産業医の選任問い合わせが増える1〜2月に考えたいこと
番組では前回、ワンセルフが展開する3つの事業を取り上げてきました。今回はそこから視点を変え、企業が産業保健専門職を見極めるための具体的な話に踏み込みます。
小橋さんによると、1月から2月は、産業医や産業保健師を4月から新しく選任したいという問い合わせが比較的多い時期だといいます。
じゃあ実際に自社にとっていい産業保健専門職を見極めていくためには、商談とか採用面接でどういうことを聞いていけばいいのか、今日は企業側の視点からお話しできればと思っています。
この見極め方は、第16回の産業医の選び方の回でも似た話をしていますが、今回はより具体的な部分に踏み込む内容です。
見極めはアイスブレイクから始まっている
小橋さんは、商談も採用面接も大まかな流れは共通していると整理します。自己紹介をして、現状を共有し、その上で今後について話し合う、という流れです。
そして、見極めは最初の自己紹介やアイスブレイクの段階から始まっていると話します。相手が自社のことを全く調べていないと、それだけで気持ちが萎えてしまうというのです。
やっぱり初めましてってなった時に、全然こっちのことを調べてなかったりすると、ちょっと萎えるじゃないですか。
もっとも、株主構成や財務諸表といった一般的な企業研究まで求めているわけではありません。この事業をやっているんですね、この商品を使ったことがあります、といった最低限の関心があるかどうかがポイントだといいます。
別にヨイショしたり嘘ついたり、そんな必要はないと思うんですけど、これから一緒にお仕事するかもしれないんだから、最低限興味は持ってよって思うじゃないですか。
質問攻めより、企業側から課題を開示する
本題の打ち合わせに入ると、いきなり相手を試すように質問攻めをする企業があると小橋さんは指摘します。しかし、それはあまり効果がないのではないかと考えています。
むしろ、今回打ち合わせに至った背景や自社が抱えている課題を、企業側から積極的に開示したほうがよいといいます。こちらが出した情報への相手の反応で、伴走する姿勢があるかどうかが見えてくるからです。
例えば、50人を超えてしばらく経つのに産業医も衛生管理者もいない、衛生委員会も開いたことがない、健康診断も100%は受けられていない、といった状況を開示する場面です。
こうした課題を開示したときに、専門職がどう反応するかが分かれ目になります。全然ダメですね、それは違いますよと否定から入られたり、上から目線で言われたりすると、この専門職とは組みづらいと感じてしまうといいます。
めっちゃ否定から入られたり、上から目線で言われたりすると、ちょっとこの専門職の先生しんどいかもってなるじゃないですか。
こちらの話を遮ってひたすら持論を語る相手も同様です。その分野に力を入れきれなかったのには、企業なりの事情があるからです。
やっぱりそこは共感というか、ねぎらいというか、そういう態度は最初に欲しいなと思いますし、その上で、じゃあまずはここから一緒にやっていきましょうみたいな、そういう姿勢で接してくれる先生と一緒にやっていきたいなと思います。
小橋さんは、これは専門職としての話以前に、そもそも人として対話ができるかどうかの話だと整理します。まずはここから見極めるとよいといいます。
専門職としての「独立性」をどう確かめるか
次に小橋さんが挙げるのが、専門職としての独立性の担保です。ここは専門職のスキルやスタンスが如実に出るところだといいます。
産業保健専門職の難しさは、最低限の労働法令や企業社会の仕組みを知らないと立ち位置が定まらない点にあります。しかも関わる相手は本人だけでなく、上司や人事、主治医など多種多様です。
関わるステークホルダーが本人だけじゃなくて、上司や人事や主治医といった多種多様な登場人物がいる中で、専門職としての最適解を伝えていかないといけない。
産業保健の現場は労使が主役です。ただ、労使間でOKとなっても、医学的に看過できない場合は専門職としてしっかり意見しないと、結果的にトラブルになることがあります。
一方で、それぞれの登場人物の思惑が一致しているときは、専門職があまり入れていなくても大きな問題にならないことが多いといいます。専門職のスキルとスタンスが本当に問われるのは、思惑が食い違うときだというのです。
そこで小橋さんは、登場人物の思惑が違うときにどうすればいいと思うか、と質問してみることを勧めます。専門職としてどう考え、どう関わるかが見えてくるからです。
思惑が食い違う場面で問う「どう関わりますか」
小橋さんは具体例として、メンタルヘルス不調のケースを挙げます。会社は休んでほしいと思っているのに、本人は働きたいと思っているような場面です。
会社には社員の健康を守る義務があり、一方で本人には働く権利があります。その両方を踏まえた上で、緊急性が高ければしっかり話し合って早めに休ませる判断もあると説明します。
逆に何とか粘れそうなら、主治医の受診は前提としつつ、一時的な業務調整のもとで1ヶ月の猶予期間を設ける、という選択肢も示します。それでも良くならなければ休みましょう、という合意形成です。
1ヶ月猶予期間を設けて、それでも良くならない、そういう場合はさすがに休みましょうみたいな、そういう合意形成を重ねていったら、本人も納得して応じてくれるんじゃないか。
ケースによって最適解は違いますが、それぞれの立場や状況を理解した上で、具体的なネクストアクションまで含めてコーディネートしてくれる。そんな回答をする専門職なら、かなり信頼できるといいます。
各人の立場と状況を理解した上で、専門的な視点から具体的な次の行動まで含めて調整しようとする
そうしたプロセスがなく、会社・本人・主治医のいずれかにただ迎合する
逆に、そうしたプロセスもないまま、会社や本人、主治医のいずれかにただ迎合する専門職は、独立性の観点から不安が残ると小橋さんは話します。
一見、会社に迎合してくれるなら都合がよく思えます。しかし最終的には会社の任命責任が問われるため、耳障りのいいことしか言わない専門職や、何もしない系の専門職はリスクが高いと指摘します。
ただ単に会社にとって耳障りがいいことしか言わない専門職、もしくは全体的にやる気がない、そういう何もしない系の専門職は、結果的に後々のトラブルの温床になる、そういうリスクが高い。
要望を伝えたときの「受け答え」を見る
もう一つの見極めのポイントとして、小橋さんは企業側の要望への受け答えを挙げます。企業側は何をどこまでお願いできるか分からないため、いろいろな要望を伝えることになります。
その際、できないことについてはできないとしっかり言ってくれる専門職がよいといいます。ただし、無理ですと言ってシャットアウトされると、企業側も次の手を打てなくなってしまいます。
こういう条件だったらできるとか、自分たちじゃ難しいけれども、提携先をおつなぎすることはできるとか、こちらがいろんな要望をお伝えした時の受け答えですよね。
代替案を示せるかどうか。要望を伝えたときに建設的な対話ができるかどうかが、一つの見極めのポイントになると小橋さんはまとめます。
完璧な回答より、真摯に向き合う姿勢を
最後に小橋さんは、独立性の部分について補足します。ここは自身を含め多くの産業医専門職が、苦労しながらバランス感覚や深みを身につけていく領域だといいます。
そのため、たとえ完璧な回答でなくても、それぞれの登場人物の存在を意識した上で真摯に答えようとする姿勢が感じられれば、パートナーとして選任を検討していいと話します。
一方で、ふわっといいことを言うが実務の泥臭い部分には向き合わない専門職や、知識は豊富でも自分の責任を回避する発言しかしない専門職の話も、意外とよく聞くといいます。
たとえ少々口下手でも、たとえ完璧じゃなくても、しっかり会社や社員さんと向き合ってくれるような、そんな専門職を個人的にはお勧めしたいところかなと思います。
契約の具体的な条件については、第32回の産業医契約の回を参考に詰めていってほしいと小橋さんは案内します。今回の内容が、専門職を見極める際の参考になればとまとめました。
まとめ
産業医・産業保健師の見極めは、専門知識の量だけでなく、自社の課題にどう向き合うかで判断するとよい、というのが今回の要点です。アイスブレイクから独立性、要望への受け答えまで、対話の姿勢に注目することが勧められています。
- 見極めは、相手が自社に最低限の関心を持っているかというアイスブレイクの段階から始まっている
- 質問攻めより、企業側から背景や課題を開示し、それへの相手の反応で伴走姿勢を確認する
- 課題を否定や上から目線で受けず、共感やねぎらいから入れるかは、人として対話できるかの見極めになる
- 登場人物の思惑が食い違う場面をどう関わるか問うと、専門職としての独立性が見える。伴走と迎合は違う
- 完璧な回答よりも、実務の泥臭い部分に真摯に向き合おうとする姿勢を重視したい



