。病気の症状や薬の処方、呪文などが数多く記されていますには、ハゲの対策が治療法として載っていたそうです。内容は、カバやライオンの油を頭に塗り、太陽神への呪文を唱えるというものでした。
時代が進むと、頭の血流がよくなれば毛が生えるのではないか、という発想が出てきます。1905年には、頭に吸引する器具をつけて毛根に血液を吸い寄せる「真空キャップ」が流行しました。
頑張ってそういう真空キャップみたいなやつ頭につけて、やったところでそんなにちゃんと生えてこないんで。
血流がよいこと自体は確かに関係があるものの、真空キャップには科学的根拠がなかった、とレンさんは説明します。エマさんが言うように、こうした謎のハゲ対策グッズは今もあり、そこは変わっていないようです。
胃潰瘍の薬が発毛剤になった?ミノキシジルの誕生
本格的に毛を生やす研究が出てくるのは、薬がきちんと作れるようになった1950年代ごろです。胃潰瘍の薬を開発していたアップジョン社(現在はファイザーに買収されたそうです)で、胃潰瘍には効かないものの、血管を大きく広げて血圧を下げる薬が偶然見つかりました。
この薬は高血圧の薬「ロニテン」ロニテンとして承認されます。ところが、服用した人の8割ほどに、頭だけでなく腕や背中まで毛が濃くなる副作用が見られました。
飲み薬だと全身の毛が濃くなるんだったら、頭に塗ったらこうハゲの特効薬になるんじゃないかっていうので研究されて。
この発想の転換から、1988年に世界初の外用発毛剤として「リゲイン(Regaine)」の名で申請されました。日本でも大正製薬から「リアップ」の名で、頭に塗るタイプの薬として売られています。成分の名前はミノキシジル ── 血管を広げる作用を持つ成分。もとは高血圧の飲み薬で、多毛の副作用から外用の発毛剤として転用されましたです。
血流をよくするだけの薬で、なぜ毛が生えるのか。それを理解するには、毛のサイクルを知る必要があるとレンさんは続けます。
毛の3つのサイクルと、毛の正体
レンさんが毛のサイクルを3段階で説明します。エマさんは、ずっと伸び続けて、あるときポロっと取れるものだと思っていたそうです。
薄毛に悩む人では、この成長期が異様に短くなります。毛が伸びきる前に成長が止まって抜けてしまうため、毛がどんどん減っていきます。
ミノキシジルのように血管を広げて血流をよくすると、酸素や栄養など毛の材料がたくさん届きます。栄養を受け取った細胞は活性化して分裂が進みます。
それプラス成長期を強制的に伸ばすっていうのがある。これ結構大事なのよ。
レンさんは、何かしらのメカニズムで成長が止まるのを防ぐ、いわば「リミッターを外す」働きがあると説明します。
ここでエマさんが、そもそも毛の正体は何かと尋ねます。毛根の奥にある毛の元になる細胞が分裂し、皮膚の上へ押し上げられる過程で水分を失い、死んで硬くなったものが毛です。
毛の8割から9割はケラチン ── 毛や爪、皮膚の角質などをつくる丈夫なタンパク質。分子同士が強く結びつくことで、硬さと強さを生み出しますというタンパク質で、ほかに黒い色素のメラニンも含まれます。細胞が分裂して表面に出て、死んで固まることを「角化」と呼び、角質や爪も同じ仲間です。
ちなみに目の角膜は「角」の字がつくものの、生きている組織だそうです。血管はありませんが、酸素を取り入れて代謝しており、角膜が死ぬと濁って視力が失われることもあるといいます。目の回もやりたい、という話も出ました。
「福毛」の正体はサイクルのバグ
毛のサイクルを知ると、福毛がよく理解できるとレンさんは言います。薬で成長期を伸ばす話の究極形が福毛で、サイクルがバグって成長期が終わらなくなった状態だという説明です。
周りにいる毛たちは産毛だから、もう本当に1ミリ以下とかで抜け落ちる運命なのに、(福毛は)そのリミッターみたいなのがなんかの拍子で外れちゃったってことよね。
リミッターが外れる原因としては、2つの可能性が挙げられます。1つはDNAそのものの変異、もう1つは後からDNAにラベルのようなものがついて、成長を止める信号が出なくなる変化です。後者はエピジェネティクス ── DNAの配列そのものは変えずに、化学的な目印などによって遺伝子の働き方が変わる仕組み。後天的な変化として研究されていますと呼ばれる仕組みにあたります。
では、なぜ福毛は白いのか。毛を黒くするメラニンを入れるにもエネルギーがかかります。福毛は伸びるのが早すぎて、色をつける余裕がないのではないか、とレンさんは説明します。
レンさんによると、めちゃくちゃ長い毛が白いのは特徴としてよくあるそうです。もともと黒いヒゲの人に福毛が生えても、白くなるといいます。
エマさんは、Podcast総研 ── ポッドキャストをテーマにした番組。サイエントークと以前コラボしたことがあると、番組内で紹介されていますPodcast総研とのコラボで出た「おじさんになると耳の中から長い毛が生えるのはなぜか」という問いも、遺伝子のエラーが増えるせいではと考えます。
しかしレンさんは、眉毛全体が一気に伸びるような現象は、確率的に偶発的なエラーだけでは説明しにくいと指摘します。この話には「もう一段階ある」として、別の研究の歴史へ進みます。
ドミニカ共和国の村で見つかった「ハゲない家系」
ミノキシジルの発見とほぼ同じころ、まったく別の出来事が起きていました。1970年代、ドミニカ共和国のラスサリナスという村で、女の子として育てられた子どもが12歳ごろの思春期に、声変わりし、筋肉が発達し、男性器が現れる現象が、ある家系で頻発していたのです。
遺伝子を調べると、その子たちは遺伝的には男性(XY)でした。胎児の段階では、テストステロン ── 代表的な男性ホルモン。筋肉や骨格の発達、声変わりなど男性らしい体の特徴をつくる働きを持ちますが5αリダクターゼ ── テストステロンを、より作用の強いジヒドロテストステロンに変える酵素。男性型脱毛症や前立腺肥大症に関わることで知られていますという酵素によってジヒドロテストステロンに変換されることで、男性らしい特徴が現れます。
この家系の人たちは、その酵素の機能がなくなっていたため、生まれたときはほぼ女性のような見た目でした。思春期になってテストステロンが大量に出ると、酵素の機能が低くても男性の特徴が優位になり、体が変化したといいます。
このくだりでは、レンさんが「ちんちん」という言葉で笑ってしまい、エマさんに「小学生やん」とツッコまれる場面もありました。それでもレンさんは「これちゃんとつながるから」と話を進めます。
年を取ってもこの人たちはハゲないっていうのがわかった。
この家系の人たちは前立腺も小さいままでした。そこから、テストステロンを変換する酵素をブロックすれば、前立腺が大きくなる病気や薄毛の治療になるのではないか、という発想が生まれます。
村での発見
XYなのに女の子として育ち、思春期に男性化する家系
原因の特定
5αリダクターゼの機能がなく、ジヒドロテストステロンに変換されない
ハゲない家系
年を取っても薄毛にならず、前立腺も小さいまま
薬の着想
酵素をブロックすれば前立腺肥大症や薄毛の治療になるのでは
フィナステリドとミノキシジル、攻めと守り
この発想から作られたのがフィナステリド ── 5αリダクターゼの働きを抑える成分。もとは前立腺肥大症の薬として開発され、のちに男性型脱毛症の治療薬としても承認されましたです。最初は前立腺肥大症の薬でしたが、服用した人から髪が生えた、抜け毛が減ったという報告が寄せられ、これも副作用として発見されました。
成分の量を調整し、AGA ── 男性型脱毛症の略称。男性ホルモンの影響で、額の生え際や頭頂部から薄毛が進むタイプの脱毛症を指しますの治療薬として承認されています。ただしフィナステリドは毛をどんどん生やす薬ではなく、脱毛を防ぐ「守り」のアプローチだとレンさんは説明します。
血管を広げて血流をよくし、成長期を伸ばして毛を増やす「攻め」
テストステロンを変換する酵素をブロックし、抜け毛を防ぐ「守り」
この2つは、今やAGA治療の最強タッグとして世界中で処方されているといいます。エマさんは、年齢とともに髪が減る女性も使えるのかと尋ねました。
そっち(ミノキシジル)は女性でも使えるけど、もう一個のフィナステリドっていう方は絶対NG。
特に妊娠中や妊娠の可能性がある女性では、酵素を阻害すると、胎児が男児だった場合にドミニカの村の人たちと同じことが起きてしまうためです。閉経後の女性についても、臨床試験で有意な改善効果は認められなかったとされ、女性はミノキシジルだけを使うのが標準のようです。
レンさんは、これは科学的な仕組みを紹介しているだけで、効果を保証する話ではないと念を押しています。
年を取ると眉毛や耳毛が伸びる「アンドロゲンパラドックス」
ドミニカの村の話がわかると、年を取ると眉毛などが伸びる理由も見えてきます。カギは、酵素によって生まれるジヒドロテストステロン、略してDHTです。
これが頭に行くと、髪の毛を強制的に成長ストップさせて抜けるっていう方向に行くと。
ところが、ヒゲや眉毛、耳毛、鼻毛など顔まわりの毛では、同じDHTが逆に「太く長く育て」というシグナルになります。この謎は完全には解明されておらず、アンドロゲンパラドックス ── 男性ホルモン(アンドロゲン)が、頭髪では脱毛を促すのに、ヒゲや体毛では成長を促すという逆の作用を示す現象を指す言葉ですと呼ばれているそうです。
成長を強制的に止め、抜ける方向へ
ヒゲ・眉毛・耳毛・鼻毛を太く長く育てる
若いころは産毛だった耳や鼻の毛も、DHTを長年浴び続けることで徐々に「覚醒」し、太く長い毛になっていきます。成長期が延びるというより、男性ホルモンに起因する変化です。
年取ってくると髪は減らすのに、それ以外のいらないなんか毛は、増やしてくるっていう、なんか、すごい残念だね。
レンさんは、DHTは男性の体を男性らしくするために大事なホルモンだとしつつ、加齢で起きる仕方ないことだと応じます。ここまでの話は、血流による成長期の促進、ブレーキが壊れる福毛、ホルモンによる顔まわりの毛の変化、という3つの要素に整理されました。
なぜ100%効く育毛薬はないのか?
これだけ仕組みがわかっていれば、毛の悩みは解決できそうに思えます。しかしレンさんによると、100%毛が生える魔法の薬はまだなく、それにはきちんと理由があります。
今さ、細胞をめっちゃ増やそうとしてるわけよ。
ああ、がんになる?
これね、これ暴走すると、がんなんすよ、それって。
毛を生やすことは、細胞をどんどん分裂させることです。本来、細胞が永遠に分裂するとがんや腫瘍になるため、体にはそれを防ぐ仕組みがあります。毛の成長を止めるブレーキを外すような薬は、がんにつながる可能性があるのです。
止まっている毛穴を再起動させるスイッチとしてWntシグナル ── 細胞の増殖や分化を調節する信号伝達の仕組み。毛包の再生に関わる一方、異常に活性化するとがんの発生にも関わることが知られていますが知られていますが、これを活性化しすぎると、がん細胞を増やすスイッチにもなりかねません。
実際に、この再起動スイッチを狙った薬の臨床試験では、濃度を濃くするより薄くしたほうが毛が生えるという現象が起きたそうです。
そのままいったらがんになっちゃうっていうのを、自分の体が察知して強制的に、あの、ストップさせるっていう。
薬が多すぎると体が防御し、少なすぎるとあまり生えない。この薬は臨床試験で失敗に終わり、安全性への懸念もあったといいます。
毛を生やしたい
止まった毛穴を再起動し、細胞を分裂させる
がんのリスク
分裂が止まらなくなると、がんや腫瘍につながる
体の防御
体が察知して強制的にストップをかける
効きにくい
薬を濃くするより薄いほうが生えるという結果も
エマさんが「ウィッグが一番いいじゃん」と言うと、レンさんは「話終わっちゃうよそれ」と返しつつ、ウィッグの進化系のような技術にも後で触れると約束します。
毛と毛は情報をやり取りしている
レンさんがもう1つ強調するのは、毛は1本ずつ独立しているわけではなく、周りの毛と情報をやり取りしていることが最近わかってきた、という点です。
局所的に毛を抜くと、その抜いた数の5倍ぐらいの毛が周囲から生えてくるみたいな。
これはマウスで確認された現象で、毛が抜かれたダメージが周りに伝わり、緊急事態だとして周囲の毛が作られるシグナルが働くそうです。人間でも同じかはわからない、とレンさんは慎重です。
エマさんが「じゃあどんどん抜けばいいの?」と冗談めかすと、レンさんは「減ってくだけだと思う」と即座に否定します。毛同士がやり取りしているなら、局所的に毛を生やそうとすると周りが抜けてしまう可能性もあり、とても繊細な調整が必要になります。
がんの防衛システムをかいくぐりながらちょうどよく毛を生やし、周りの毛とも共存できるようにする。そのコントロールがとても難しく、今まさに挑戦が続いているといいます。
育毛研究の最前線、老化細胞と再生医療
レンさんは最新の研究アプローチをいくつか紹介します。年を取ると、ある毛が周りの毛の成長を抑えることがあり、その抑制を防ぐ研究や、RNAを頭皮に直接注入する方法、試験管の中で細胞ごと毛を作って植える方法などが試されているそうです。どれもまだ実用化はしていないとみられます。
薄毛の原因として、老化細胞 ── 分裂をやめても体内に残り続ける古い細胞。周囲に炎症性の物質を出し、組織の老化を進めると考えられていますも注目されています。本来は取り除かれるはずの「ヨボヨボ細胞」が頭皮に居座り、周りの細胞に「もう髪の毛生えなくていいよ」というシグナルを出しているというのです。
老化細胞は炎症性の物質をばらまき、周りの細胞を休止状態にしてしまいます。その細胞を狙って取り除ければ治療になるのでは、という考え方です。
| アプローチ | 狙い | 状況 |
|---|---|---|
| 毛同士の抑制を防ぐ | 周りの毛の成長を抑える働きを止める | 研究段階 |
| RNAの注入 | 頭皮に直接作用させる | 研究段階 |
| 試験管で毛を作る | 細胞ごと毛を作って植える | 実用化はまだとみられる |
| 老化細胞の除去 | 休止を促すシグナルの元を取り除く | 研究段階 |
ターゲットも攻め方もたくさんあるものの、「これだ」という決定打はまだない、というのが現状です。レンさんは、こうした研究が寿命や健康の研究、がん治療、再生医療とつながっていると指摘します。
いや、これめちゃくちゃ真剣に調べたよだから。
エマさんは、サイエントークを何十年も続けていれば、20年後に「あのとき話した薬が実用化したから使ってきた」と話す日が来るかもしれない、それはエモいと笑います。
ハゲは頭皮が優秀すぎる結果
エマさんが「髪の毛がなくなっちゃったっていうのも切ないね」と言うと、レンさんはこの回でいちばん伝えたかったことを語ります。
髪の毛がなくなっちゃったっていうことが、こう、簡単にこう馬鹿にするようなもんじゃないなってほんと思うよ。
レンさんによれば、頭皮は高度なシステムでがんにならないよう体を守っていて、その結果として髪の毛が減ることがあるかもしれません。
レンさんは昔、母親が父親の薄毛をいじるのを笑っていましたが、今はもう笑わないといいます。家族がイギリスに来たとき、レンさん自身も少しいじられていたそうで、2人は「あれは良くない」と頷き合いました。
悩むのは本当に悩むと思うけれど、だからといって劣っているわけではない、とレンさんは続けます。科学がここまで発展しても解決できない難しい問題であり、自然の摂理でもある、というのが2人の受け止めです。
まとめ、福毛は意外とよくある?
レンさんは全体を振り返ります。毛は寒い夜を生き抜くために生まれ、暑さのために減り、人間は昔から薄毛に悩んできました。薬の研究を通して、成長期のサイクルやホルモン、毛同士のコミュニケーションまで理解が進んできたといいます。
そう考えると、ぴょろっと生えた福毛も、エマさんの言う通り「どちらかといえばバグ」ではあるものの、白い理由まで説明できる存在です。レンさんは、仕組みを知ると毛への敬意を払えるのでは、と語ります。
エマさんは福毛を見つけたとき友達にも話したそうです。その友達も胸に1本長い毛があると言い、中学時代の友達には喉仏あたりに1本長い毛があったといいます。レンさんは「クジラみたいだね」と返しました。
(福毛は)そんなになんかすごい珍しいことじゃないから。なんかもしかしたら気づいてないだけであるかもしれない。
エマさん自身も、透明で細いため5センチになるまで気づかなかったそうです。背中などにあれば気づかないかもしれない、という話に、レンさんも「見つけたら育てようかな」と応じます。
3Dバイオプリンティングで毛を印刷する?
最後にレンさんが言い忘れていた話として、3Dバイオプリンティング ── 細胞などを材料にして、3Dプリンターの技術で生体組織を立体的に作る技術。再生医療への応用が研究されていますで毛を作る研究を紹介します。健康な毛を毛包ごと作って移植するというもので、これも実用化はされていないと思う、とレンさんは話しています。
現在でも、自分の別の部分の毛を移動させる植毛や、人工の毛を植える方法はあるそうです。需要があるからこそ、さまざまな技術が生まれているといえそうです。
ちょ皆さん、毛は大切にというか、毛を愛でていきましょう。
エマさんは、髪の毛や眉毛、福毛を見てメカニズムに思いを馳せるのもいいかもしれないと話します。一方で次回は脱毛編の予定だそうで、散々育てる話をしたあとに毛を破壊する話をする人間を、2人は「愚か」と笑い合って締めくくりました。
まとめ
肩の1本の福毛から始まった今回の話は、毛の進化、薄毛の仕組み、育毛薬の歴史と限界へと広がりました。毛が生えにくくなる背景には、細胞の暴走を防ぐ体の防衛システムがあり、薄毛を笑うのではなく敬意を持つという視点が示されています。
- 毛は寒い夜を生き抜くために生まれ、暑い日中に汗で体を冷やすため人間では減ったと考えられている
- 福毛は成長期が終わらなくなったサイクルのバグで、伸びるのが早すぎて色素を入れる余裕がないため白くなるとみられる
- ミノキシジルは血流と成長期を促す「攻め」、フィナステリドは酵素をブロックして抜け毛を防ぐ「守り」として使われている
- 同じDHTが頭では脱毛、顔まわりでは成長を促す「アンドロゲンパラドックス」が、加齢で眉毛や耳毛が伸びる理由の1つ
- 毛を強制的に生やすことはがんのリスクと隣り合わせで、100%効く育毛薬はまだない



