ワーケーション社労士・岩田さんとの出会い
今回のゲストは、岩田社会保険労務士事務所の岩田佑介さんです。前回に続いての登場で、番組パーソナリティの小橋さんとは、対談を申し込んだのとほぼ同じタイミングで開かれた対面イベントで、直接顔を合わせたばかりだったといいます。
そのイベントは、人事労務と生成AIをテーマにしたもの。番組でもたびたび紹介されている坪谷さんや、第19回・第20回に出演したワンハートの吉田さんも一緒に登壇していて、小橋さんは挨拶も兼ねて足を運んだそうです。
岩田さんは「図解 労務入門」だけでなく、ワーケーションに関する書籍も出版していて、ワーケーション社労士として観光庁のアドバイザーを務めるなど、ワーケーションの推進活動をしている人です。
小橋さん自身も旅行好きで、ワーケーションにはかなり興味があるとのこと。ただ、ワーケーションと聞くと、どうしても「バケーション」の娯楽的なイメージが先に立ちますよね。今回はそのイメージを、岩田さんの話でひっくり返していきます。
独立後も営業しまくらずに仕事が回るワケ
岩田さんは、これまで組織に所属しながらコンサルティングをしてきた人です。自分の看板で独立することへの戸惑いはなかったのか、小橋さんはまずそこを尋ねます。
岩田さんによると、株式会社パソナ時代に培ったネットワークや、ライフネット生命保険から別のベンチャーへ移った知人などから、開業当初から仕事をもらえたそう。いわゆる「生みの苦しみ」をあまり経験せずに済んだといいます。
なんか人事制度を作るからやってよみたいな感じで、開業1年目ぐらいから割とそういうお仕事をいただくようなありがたい状況で、そこまで困ったことはあまりなくて。
開業当初は人事制度のコンサルティングが多かったものの、そこから徐々に社労士の顧問業務へと比重が移っていったそうです。今は顧問業務が7割ほどで、残りの3割を講演や執筆といった別の仕事にあてているといいます。
「ワーケーション」という言葉ができる前から出張族だった
ワーケーション社労士という肩書きを持つ岩田さんですが、そもそもワーケーションに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。小橋さんが尋ねると、意外な答えが返ってきます。
ワーケーションという言葉はなかったんですけれども、新卒の、いわゆる国の仕事をしていた時に、本当に全都道府県回らせてもらうぐらい出張族みたいな感じで、出張しながら仕事するっていうのをやってた。
各地の商工会議所と一緒に仕事をするなかで、出張しながら働くスタイルが好きになっていったそうです。ちなみに学生時代は「全く外に出歩かないインキャラだった」とのこと。出張を経験してから、いろいろな場所へ行くのが楽しみになったといいます。
観光庁のアドバイザーに就任したのは、開業した2021年のこと。知り合いが観光庁のアドバイザーを探していて、その縁で任命されたそうです。
当時、観光庁の課題感としては企業にワーケーションをさせたいと。その時に結局、労務管理がネックになっててできてないと。
「ワーケーションに詳しい社労士がいないか」というオーダーがあったものの、当時そんな社労士は誰一人いなかったといいます。そこで「ワーケーションみたいなことをしまくっている社労士ならいる」ということで、岩田さんに白羽の矢が立ちました。
そもそもワーケーションって何?業務型と休暇型の違い
ワーケーションという言葉はよく聞くけれど、その定義や分類は意外と知られていません。小橋さんが改めて尋ねると、岩田さんはまず大きな2つのタイプに分けて説明します。
年次有給休暇などを使ってリフレッシュしつつ、旅先から少しだけ仕事をするタイプ。出張の後に遊びをくっつけるものもここに含まれます。
合宿やオフサイトミーティングのように、業務としてチームで出かけるタイプ。地域で関係性を作るミッションを持った出張なども含まれます。
多くの人がイメージするのは休暇型のほうで、業務型のワーケーションはあまり知られていません。地域に行って関係を作る出張なども、広い意味でのワーケーションだと、今の観光庁は捉えているそうです。
地域の方に行って関係を作るって、それこそマーケティングそのものだったり、ナレッジも貯まったりとか、本当にワーケーションというイメージからはちょっと違いますね。
岩田さんによると、ワーケーションの語源は「ワーク+バケーション」なのですが、この「バケーション」という言葉が前面に出すぎていて、それが企業が導入しない理由になっているといいます。専門家の界隈でも、別の言葉のほうがいいのではという議論がよく出るそうです。
「どこで働くかより、どんな成果か」海外との温度差
海外にはワーケーションという言葉がないのか、という小橋さんの問いに、岩田さんは「なくはないけれど、日本ほど一般用語にはなっていない」と答えます。メディアに出てくる回数も、日本より少ないそうです。
なぜ日本でこれほど言葉が広まったのか。小橋さんは「それだけ日本の働き方が凝り固まっていたからでは」と推測します。岩田さんも、グローバル企業で働く外国人と話したときのエピソードを紹介します。
日本はなんでワーケーションとか騒いでるんだと。どこでやっても成果出りゃいいじゃないかってことを言われて、僕たちはワーケーションなんて意識してないよって言われてはっとしましたね。
どこで働くかにこれほど関心を持つのは日本的で、どこで働くかより、どういう成果を出すかのほうが大事だろうという発想に、岩田さんははっとさせられたといいます。
個人と組織、それぞれのメリットは?
ここから話は、ワーケーションを導入するメリット・デメリットに移ります。まず個人にとってはどうか。岩田さんは「個人にデメリットはあまりないかもしれない」と前置きしつつ、メリットを挙げていきます。
休暇型・福利厚生型のメリットは、自分の好きな場所で働けること。たとえば「この会議さえなければ家族旅行に行けたのに」という状況が解決するので、長期休暇や有給休暇が取りやすくなるといいます。
業務型のメリットとして岩田さんが挙げるのが「越境体験」です。越境体験 ── 普段とは違う環境や人と関わることで、自分の枠を越えて新しい視点や学びを得る体験のこと。人材育成の文脈でよく使われます。普段と違う人と話したり、違う場所で働いたりすることで創造性が高まる、というものです。
学びが深くなるっていうメリットは、これ個人もそうですし、個人を育成しなきゃいけない組織にとってもメリットではないかと思います。
岩田さん自身、社労士の仕事だけをしていると企業の経営者や労務担当者としか話さないそうです。でもワーケーションに行くと、空港の職員や農家、地域開発をするデベロッパーなど、全く違う視点を持つ人と出会える。それが自分の越境体験になっているといいます。
ワーケーションはイノベーションだ、という発想
個人のメリットはわかったとして、では組織にどう納得してもらえばいいのか。小橋さんの問いに対し、岩田さんが真っ先に挙げたキーワードが「イノベーション」でした。
岩田さんの見立てでは、今の日本は一見非効率なものに時間やお金を投資しない「タイパ・コスパ思考」が強い。若者だけでなく経営者もそうなっていて、「それをやって意味あるのか」と野暮なことを言いがちだといいます。
ここで岩田さんが持ち出すのが、イノベーションの語源です。シュンペーター ── 20世紀を代表する経済学者。イノベーションを「新結合」、つまり既存のものの新しい組み合わせから生まれるものとして論じたことで知られます。シュンペーターの言う「新結合」、新しいものと新しいものが組み合わさって、さらに新しいものが生まれるという発想が土台になっています。
オフィスに集まって9時5時半でずっと働いていて新しいものが生まれるのか、という疑問がある。全く違う人や景色に出会うから新しい発想やネットワークができ、それを自社のコアな能力と組み合わせることでイノベーションが起きる、というのが岩田さんの考えです。
小橋さんも、社員との面談で仕事の行き帰りだけだと気分転換にならないので、遠くへ行ったり普段と違う人に会ったりすることを勧めるといいます。イノベーションという観点でも、気分の切り替えという観点でも、プラスになるからです。
岩田さんが自分の会社を「一歩の旅」と名付けたのにも、この発想が関わっています。ライフネット生命時代の上司である出口さん ── ライフネット生命保険の創業者で、後に立命館アジア太平洋大学(APU)の学長も務めた出口治明さんを指します。出口さんが「日本人は飯・風呂・寝るしかやっていない、それを一歩の旅に変えないと新しい発想は生まれない」とよく言っていて、その言葉を社名にしたそうです。
こうして見ると、ワーケーションは単なる働き方ではなく、事業戦略・経営戦略そのものだといえます。だからこそ書籍のタイトルも「経営戦略としてのワーケーション入門」になっているわけですね。
労務の視点で押さえるべきポイントと保険
ワーケーションを導入すると、働き方は複雑になります。社労士・労務の視点から、押さえておくべきポイントは何か。小橋さんが尋ねると、岩田さんはまず「目的の共有」から挙げました。
「これはバケーションのワーケーションなのか、イノベーションのワーケーションなのか」という目的がぶれると、施策もずれてくるので要注意だといいます。そのうえで労務のポイントになるのが、労災と労働時間です。
鍵になるのは「業務なのか、そうじゃないのか」の見極めです。ただ、岩田さんは「そこまで難しくない」といいます。フレックスタイムを使えば柔軟に働く時間を設定でき、時間単位の年次有給休暇を入れれば休暇型のワーケーションもやりやすくなるからです。
労災も出張命令でいけば、基本的には出張中って逸脱がない限りは労災認定を受けたりするので、それを使っていただいたり。
労災認定が心配な場合は、民間の旅行傷害保険や、かつて開発・販売されていたワーケーション保険といった手段もある、と岩田さんは説明します。こうしたものを活用すれば、労務面のリスクはきれいにヘッジできる状態になっているそうです。
一方で悩ましいのが、移動や宿泊にかかるお金です。ここで小橋さんが、独立前の失敗談を打ち明けます。オンライン視聴できる学会を、箱根あたりに泊まって見ようとしたところ……。
案の定、お酒とか飲みながら全然仕事にならなかったっていう。一人だから、じゃあこれは個人として行ったということでいいやっていう。
岩田さんによれば、きれいに整理するなら、主たる業務はきちんと出張命令を出して「業務」だと位置づけるのがよいそうです。懇親会のような付随的なものは、従来の出張と同じ論点なので、ワーケーション単独の問題にしないほうがいいといいます。
逆に個人で行くなら費用は本人が持つべきで、会社が補助する場合は「それが所得税になるのかどうか」を税理士ときちんと詰める必要がある、というのが岩田さんの整理でした。
岩田さんおすすめのワーケーションスポット
話は岩田さん自身のワーケーション事情へ。よく行くスポットを尋ねると、複数の候補を挙げてくれました。
一番の推しは、宮崎県の日向市。サーフィンで有名な場所で、サーフィンスポットの目の前にコワーキングスペースがあるそうです。岩田さん自身はサーフィンをしないものの、波に乗る人を眺めながら仕事をすると生産性が上がるといいます。
もう一つのおすすめが、和歌山県の南紀白浜です。東京から飛行機で1本ですぐ着き、白浜の海を見ながら働けるので、生産性が高まるスポットになっているそうです。
岩田さんはワーケーションを月に2回ぐらいまでにしていて、地方の講演に呼ばれたときは前泊・後泊をワーケーションにあてることもあるとのこと。週末の地方講演には家族を呼んで「親子ワーケーション」をすることもあるそうです。
来月は1週間韓国に。初海外ワーケーションです。家族で韓国に行ってきます。
この韓国行きは、岩田さんが所属する日本ワーケーション協会でのつながりから生まれたもの。韓国でコワーキングスペースを運営する会社と一緒に、釜山でワーケーションをしてくる予定だといいます。
時間・場所・所属の自由度を高めたい
最後に、岩田さんが自身のミッションを語ります。前半のキーワードだった「働き方」に関わる、根っこの部分です。
時間と場所と所属の自由度を世の中的に高めていこうっていうのがミッションで、時間と場所はワーケーションだったりテレワーク、所属は副業、兼業。これが世の中でもっともっと柔軟になっていったらいいなと。
今は出社回帰の流れもありますが、岩田さんはそれ自体は企業の戦略だと理解しています。そのうえで、世の中全体としては、みんなが働き方を選べる状態を作りたいと考えているそうです。
ちょっとワーケーション社労士とふざけた芸名なんですけれども、根は実は割と真面目にやってたりします。
番組の後半では、「図解 労務入門」のテーマについて掘り下げていく予定です。ワーケーションを軸にした前半は、ここで一区切りとなります。
まとめ
ワーケーションは「バケーション」の印象が先に立ちがちですが、岩田さんの話では、越境体験やイノベーションを生む経営戦略として捉え直せるものでした。労務面のリスクも、出張命令や保険などで思ったよりきれいに整理できるようです。
- ワーケーションには、休暇型と業務型の2つのタイプがある
- 個人のメリットは自由な働き方、組織のメリットは越境体験によるイノベーション
- 「ワーク+バケーション」ではなく「ワーク+イノベーション」という捉え方が鍵
- 労務のポイントは目的の共有と、業務か否かの見極め。フレックスや保険で対応できる
- 岩田さんのおすすめは宮崎県日向市と和歌山県南紀白浜。翌月には家族で韓国ワーケーションも






