「形から入る」ポッドキャストはなぜ正解なのか
「Re:week」は、介護は自分にはそんなに関係ないと思い込んでいた介護ど素人の井上拓海さんと、愛媛県や香川県で介護施設を運営するこころココチームが、これからの介護について考えていく番組です。この回はその初回の収録にあたります。
ポッドキャストの収録に慣れていない久保善孝さんは、マイクや録音機材をそろえ、設備から形に入ったと話します。
ポッドキャスト録り慣れないので、ワクワクドキドキっていう感じで。
そうです。もう設備だけから形から入りました。
井上さんは以前、東京・渋谷のコミュニティFM「渋谷のラジオ」で1年間番組を持っていた経験があります。ラジオ局ではヘッドホンやマイク、「オンエア」の表示などがそろい、設備がかっこよかったといいます。
井上さんは、ポッドキャストでも「今ラジオを録っている」という感覚やテンションが大事だと考えています。そのため、久保さんのように形から入るのはかなり正解ではないかと話しています。
なんかそういうテンションがすごく大事だなって思ってて。
だから僕は形から入るってのは結構かなり正解なんじゃないかな。
久保さんも、机や「オンエア」の表示などを買い、社内で収録を進めながら映像にも残せるように整えていきたいと応じています。
介護ど素人と「見えない資本」の仕事
井上拓海さんは長野県小諸市を拠点に、郷土食のおやきをアレンジしたオリジナルのおやきの店や、小さなホテルを経営しています。
同時に井上さんは、地域のまちづくりや中小企業と組み、「見えない資本を見つける」というコンセプトで新規事業やプロジェクトを一緒に作り、運営する仕事もしています。価値はあるのに言葉や形になっておらず、届けたい人に届いていないものに関わる仕事です。
いいですね。見えない資本を見つけるっていうの、かっこいいですね。
会社のそれですよね。ミッケっていう。
介護について、井上さんは自分を「ど素人」と位置づけます。ただ、井上さんの母親は20年ほど介護の仕事を続けており、夜勤もある大変な仕事として横で見てきました。
井上さんにとって介護は、明るく楽しく働きやすい仕事というより、かなり過酷な仕事というイメージだったといいます。自分にも親がいるため、親の介護をどう考えるかも含め、久保さんと一緒に探索したいと話しています。
本当なんか介護の見えない資本みたいなのっていっぱいあると思うんで。
27歳で介護会社を継いだ副社長は何を見てきたのか
久保善孝さんは、愛媛県と香川県で介護事業を運営する株式会社こころココの跡継ぎで、35歳の現在は副社長を務めています。久保さんも27歳で会社を継いでほしいと言われたところから、介護と向き合い始めました。
なんかこう、もっともっと介護ってこうポジティブになるべきじゃないの?とか、あの、いろんな改革をしてきてるので、それをこうもっと深掘りしていきたいななんていうふうに思ってるっていうところですね。
久保さんは7年間で社内のさまざまな改革を進めてきたといいます。その改革を多くの人に知ってもらい、「介護っぽくない介護会社」として、介護っていいよねと思ってもらえる取り組みをしたいと語ります。
介護ど素人の井上さんに対し、久保さんは社員200名を超える会社で介護の「ど真ん中」にいる立場です。
介護の現実と理想とをこう行き来しながら日々葛藤してるっていうのが僕ですね。
番組には今後、こころココのメンバーや、こころココ以外の外部の人たちも出演し、いろいろな角度からこれからの介護を探っていく予定です。久保さんは、社員がどう思うかを聞いてもらうことが一番の楽しみだと話しています。
四Kの業界で年間休日163日はどう実現したのか
井上さんは本編の入り口として、日本には介護事業者がとても多いことに触れます。久保さんによれば、事業者は無数にあり、しかも小さな事業所が多いといいます。
介護業界は四K ── きつい・汚い・危険などの頭文字をとった「3K」に、さらに一語を加えた表現。厳しい労働環境の職場を指す言葉として使われますと言われるほどで、久保さんもネガティブな印象が先行している業界だと認めます。
そのなかで、こころココの現在の特徴は、年間休日163日、ボーナス年4回、福利厚生100項目といった制度です。「日本一働きやすく働きがいのある会社を作る」を掲げて走り続け、それが達成しつつあると久保さんは話します。
こころココの原点は、介護の会社ではありませんでした。元々は建設会社の介護事業部から始まったといいます。
建設会社の「介護事業部」は何をする部署だったのか
こころココの大本は、愛媛県を中心とした地域のゼネコン「株式会社久保組」です。2004年、建設が不景気だった時期に、高齢化で今後介護施設が増えていく流れを読んだ現社長が、介護施設の建設に強い会社を目指して介護事業部を立ち上げました。
井上さんが確認したとおり、当初の介護事業部は自分たちで介護を提供する部署ではなく、建物のお客さんの業界が介護だという意味でした。介護の運営ノウハウは持っておらず、別の介護会社との共同経営の形でスタートしています。
仕組みは、不動産オーナーに介護施設の建設を営業し、入居者の募集は建設会社が、入居者への介護は共同経営先の介護会社が担うというものでした。しかし、いろいろな経緯からうまくいかず、4000万、5000万といった赤字が出たといいます。
久保組は千葉の共同経営先と別々にやる決断をします。ただ、オーナーには何億円もの借金をして建物を建ててもらっていたため、建設会社としてやめるわけにはいかず、2006年頃から運営も自社で担うことになりました。
ノウハウゼロで。
ゼロで。はい。もうその頃本当に赤字で、
当時の社員には賞与もわずかしか出せず、建設会社の経営会議では建設部門から「いつまで介護やるんだ」と言われていたと久保さんは聞いています。
こころココは、オーナーが建てた介護施設を久保組が借り上げるモデルで、建物の利益で介護事業の赤字を埋める自転車操業を続けました。2004年から2010年代初めまで赤字が続き、そこから黒字に転じたといいます。
赤字の会社を変えたのは「ミッションビジョンの力」だった
井上さんは、年間休日163日などの現在の姿が、ノウハウゼロで赤字だった頃の話からはまったく見えないと驚きます。久保さんも、当時は会社として生きるか死ぬかという状態だったと答えています。
これはもう今こう分析すると、本当にミッションビジョンの力かなっていうふうに思ってまして。
2009年頃、社員が80名ほどになった段階で、建設と介護は全然違うという理由から介護部門を子会社として分社化しました。これが現在のこころココです。
それまでの建設会社の一事業部時代は、目先の課題をなんとかする動き方でした。分社化を機に、社長は理念とビジョンをしっかり掲げる必要があると考えたといいます。
理念は、要約すると「お客様の幸せと社員の幸せを実現する」というものです。ビジョンは「日本一働きやすく働きがいのある会社を作り、人材不足に立ち向かい、福祉の未来を先導する」でした。
井上さんは、理念が現実と乖離していると、現場の社員からは「何言っとんぞや」と思われ、理念のほうを書き換えてしまう会社も多いと指摘します。そのうえで、掲げたビジョンに実態を合わせに行くことを何年も続けるには相当な力が必要だと話します。
そうですね。もう実際、あ、これいけるかもと思ったのが二千二十三年だったんですよ。
めっちゃかかってる。10年以上かかってるじゃないですか。
久保さんによれば、2023年に「介護業界の中で日本一働きやすい会社」というビジョンを達成できるかもしれないと感じたといいます。
赤字を脱する会社と抜け出せない会社の差は何か
2018年までは、専務の梅下さんと、久保さんの父親である社長が中心となって経営していました。2009年にビジョンを掲げたあと、まず赤字を解消し、利益が出る体質にする取り組みを梅下さん中心に進めたといいます。
利益率は3%、4%、5%と上がり、8%ほどまで回復しました。具体的には、入居の要件を広げる受け入れ体制の整備や、地域の医療機関との連携、「明日から受け入れます」と動ける社員教育などに取り組んでいます。
もう1つが「サービスシフト」という仕組みです。誰がどこで何をしているかを分単位で見える化し、業務を整理するもので、こころココらしい施設運営のビジネスモデルが2018年までに作られました。
課題
売上が低く、コストが高い赤字の状態
受け入れの拡大
入居要件を広げ、医療機関と連携し、受け入れる社員教育を進める
コストの見直し
サービスシフトで業務を分単位で見える化する
結果
利益率が8%ほどまで回復
久保さんによると、介護施設は二極化しており、小規模事業者は赤字が多い一方、中大規模になると安定的に利益が出る傾向があるといいます。
利益率を上げられる会社とそうでない会社の差について、久保さんはゼネコン由来の予算管理の文化を挙げます。工事の工程や予算、人員を管理するノウハウを、介護の店舗運営に活かしたというのです。
だから要は他の赤字会社と違うのは徹底したPL管理。
(PL管理を)行ってるか行ってないかの違いだと思います。意外とね、福祉から入ってきた会社って、予算とか数字のこと逃げるんですよ。
久保さんは、現場には福祉の思いや「やってあげたい」という気持ちが強いと話します。それを大事にしながらも、予算や収益率を考える文化がないと赤字になってしまうといいます。
2018年に入社した久保さんが見た介護現場の姿
2018年にこころココに入った久保さんが最初に感じたのは、介護がすごいポテンシャルを秘めた業界だということでした。久保さんは元々JR東海で建設・施設系のエンジニアをしており、命を守りながら技術職として働く文化に近いものを介護現場にも見たといいます。
えーと、生活を支えていくっていう文脈、これ本当に技術というか専門性高いなっていうふうに感じたのが、
初め一番初めでした。もっとなんて言うんですかね、もっとチープなのかなと、正直。
久保さんは、介護は適当に手伝っている仕事なのかと思っていたものの、実際には専門性があり、職員が熱い思いを持っていると感じたと話します。
一方で、当時の現場には「経営」がまったくなかったといいます。経営陣は必死に数字を追っていましたが、現場では生産性という発想が皆無で、施設長や主任などの管理職が経営陣と現場に挟まれて奔走していました。
命を守る専門性があり、職員が熱い思いを持っている
現場に経営がなく、生産性の視点が皆無で、管理職が奔走している
だからポテンシャルはめっちゃあるのに、そのポテンシャルが活かされるような仕組みや組織じゃなかった。
一つ一つの現場を見ていくとすごい素晴らしいんだけど、組織としてみたらすごいチープな組織だなみたいな。
四Kを生んでいるのは人事制度の欠如なのか
久保さんが2023、2024年頃まで取り組んできたのは、理念ビジョンの浸透、採用の仕組み化、人事制度の構築の3つだといいます。
久保さんの見立てでは、地域を代表するような介護会社を除き、小規模や中小規模の介護事業所には人事制度も採用戦略もほとんどなく、理念やビジョンがない事業所も多いといいます。
井上さんは、介護の四Kのような環境を生んでいるのは人事制度や採用の仕組みがないことなのかと尋ねます。久保さんの答えは、さらに手前に原因があるというものでした。
まあそうですね、えっと、めちゃくちゃ手前的に言うとそうなんですけど、それを必要とする経営戦略がないっていう。
ビジネスがないです。もう福祉という文脈で入ってきてるので、経営戦略がないから、人事制度も採用戦略も出てこない。
久保さんによれば、かつては介護保険の報酬単価が手厚く、福祉の文脈でやりたいことをやっていれば赤字にはなりにくい時代でした。しかし社会保障が厳しくなり、3年に1度の改定で報酬が圧縮され、要件も厳しくなっていきました。
理念がない
どこを目指すかが定まらない
経営戦略がない
福祉の文脈だけで運営する
人事・採用の仕組みがない
手段として選ぶ理由が生まれない
赤字や過酷な環境
報酬の圧縮で目的のない運営は赤字になる
こうした構造を踏まえ、井上さんは、介護業界に理念を作っていくことが「Re:week」の目的の1つになり得ると感じたと話します。いろいろな視点や尺度が増えれば、事業者が自分たちの理念を考え始めるきっかけになるかもしれないという考えです。
介護の改革に理念が欠かせないのは「商品が人」だから
久保さんは依頼を受けてコンサルティングも手がけています。その経験から、やりたいことがある事業所なら必ず改善できる一方、理念がなければ改善は無理だと話します。
介護の業界、コンサルティングやりながら、なぜ理念がないと改善できないのかっていうのは、商品自体が人だからなんですね。
じゃあ例えば車屋の商品って車、ラーメン屋の商品、ラーメンなんです。介護の商品ってある種人なんだと思うんですよ。
久保さんによれば、介護の改革はドラスティックになり、「もう少し頑張ってください」「もっと早くしてください」と求めることの繰り返しになります。思いや理念がないと社員がついてこず、どんな施策をしても現場が崩壊してしまうといいます。
井上さんはラーメンの例を受けて、ラーメンなら味付けや作り方を磨けば完成度を上げられるが、介護では人が提供するサービスこそがラーメンでいう味付けにあたるコアだと整理します。理念に共感していなければ、仕事をこなすこと自体が目的になり、質も上がりにくいという見方です。
久保さんは、何のために生産性を上げるのかを社員に説明できる状態にすることが大切だと話します。
生産性上げるっていうことは、まあ要は福祉文脈で言うと、もうお客さんにも24時間365日尽くしたいんですよね。現場の職員は。
(そこまで)尽くすと、もう一人に一人、お客さん1人に対して1人の介護士が必要なんで、もうビジネスとしてはもう大赤字の赤字で崩壊するんですよね。
「向き合うこと」が目的化すると何が起きるのか
井上さんは余談として、自身の経験を語ります。昔から周りに病気やうつなど精神的に弱っている人が集まりやすく、性格上とことん向き合ってしまうのだといいます。
その結果、井上さんは無理をして限界を超え、相手との関係が悪くなっていきました。相手の当たりがきつくなったとき、「なんでこんなにしたのに」と思ってしまった瞬間を振り返っています。
思っちゃった瞬間、うわ、この世界線めっちゃ地獄と思って。
いや、もう本当にそういう感じなんですよね、福祉って。
井上さんはそのとき、向き合うこと自体が目的化していたと反省したといいます。本当に大事なのは相手が楽しく元気に、自由に生きられる状態であり、そのためのアプローチは自分が100%向き合うこと以外にもたくさんあるという気づきです。
自分が真摯に向き合わなければと思い込み、向き合うこと自体が目的になる
相手が自由に選択肢を選べる状態が目的で、そのためのアプローチはほかにもあると考える
久保さんは、お互いがきつくなる状態は介護の現場でとても多いと応じます。久保さんは、ときに「偽善」という強い言葉も使いながら、「結局自分のためにやってるのでは」という点を理念を説明しつつ1つずつ丁寧に剥がしていくといいます。
それは結局自分のためにやってるんでしょっていうことを一個一個丁寧に理念とかを説明しながら剥がしていって、納得してくれないとついてきてくれないっていうのが介護の現場ですね。
「子どもに介護の仕事を勧めたいか」という問い
久保さんは3年ほど前から、毎月の新規入職者向けオリエンテーションで必ずある質問をしています。
僕、まあ3年前くらいからオリエンテーション、僕が毎月やってるんですけど、新規入職者だったりとかに。
(質問は)「自分の子供だったり息子さんとかを介護業界で働いてほしいと思いますか?」っていう質問を必ずするんですよ。
久保さんによると、9割ほどの人が「さすがに悩む」「やめてほしい」と答えるといいます。久保さんは、福祉の文脈で突っ走りすぎた結果、理想と現実のギャップが開きすぎてカオスになっていると見ています。
だからこそ久保さんは、子どもにも介護業界はいいと言えるようにするには、ビジネスとして成り立たせ、生産性を求める必要があると、業界の構造から説明していきます。そうすると、分単位で業務を管理するこころココのやり方も腹落ちしてもらえるといいます。
井上さんはさらに、介護は相手によってアドリブが必要で、一定期間ずっと人と向き合い続けるアンコントローラブルな仕事であり、そもそも相当難しい仕事だと話します。久保さんも、正解が無数にあり、答えが真逆になることもある現場だと同意します。
そのうえで井上さんは、分単位で業務を見る仕組みは管理というより、働く人自身が見直しや改善をしやすくするための仕組みではないかと捉えます。久保さんも、サービスシフトは職員・お客さん・管理職がみんなで見ながら毎日ブラッシュアップしていると話しています。
Re:weekはこれから何を探っていくのか
番組の締めくくりとして、井上さんは「Re:week」を届けたい相手を語ります。介護に従事する人、親のケアを意識せざるを得ない人、そして直接は関係なくても会社や暮らしの中でケアや介護を意識し始めた人たちです。
なんかいろんな切り口から介護を再定義していきたいなみたいな感じで思ってますね。
もっと介護なりたいっていう人がもっと増えてほしいし、介護って面白いよねっていう語り口が世間的にもなるように、まあこのRe:weekを通じて、こう、
そういった波というか、そういったのを起こしていければななんていうふうに思ってますね。
井上さんはフェスのようなイベントもやりたいと話し、久保さんも介護の常識を壊して新しい介護を見出したいと応じます。番組では、主に3種類のテーマを扱っていく予定です。
3つ目のテーマについて、久保さんは将来、縦型の介護現場のリアルを描くショートドラマも撮りたいと話します。介護の現場は外から見えにくいため、泥臭いところも含めて発信していきたいという考えです。
番組では、介護の仕事をしている人、個人的に介護をしている人、まだ介護をイメージできないけれど考えたい人からのお便りを募集しています。
まとめ
この初回では、介護ど素人の井上さんと、介護の「ど真ん中」にいる久保さんが、こころココの変遷をたどりながら、理念が介護現場を変える理由を語りました。建設会社の一事業部として赤字から始まった会社が、ビジョンに実態を合わせ続けたことで、年間休日163日などを実現しつつあります。
- こころココは2004年に建設会社の介護事業部として始まり、赤字の時期を経て2009年頃の分社化で理念とビジョンを掲げた
- 赤字脱却の鍵は、ゼネコン由来の徹底した予算管理とPL管理、サービスシフトによる業務の見える化だった
- 久保さんは、介護の課題の根には理念と経営戦略の不在があり、それが人事制度や採用の仕組みのなさにつながると見ている
- 介護の商品は「人」であり、何のために生産性を上げるのかを説明できなければ現場はついてこないと話されている
- Re:weekは組織のあり方、介護職がなくなる世界、現場のエピソードという3つのテーマで介護を再定義していく







