40歳「不惑」の節目と、この回で振り返るもの
冒頭で小橋さんは、この8月で40歳になることに触れます。第40回という配信回数とも重なる節目です。
40歳になると、社会や他人のせいにするような態度は許されなくなると小橋さんは話します。30代までなら通ったことも、40代では「お前が社会を作る側だろう」と突きつけられる感覚があるようです。
なんか30代までだったらチャラチャラそんなこと言っていて許されていたようなことが、40になると、いつまで若者気取ってるんだと。
40歳は「不惑」でもあります。不惑 ── 孔子の「四十にして惑わず」に由来する言葉。40歳で迷いがなくなる、という意味で使われる。迷わず突き進めという意味に加え、最近は枠に縛られずいろいろな経験をしろという解釈もあると紹介します。
さらに40歳は、介護保険や特定健診、がん検診が本格的に関わってくる年齢でもあります。小橋さんは、これからは当事者としてそうした検診を受けていきたいと話します。
本編では、久しぶりの一人回として、前回まで続いた2人のゲスト対談を振り返っていきます。
なぜキャリアヒストリーをじっくり聞くのか
対談の構成は、前半がキャリアトーク、後半がテーマトークです。今回の2人の対談で小橋さんが特に意識したのは、ゲストのキャリアヒストリーをかなりじっくり聞くことでした。
理由は2つあると言います。1つ目は、後半のテーマトークに深みが増すからです。相手の来歴を先に知っておくと、なぜこの人はここでこう考えるのかが見えてくるといいます。
例として第35回を挙げます。SaaSやAIが台頭する中でバックオフィスに求められることを問うたとき、植西さんは「経営者に寄り添うこと」と答えました。
この言葉は、スタートアップのCFOとしてあらゆる課題と向き合ってきた植西さんが言うからこそ、意味と深みが出てくると小橋さんは指摘します。CFO ── Chief Financial Officerの略。最高財務責任者。企業の財務や資金調達などを統括する役職。
相手を知ることが産業保健の実務に生きる理由
キャリアヒストリーを聞く2つ目の理由は、いろいろな人の話を直接聞くことが、普段の産業保健活動に生きるからです。産業保健専門職は「働く人」を相手にするためです。
学問的に真っ当なことを言えても、人生観、労働観、健康観は人それぞれだと小橋さんは話します。だから実務では、相手を知った上でいかに建設的な対話ができるかが大きなウエイトを占めるといいます。
そのためには、いろいろな人の話を聞くこと、本を読むこと、ポッドキャストを聞くことなどが役立つとします。時間が無限にあれば相手を知らなくても理解は進みますが、実際の面談や打ち合わせは時間が限られています。
時間が限られる中では、会話が噛み合わなかったり、相手の尊厳を傷つけてしまったりするリスクがあります。場合によってはクレームにも最悪つながり得ると小橋さんは注意を促します。
資格という後ろ盾がある側と、ない側
小橋さんが今回改めて意識したのは、産業保健専門職の特殊さです。医師や看護師といった国家資格を取ってから社会に出ていくのは、業界としてかなり珍しいと指摘します。
保険診療の限界や医療職の待遇悪化といった問題はあるものの、選り好みをしなければ、その資格で全く食べていけないことはあまりないといいます。嫌なら辞める、他へ行くが比較的しやすい業界だとします。
一方で、多くの人はそうした後ろ盾がない中で社会人をスタートします。ここで小橋さんは、対談で聞いた2人の言葉を振り返ります。
植西さんは「このままだとダメになってしまう」という理由で、社会人になってから資格の勉強を始めた人でした。吉田さんは、不安の中で旗を立てたいという思いで必死にトライアンドエラーを繰り返してきた人でした。
とにかく不安で不安で旗を立てたかった。そういう思いで必死にトライアンドエラーを繰り返してきた吉田さん。
今は活躍している2人ですが、世の中はそういう人ばかりではありません。何かあれば路頭に迷うかもしれない不安の中で、なんとか今日も食いつないでいる人がたくさんいると小橋さんは言います。
特に、直接的な売り上げにつながらないコーポレートやバックオフィスの人たちは、その不安を感じやすい環境にあると小橋さんは見ています。
国家資格を取ってから社会に出る。産業保健に絞らなければ退路がある
資格という後ろ盾がない中で社会人をスタートし、不安を抱えて働く
人事の背中を押すことと、人事の健康をケアすること
前回、吉田さんからは「人事が動いてくれない、考えようともしない、そういう時には人事の背中を強く押してほしい」という話がありました。小橋さんもその通りだと同意します。
それぞれの責任や役割を明確に伝えることは必要であり、それは産業保健専門職自身を守るためにも欠かせないと小橋さんは話します。
ただし、それは人事を攻撃することでは断じてないと釘を刺します。人事だって一人の働く人だからです。
人事だって一人の働く人なんですよね。そして本当はその人だって思うところがある。
人事の側にも、人や組織を良くしていきたいという思いがある一方で、家族や自分の生活があり、易々と転職はできません。減点主義の会社では、下手に動くと自分の立場が脅かされるという心理も働き得ます。
そう考えると、今は何もしない方が総合的に良いという深層心理が働く可能性もあり、むしろそうさせる構造的な欠陥が問題だったりすると小橋さんは指摘します。
産業保健専門職に求められる「想像力」
産業保健専門職として、時には人事に言わなければいけないことは言う。その一方で、一人の働く人として人事その人の健康もケアしていく。この両立が求められると小橋さんは話します。
そうした想像力を培うには、積極的に外の世界を知りに行くことが必要だといいます。その一つの手段が、こうしていろいろな人の話を聞くことです。
いろいろな人の話を聞くことは、実際の産業保健活動をしていく上で少なくとも自分にはすごく役立っていると小橋さんは実感を語ります。純粋に相手のストーリーへの興味も大きいと付け加えます。
コーポレートは事業推進に不可欠だと感じた理由
後半のテーマトークの振り返りに移ります。植西さんとはバックオフィス全般、吉田さんとは人事全般のあるべき姿を深掘りしてきました。
2人と話して小橋さんが強く感じたのは、人事も産業保健も、コーポレートバックオフィスのすべてが、事業を推進する上で不可欠な存在だということです。
第3回では、企業に健康管理が必要な理由をリスク面とブランディング面から説明していました。今回はここに、そもそも事業推進に不可欠だという視点を付け加えたいと小橋さんは述べます。
これは顧客目線でも同じだといいます。いいサービスだと思って契約しても、コーポレート周りがボロボロだと会社の信頼に影響するからです。
契約手続きがグダグダ
申し込んでも手続きがスムーズに進まない
請求が不安定
請求書が来ない、来ても金額が毎回違う
連絡がおかしい
夜中の1時38分など変な時間にしか返信がない
担当がコロコロ変わる
その都度1から説明し直しになる
会社への不信
サービスが良くても「大丈夫かこの会社は」となる
小橋さん自身、サービスを受ける側だったにもかかわらず、担当者の体調を心配して「まずはお体を第一に」と伝えたことがあると振り返ります。
サービスを我々その時は受ける側だったんですけど、半ば産業医面談をやってるみたいな、そんなこともありました。
人的資本経営を「事業推進」から語る伝え方
コーポレート体制の構築には人もお金も必要です。ビジネスサイドで売り上げや利益を出しつつ、両軸で進める必要があると小橋さんは前置きします。
その上で大事なのは、ビジネスを進めるためにはコーポレートが不可欠だという意識を全員が醸成していくことだと小橋さんは話します。
では意識をどう醸成するか。今は人的資本経営や健康経営という言葉自体は浸透してきていますが、経営者にいきなりそれを掲げても響かないと小橋さんは考えます。経営者の目的は事業推進だからです。
そうしたワードを前面に出すと、「人事や産業保健スタッフがやりたいだけなのでは」と返り討ちになりかねないと小橋さんは言います。
持っていき方としては、まず事業推進の上で人や健康は大事だと示し、その手段として人的資本経営や健康経営というパッケージを取り入れて事業を進めよう、という形が有効だといいます。こうすれば経営とうまくリンクできると、今回の対談を通じて感じたと語ります。
対談のエッセンスは労政時報の寄稿にも
最後に小橋さんは、人事労務界隈で有名な実務情報誌「労政時報」のWEB企画に、「人事と産業医の連携」というテーマで寄稿する機会を得たことを紹介します。労政時報 ── 人事・労務分野の実務者に向けた伝統ある専門情報誌。制度改正や実務対応などの情報を扱う。
その寄稿には、植西さんと吉田さんの対談から得たエッセンスを随所に取り入れたといいます。小橋さんは「もう擦り続けてるような感じ」と表現しつつ、それほど貴重な対談だったと振り返ります。
改めて植西さん、吉田さん、そしてリスナーへの感謝を述べ、労政時報のリンクは概要欄に貼るとして回を締めくくります。
まとめ
今回は、植西祐介さん、吉田陽介さんとの2回の対談を一人で振り返る回でした。相手のキャリアや背景を知ることが、産業保健の実務における建設的な対話につながる、という視点が軸になっています。
- ゲストのキャリアヒストリーを聞くことは、テーマトークに深みを与え、産業保健の実務にも生きる
- 資格という後ろ盾がある産業保健専門職と、後ろ盾なく不安の中で働く人との違いを理解しておく必要がある
- 人事の背中を押す一方で、人事も一人の働く人としてその健康をケアする「想像力」が求められる
- コーポレートやバックオフィスは事業推進に不可欠であり、その意識を全員で醸成することが大事
- 人的資本経営や健康経営は、言葉を前面に出すより「事業推進の手段」として経営者に伝えると響きやすい


