リプレイスの相談はどんな企業から来るのか
今回のエピソードで小橋さんが取り上げるのは、産業医や産業保健サービスの「リプレイス」、つまり交代です。多くは「今の産業医を交代したい」というケースだと話します。
ただし小橋さんは、産業医や保健師そのものの問題だけではないと指摘します。契約形態、たとえば仲介会社を通じた再委託ではなく直接契約に切り替えたい、という声も増えているそうです。
相談してくる企業の規模にも特徴があります。50人前後で産業医の選任義務が生じる段階の相談とは違い、リプレイスはすでに産業医などを利用している状態からの相談です。
そのため小橋さんによれば、リプレイスの相談は200人、300人といった規模で、課題も面談者の数も増えてきた段階の企業から多く寄せられているといいます。
小橋さんは、リプレイスの理由を大きく2つに分けて説明していきます。1つは専門職そのものの問題、もう1つは契約形態、いわゆる構造上の問題です。
産業医の「ハード面」——高齢化と多忙という現実
まず専門職そのものの問題です。多くは産業医が対象で、小橋さんはこれをさらにハード面とソフト面に分けます。ハード面は「お年を召したか、忙しいか」の2パターンだと話します。
小橋さんは、医師には生涯現役の人が珍しくなく、それは産業医にも同じ傾向があると説明します。実際、医師会のデータでは産業医は50代から70代が中心だといいます。
さらに小橋さんは、30代40代の産業医より、70代80代の産業医のほうが多いという衝撃的なデータもあると紹介します。高齢化を背景に、クリニックを畳むタイミングで交代を検討する相談が来るそうです。
ちなみに今その先生おいくつぐらいなんですか?っていう風に聞くと、90歳みたいですみたいな。
小橋さんは、こうした問い合わせにもう驚かないくらい珍しくないと話します。高齢に伴い、耳が遠くなって面談がかみ合わない、足腰が弱って企業への訪問が難しくなった、といった相談もあるそうです。
ハード面のもう1つが「忙しくなってきた」ケースです。小橋さんは、多くの産業医には臨床や研究といった本業があり、その傍らで産業医をしていると説明します。
本業が忙しくなると、良い先生であっても産業医に割ける時間がなくなってきます。小橋さんは、これもリプレイスの相談として実際に寄せられると話します。
産業医の「ソフト面」——スキル不足とコミュニケーション不足
次にソフト面です。小橋さんは、こちらは本当にいろいろな問い合わせが来ると話します。面談が適当すぎる、自分の専門以外は見ない、偉そうで怖い、といった声があるそうです。
極めつけは「来ない」という相談だと小橋さんは言います。産業医が来ないというお悩みを訴える人事労務担当者向けの、同業者の広告を目にしたこともあると紹介します。
いずれにせよですね、普通にそれ債務不履行でしょっていうような事案が多いです。
小橋さんは、ソフト面の問題を個別に挙げれば切りがないとしつつ、大きく2つに集約できると整理します。産業医としてのスキル不足と、企業とのコミュニケーション不足です。
まずスキル不足について、小橋さんは主治医の感覚と産業医の感覚はスタンスが違うと説明します。ここが十分に理解できていないことが問題だといいます。
その結果として、産業医面談の中で勝手に診断をつけて休職を命令したり、社員個人へのアドバイスはあっても、組織としてどう対応すべきかの助言がなかったりすると小橋さんは指摘します。
もう1つのコミュニケーション不足について、小橋さんは、企業は健康を手段として大事にはしているが、健康を目的に活動しているわけではないと説明します。
そこに健康を目的とする産業医や保健師が入るため、それぞれの立場での対話が必要になります。その対話がないことでこじれて、リプレイスに至るケースが一定あると小橋さんは話します。
具体例として小橋さんは、理想が高すぎるケースを挙げます。新入社員研修で健康管理の枠を丸1日くれないと実施できない、と言われたり、個別事例への産業医意見で無理難題を言ってきたりする例があるそうです。
小橋さんは、こうしたコミュニケーション不足があると、産業医としてのスキルがある先生であってもリプレイスの対象になってくると話します。
仲介会社を通じた「再委託」という構造の問題
続いて小橋さんは、専門職そのものではなく、契約形態の問題でリプレイスとなるケースに触れていきます。
小橋さんによれば、弁護士や社労士の先生には驚かれるものの、産業保健専門職の世界では、人材仲介のような会社を介した再委託が今は普通にできるそうです。
産業医や保健師といった産業保健専門職の世界は、普通の人材仲介みたいな会社さんを介した再委託っていうのが少なくとも今は普通にできるんですよね。
そのため仲介会社経由の場合、実際にサービスを提供する産業医や保健師と、企業との間に直接的な契約関係がないケースも多いといいます。
小橋さんは、多くの産業医や保健師がプールされているというメリットは認めます。一方で、直接契約ができないことに課題を感じ、リプレイスとして相談してくるケースも増えていると話します。
専門性・一貫性が保ちにくいという課題
契約形態が問題になる理由として、小橋さんはまず専門性や一貫性の問題を挙げます。仲介会社は人材仲介のプロであっても、産業保健のプロが中核にいるとは限らないといいます。
その結果、業務や業界特有の事情に疎く、全然マッチしない産業医や保健師が紹介されることがあると小橋さんは指摘します。契約書がざっくりしていて、追加料金をめぐる後々のトラブルが起きることもあるそうです。
小橋さんは、トータルサポートをうたっていても、書式やフォーマットの共有程度で、具体的な部分は産業医や保健師に丸投げというケースも一定あると話します。紹介された人次第で、サービスの一貫性が保ちにくい構造だといいます。
こうした背景から、小橋さんは、仲介型ではなく産業医事務所や産業保健事務所といった事業型のサービス提供者と直接契約したい、という問い合わせが今は増えていると説明します。
柔軟性・スピードと、選ぶときの見極めポイント
もう1つの理由として、小橋さんは柔軟性やスピードの問題を挙げます。月1回の決まった曜日・時間に訪問するのがこの業界の伝統でしたが、健康課題は訪問日以外にも発生します。
そうしたとき、仲介型の契約だとどうしても伝言ゲームのようになり、コミュニケーションの工数も多くなりがちです。この点も、直接契約へ切り替えたいという相談でよくあるケースだといいます。
小橋さんは、中には産業医と直接連絡が取れない仲介会社もあると指摘します。企業の担当者に向けて、この点もサービスを選ぶ際の指標にするとよいと助言します。
多くの人材がプールされる一方、産業保健のプロが中核にいるとは限らず、産業医と直接連絡が取れないこともある
産業医事務所などと直接契約する形。一貫性を保ちやすく、訪問日以外の課題にも対応しやすい
リプレイス以外の選択肢——セカンドパートナーという考え方
小橋さんは、今回の話は専門職やサービスの良し悪しではないと強調します。企業の規模や課題が変われば最適な専門職も変わるため、あくまで企業とのマッチングが大事だという観点で捉えてほしいと話します。
さらに小橋さんは、リプレイスがすべてではないと補足します。既存の産業医を交代させずに、別の専門職を加えるセカンドパートナーという形もあるそうです。
具体例として小橋さんは、定期的な職場巡視や衛生委員会は現任の先生に任せつつ、メンタル対応があまり得意でない部分だけ、別の専門職に個別事例対応をお願いするケースを挙げます。
小橋さんは、顧問弁護士や顧問社労士が複数いることが珍しくないように、産業医や保健師が1人でなければいけないという決まりはないと話します。リプレイスだけでなく、幅広い選択肢を持っておくとよいとまとめます。
まとめ
産業医のリプレイスは、専門職そのものの問題と契約形態の問題に分けて考えられます。小橋さんは、良し悪しよりも企業とのマッチングが大事だとし、リプレイス以外にセカンドパートナーという選択肢もあると示しました。
- リプレイスの相談は、すでに産業医を利用している200〜300人規模の企業から多い
- 専門職の問題は、高齢化や多忙といったハード面と、スキル不足・コミュニケーション不足のソフト面に分けられる
- 仲介会社を介した再委託は、専門性や一貫性、スピードの面で課題が出やすい
- 直接契約できる事業型のサービスへ切り替えたいという相談が増えている
- リプレイスだけでなく、既存の産業医に別の専門職を加えるセカンドパートナーという選択肢もある


