ジョブクラフティングとは何か
今回のエピソードで小橋さんは、日本産業衛生学会の産業医部会が年1回開催する産業医プロフェッショナルコースに、10年ぶりに参加した感想を語っています。
コースには毎年40名ほどが集まり、テーマは毎回変わります。今回のテーマは「働く人のやりがい・つながりに産業医はどこまで関われるのか」でした。
その中で扱われた概念の1つが、ジョブクラフティングです。ジョブクラフティング ── 働く人が自分の仕事のやり方や意味づけを主体的に工夫し、仕事への意欲や充実感を高めていく考え方。ポジティブメンタルヘルスの文脈でよく用いられる。
小橋さんは、同じ仕事でも嫌々やらされているのか、主体的に取り組んでいるのかで、生き生き度が変わってくると説明します。
ただし、生き生き働かなければいけないという話ではないと小橋さんは補足します。せっかくやるなら、仕事にひと工夫加えたほうが、個人にも組織にもプラスになる。そのひと工夫の部分がジョブクラフティングだと整理しています。
仕事にひと工夫を加える3つの方向
小橋さんは、ジョブクラフティングの工夫の仕方にはいくつかの種類があると紹介します。
1つ目は、自分の裁量の範囲で仕事そのものを効率化したり、レベルを上げたりする、やり方の工夫です。
2つ目は、あえて周りに相談してフィードバックをもらうなど、仕事をする上での関係性を構築していく工夫だと小橋さんは話します。
3つ目は、そもそもこの仕事の目的は何か、自分が取り組むことでどんな意味が生まれるのかを考える、考え方・捉え方の工夫です。
小橋さんは、この「やり方・関係性・考え方」の3つが、ジョブクラフティングの主な構成要素だと述べています。
コースでは基本を講師から教わった上で、実際の職場で悩む社員にどう展開できるかを考えるワークも行われ、非常に勉強になったと小橋さんは振り返ります。
上司のエンゲージメントが部下に伝わる
小橋さんが特に印象的だったのは、上司のワークエンゲージメントが部下のワークエンゲージメントに影響するという話でした。ワークエンゲージメント ── 仕事に対して活力・熱意・没頭を感じている、いきいきとした心理状態を指す概念。
これは研究でも言われている点であり、小橋さん自身も実感値として共感できたと話します。
やっぱり自分が率先して楽しく働くっていうのが、結果的に一定チームの関係性だったり、メンバーのエンゲージメントにも寄与するんだろうな。
小橋さんは、今回は産業医というよりも経営者として勉強になったと述べ、自分自身が積極的にジョブクラフティングをしていこうと改めて感じたと語っています。
孤立と孤独は何が違うのか
コース2日目の後半は、職場の孤立・孤独対策がテーマでした。これは以前の回で扱ったソーシャルな健康に直結し、業界としてもホットなトピックだと小橋さんは話します。
まず小橋さんは、孤立と孤独の違いを説明します。これは客観的なものか、主観的なものかという違いです。
孤立とは、物理的につながりが少ない状態です。人間関係の数や社会における役割が客観的に少ないことを指します。
一方で孤独とは主観的なものです。つながりを求めているのに、実際には十分に感じられていない、理想と現実のギャップからくる寂しさだと小橋さんは説明します。
人間関係の数や社会的役割が、実際に少ない状態
つながりを求めているのに感じられない、理想と現実のギャップ
そのため、孤立しているからといって必ずしも孤独を感じているわけではなく、孤立していなくても孤独を感じないとは限らないと小橋さんは指摘します。
タバコ15本分とも言われる孤独の健康リスク
小橋さんは、孤独が無視できないものであることを、健康リスクの観点から説明します。
孤独はパフォーマンスの低下や離職率の上昇だけでなく、タバコを1日15本吸っているのと同じぐらいの健康リスクがあるというレポートも出ていると小橋さんは紹介します。
さらに、脳心疾患や認知症など、いろいろな病気のリスクが上がるとも言われており、孤独は決して無視できるものではないと小橋さんは述べています。
職場の孤独を生む組織要因と個人要因
小橋さんは、職場における孤独感には組織要因と個人要因の2つが関係すると説明します。
組織要因としては、上司や同僚のサポートが挙げられます。特に、同僚と気軽に話ができないことは大きいようだと小橋さんは話します。
そのほか、上司のマネジメントスタイルや、心理的安全性が低い組織風土なども関係してくるとされています。
個人要因としては、性格に加えて、年齢、性別、学歴、職歴、雇用形態、業務スキルなど、本当にいろいろなところが関連すると研究で挙げられていると小橋さんは述べます。
上司や同僚のサポート、マネジメントスタイル、心理的安全性の低い風土
性格、年齢、性別、学歴、職歴、雇用形態、業務スキルなど
小橋さんは、これはストレスモデルと通ずるところがあるのではないかと個人的な感想を添えています。
孤独へのアプローチと組織開発
コースでは、孤独や孤立に対するアプローチ方法を考えるワークも行われたと小橋さんは紹介します。
具体的には、話を聞く、感謝を伝える、役割を明確化する、特定のコミュニティを作る、といった方法が挙げられました。
- 話を聞く
- 感謝を伝える
- 役割を明確化する
- 特定のグループやコミュニティを作る
小橋さんは、こうしたメンタルヘルス的なアプローチが、ひいては組織開発にもつながると述べ、これがジョブクラフティングと並ぶ大きな学びだったと振り返ります。
孤独ではなく「孤高」という考え方
ここから小橋さんは、思いつくままにという前置きで、一人がいい時もあるという話に移ります。
小橋さん自身は一人が好きで、移動や買い物、昼ご飯も基本的に一人だと言います。10代・20代の頃と比べ、人と飲んだり遊んだりする機会も減ってきたそうです。
それでも孤独を感じているわけではなく、人生や仕事の目的がだんだん固まってきたことが影響しているのではないかと小橋さんは考えています。
それは孤独というよりは孤高という概念に近いんじゃないかな。
一方で小橋さんは、孤高を極めすぎても精神的にきつくなったり、独りよがりになったりする側面もあるだろうとし、バランスが必要だと述べます。
普段は違う人生を歩みつつ、いざとなれば気兼ねなく手を差し伸べ合える。そんな根っこでつながる関係性が、たとえ少なくてもしっかりあるなら、それがソーシャルな健康の塩梅なのではないかと、小橋さんは話しながら思ったと語っています。
ポッドキャストが届いていた喜び
最後に小橋さんは、コースの懇親会で多くの参加者と話せたことを振り返ります。
その中には、このポッドキャストを聞いているという方も何人かいたそうです。三重県で最近産業医として働き始め、通勤中に聞いているという方もいました。
あ、こんなところまで届いているんだって、大変こちらが励みになりました。
小橋さんは、2月は外に出る機会が多いと述べ、直接会える機会があればいろいろ話せればうれしいと締めくくっています。
まとめ
今回は、産業医プロフェッショナルコースで学んだジョブクラフティングと孤立・孤独対策を軸に、働く人のやりがいとつながりを産業医の視点で読み解く回でした。
- ジョブクラフティングは、やり方・関係性・考え方の3つの工夫で仕事を主体的にする考え方
- 上司のワークエンゲージメントは部下にも影響し、率先して楽しく働くことがチームに寄与する
- 孤立は客観的なつながりの少なさ、孤独は主観的な寂しさで、両者は必ずしも一致しない
- 孤独はタバコ1日15本分とも言われる健康リスクがあり、組織要因と個人要因が関わる
- 孤独を感じすぎず孤高になりすぎない関係性が、ソーシャルな健康の塩梅だと語られた



