契約後にまず決めること、選任報告は必要か
今回のエピソードは、産業医の選任報告がテーマです。前回は産業保健の専任職の採用について、伴走型の専門職を勧めたいという話で締めくくられていました。
ワンセルフと契約が決まると、まずサービス申込フォームを記入してもらう流れになると小橋さんは説明します。契約書や請求書の送り先、使うコミュニケーションツール、オンラインストレージなど、今後の進め方をここで決めていきます。
うちの場合メールだけじゃなくて、Slack、Googleチャット、ChatWorkいろいろ対応してますから。
そのやり取りの中で必ず確認するのが、産業医の選任報告が必要かどうかです。これは第13回でも触れた通り、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、法的に産業医を選任しないといけないというルールが前提になっています。
該当する場合は、契約の手続きと並行して、産業医の選任報告の準備を進めていくことになります。
選任報告に必要な3つの書類
選任報告の準備には、大きく3つの書類が必要だと小橋さんは整理します。このうち2つは産業医側が用意し、残る1つを会社が作成します。
産業医要件は第11回で触れた通り、いろいろな満たし方があります。この後に説明する産業医の種別と合う書類を出していくことになりますが、免許証と要件の証明書類は、いずれも産業医の側で準備すると小橋さんは説明します。
その2つをもとに、3つ目の産業医選任届を会社が作成します。この選任届は具体的には様式第3号と呼ばれるもので、産業医だけでなく総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者にも共通する厚生労働省のフォーマットです。実際の様式は概要欄のリンクを見たほうが早い、と案内されています。
紙からe-Govへ、電子申請が原則義務化
提出方法について、小橋さんはまず全体像を伝えます。もともとは紙で印刷して所轄の労働基準監督署へ持っていくスタイルでした。
ところが2025年1月からは、e-Govという電子政府窓口による電子申請が、産業医の選任報告に限らず原則義務化されました。そのため、まずはe-Govのアカウントを作る必要があります。
ここで小橋さんは、ワンセルフ自身も最近になってe-Govを本格的に使い始めたと脱線を交えて話します。きっかけは、毎月紙で届く社会保険関係の書類の処理でした。
保険料納入告知額領収済みの通知書、そういうなんか長ったらしい名前がついているものが毎月紙で届いて、それを毎回処理するのが大した作業ではないんですけれども、結構ストレスで。
それでe-Govで電子送付してもらうような仕組みにして、やっと今快適になってきたなっていうような、そんな感じなんですよね。
実際には、労基署への提出書類は当面は紙でも受け取ってもらえるとのことです。ただ、いずれにせよ今はe-Govが主流になりつつある、というのが小橋さんの説明です。入力支援サービスもあるので、あわせて参考にしてほしいと案内されています。
会社概要欄の書き方、労働者数の数え方
ここからは、選任報告届を作る上での注意事項です。小橋さんは、実際のフォーマットを見ながら聞くとイメージしやすいと前置きします。
まず会社概要の欄でよく聞かれるのが労働者数です。ここは正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣社員も含めるというのがポイントになります。
もう一つが特定業務です。労働安全衛生法令で定められた特定業務に従事する労働者が500人以上いる場合、産業医は専属でなければならないと決まっています。その観点から、この欄には特定業務従事者の人数も一緒に書きます。
産業医情報と種別・免許番号の記入
会社概要の次は、実際に選任する産業医についての記入です。氏名や生年月日は、医師免許証に記載されている通りに書くよう小橋さんは説明します。
選任日は基本的に契約開始日でよいとのことです。選任種別は「産業医」を選びます。
少し離れた欄に、産業医の種別と免許番号を埋める箇所があります。ここには、それぞれ産業医要件を満たす書類に相当する番号と、医師免許証に書いてある免許番号を記載していきます。
間違えやすい「専属の別」、専属か嘱託か
ここからが、よく間違えやすいところだと小橋さんは注意を促します。まず「専属の別」の欄です。
専属の別は、いわゆる専属産業医か嘱託産業医かという区分です。常時1000人以上いる場合や、特定業務に常時500人以上従事している場合は専属にチェックし、これが専属産業医になります。それ以外は非専属にチェックし、これが嘱託産業医です。
つまり法令上は、この専属か非専属かの違いでしかない、と小橋さんは強調します。専属産業医イコール常勤雇用、嘱託産業医イコール非常勤の業務委託と説明する人もいますが、必ずしもそうではないといいます。
例として、第60回で取り上げた建設業のケースが挙げられます。会社全体で数千人いても、事業場という単位ではどこも1000人に届いていない、というケースは結構あるそうです。
そうした場合は、届け出上は非専属でも、ほぼ常勤で雇用されていて、やっていることは実質的に専属に近い、という状況が起こります。逆のパターンもあります。この関係を理解しておくと、実際の契約方法もより柔軟に考えられると小橋さんは話します。
「専任の別」は専任か兼職か、混同に注意
続いて「専任の別」の欄です。これは、その会社において産業医が産業医の仕事だけを基本的に行うなら専任にあたります。
一方で、産業医以外に研究開発をする、常勤で別の業務もやる、といった形で産業医以外の業務もあわせて会社と契約する場合は「兼職」になります。ただ、産業医が兼職するケースはあまり多くないと小橋さんは言います。
国や自治体の記入例を見ても、産業医の場合はこの欄が空欄でも大きな問題はなさそうとのことです。記載する場合は、この考え方で専任か兼職かを選べばよいとしています。
ここは同業者のコラムでも間違えて書かれていることが多い、と小橋さんは指摘します。会社との産業医契約とは別に、普段は違う病院で臨床している、というケースがその典型です。
そうした場合、本来は「専属の別」を非専属にしておけばよいのに、加えて「専任の別」に兼職と書きましょう、と案内するコラムが意外とあるといいます。
つまり、別の病院で臨床していることと、その会社の中で別業務をしているかどうかは別の話だ、というのが小橋さんの整理です。
専属産業医か嘱託産業医かの区分。1000人以上、または特定業務に500人以上従事などで専属、それ以外は非専属になる。
その会社の中で産業医の仕事だけをするか(専任)、産業医以外の業務もあわせて契約するか(兼職)の区分。別の病院での臨床は関係しない。
参考事項欄の書き方と、報告漏れの罰則
最後に、様式の右下にある「参考事項」の欄です。備考欄のように見えてスルーされがちですが、一定のルールがあると小橋さんは説明します。
会社として初めて産業医を選任した場合は、ここに「新規選任」と書きます。あわせて産業医の専門科目を書き、開業している場合はその分も書く必要があります。
たとえば小橋さんが初めて選任される場合は、「新規選任、産業衛生専門医、法人開業あり」といった形で参考事項を埋めていくことになる、と具体例が示されました。
一方で、新規選任ではないケースもあります。最も多いのは交代の場合で、その際は前任の産業医の名前と、その産業医を辞任・解任する日付を近くの欄に書いて、あわせて埋めていきます。
そのうえで小橋さんは、今回はマニアックな回だったとしつつ、大事な注意点を挙げます。産業医の選任と労基署への報告は、どちらもやっていないと罰則が科されるという点です。産業医を選任したのに報告はしていなかった、という事態にならないよう注意を促しています。
本編で触れた以外にも、複数人を選任した場合は複数枚書く、解任だけを行った場合は解任の欄だけを書くなど、イレギュラーなケースはあります。細かい点については、ワンセルフでも近々この産業医選任報告に関するコラムを出す予定だと案内されました。
まとめ
今回は、常時50人以上の事業場に求められる産業医の選任報告について、必要書類の準備から記入方法、e-Govでの電子申請までが実務目線で解説されました。特に「専属の別」と「専任の別」の混同、そして選任と報告の両方を行わないと罰則があるという点が繰り返し注意されています。
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、法的に産業医の選任が必要になる
- 選任報告には、医師免許証、産業医要件の証明書類、会社が作る産業医選任届(様式第3号)の3つが要る
- 2025年1月から、選任報告はe-Govによる電子申請が原則義務化された(当面は紙でも受け取り可)
- 労働者数はパート・アルバイト・派遣も含めて数え、特定業務従事者が500人以上なら専属産業医が必要になる
- 産業医の選任と労基署への報告は、どちらも行っていないと罰則が科されるため、報告漏れに注意する


