個体累計成績表、まずは検定牛の基本情報から
今回の研修回で扱うのは、牛群検定成績表の最後にあたる個体累計成績です。この表が終われば、成績表全体の解説もひと区切りになります。
表の前半には、検定牛の基本情報が並びます。牛コード、名号、個体識別番号、父牛の名前、分娩年月日などです。
川上牧場では、牛の名前にあたる名号は、すべて漢字の名前がアップストリーム(頭に付く冠名)になっているそうです。ただし他所から導入した牛は、登録された元の牧場の名前のままで登録が続いています。
名号自体は生まれた時に付いて、その後ずっと変わらないです。個体識別番号(耳標)も変わらないですね。
品種によってコードも変わります。名号 ── 牛の登録名。牧場ごとにアップストリームと呼ばれる冠名を付け、その後に個体固有の名前が続く形式で登録されることが多いの話に続けて、川上さんはジャージー種なら「J」を使うと説明しています。
名前のない「無登録牛」がむしろ普通、という現実
父牛の欄には登録された父牛の名前が入りますが、名前がない牛もいます。研修生が理由をたずねると、それが「無登録牛」だという話になりました。
無登録牛って、どうやったらできるんですか?
牛が生まれたことと個体識別番号だけを届け出て、血統の登録をしなければ無登録牛になります。川上さんによれば、むしろ登録しない牛のほうがほとんどだといいます。
(血統を)全然登録しない人(の)牛の方が(多い)。父牛はわかるけど母牛がわかんない、登録されててもそんなのもあるし。
研修生は、生まれたら登録するのがワンセットだと思っていたと驚きます。登録には費用がかかり、通常だと5000円から6000円ほど、ネットの自動登録なら3000円ほどかかるそうです。
結局そこまで(改良を考える気が)大きくないから、別に生まれたでええやん(ということですね)。
無登録牛は公的な記録には残りませんが、牧場の中での乳量などのデータは牛群検定で取れます。血統がわからなくても乳量はわかりますよ、という売り方もあるとのことです。
累計成績と305日成績、注目すべきは「補正乳量」
検定牛の情報の後には、累計の成績が並びます。検定日日数(産んでから何日搾っているか)、搾乳回数、乳量、最高乳量、乳脂率、タンパク質、無脂固形などです。
ただ、川上さんいわく、この累計の数字を横並びで比べて牛の良し悪しを見るのは難しいそうです。日数がバラバラだと単純比較ができないからです。
ここ(累計成績)で比較して、出てるな、出てないなっていうのを見るのが厳しい、かなり。やっぱり305日成績(の欄)を見て個体を判断します。
そこで使うのが305日成績です。日数の違う牛を「305日」という同じものさしに換算し直した数字で、隣には補正乳量、乳脂率、タンパク質率、無脂固形分が並びます。
補正乳量は、乳脂肪や乳タンパクといった成分を加味して補正した数字です。牛のどれがすごいかを見るなら、この補正乳量が一番出ている牛を残したほうがいい、と川上さんは説明します。
305日搾っている牛は実測値としての305日成績が出ますが、まだ305日に達していない牛には「期待値」が出ます。1回目、2回目あたりの検定成績から、305日でおよそどれくらいになるかを予測した数字です。
その計算はほとんど合ってるっちゃ合ってるんで。もうずっと今までやった計算方法でやってきてるんで、ある程度(信じられます)。
産んでからの日数分の実績をそのまま累計した数字。日数がバラバラなので牛同士を横並びで比べにくい
305日という同じものさしに換算した数字。補正乳量で成分も加味でき、牛の総合的な評価を比べやすい
自分の牧場の中でのランキング、遺伝評価と牛表の使い方
川上牧場では、平均乳量は29キロ、28キロほどで30キロにも届いていない一方、初産の補正乳量を見ると1万を超える牛が多いそうです。成分に寄った数字の取り方をしているため、補正乳量が上がってくるのだといいます。
乳量だけが出てて乳成分がすっごい悪いやつは補正乳量下がっちゃう。でもまあ計算式として乳量が一番メインだから、(乳量の)重み付け的には高いので。
補正乳量をもとに、牛表では自分の牛群の中で乳量が出ている牛がランキングされます。1が少なく、10が一番多いという10段階で、遺伝評価も同じ見方です。
ここで大事なのは、この数字が世の中全体のランキングではなく、あくまで自分の牛群の中での順位だという点です。
この順位づけは交配の計画に使えます。下半分の牛にはF1や和牛を産ませ、上位の牛にはホルスタインを交配することで、能力の高い牛が生まれる可能性を上げていく、という考え方です。
この子たち(上位の牛)は出てるから、この子を同じように(次に)回したいんですよね、みたいなのがわかるようにってことですね。
ただし、この牛表や遺伝評価はあくまで乳量から引っ張ってきた評価です。繁殖成績が抜群にいい牛や体型がいい牛がこの中に紛れている可能性もあるため、川上さんは参考値として「ふーん」くらいに見ていると話します。
遺伝評価10なのに5しか(乳量が)出てないやつとか、まあそうだよね、ぐらいの(見方です)。
クラスター事業で見えた「データを理解していない」問題
話は、国の事業だったクラスター事業の話に移ります。国はこの牛表を参考にするよう呼びかけ、牛表の6以上の牛に対象の種を交配するように、と伝えたそうです。
ところが、多くの農家はその意味がわからなかったといいます。自分がいいと思って交配した輸入の種がクラスターの対象にならず、怒る人がたくさんいたそうです。
うちにとっていい牛につけたのに、なんでクラスター対象じゃないんだよって怒る人がいっぱいいた。
研修生は、怒るということは理解していない裏返しだと指摘します。表の本当の価値がわかっていれば、対象にならない理由もわかるはずだ、という見立てです。
一方で、このクラスター事業がきっかけで「育種とはどういうものか」に目覚めた若い人がたくさんいた、といういい面もあったそうです。牛をどう改良していくかが大事だと、川上さんはずっと言い続けてきました。
「牛を引ける人がすごい」文化と、伝える力の必要性
研修生は、新しい世代はデータの扱いが得意な一方で牛を引くのは苦手、昔からやっている人はその逆になりがちだと整理します。かつては牛を引けたり触れたりする人がすごい、という文化だったといいます。
そのうえで、これからの酪農にはプレゼン力、人に伝える力が求められると話します。従業員を雇い始めている以上、自分の感覚も含めて一定の物差しにして共有することが大事だ、という指摘です。
従業員とか取り始めてるから、そういうのを大事にしなきゃいけないんだよね。自分以外の人を含めてやっていかざるを得ないし。
川上さんは、これを技術の継承の問題として受けとめます。第三者に効率よく引き継ぐには、設備が綺麗とか牛が整っているといったことより、技術の継承がどうなっているかが大事だといいます。
効率的にその第三者に譲るためには、こういうのって大事だと思うんだよね。技術の継承がどうなのかっていうところが。
研修生は、これをバトンタッチに例えます。バトンを渡すはずが、渡してくれないまま急に力尽きて、次の人が拾って走り出さないといけない。しかもそのバトン自体がしっかり作られていない気もする、という不安です。
バトンはいつか渡さなあかんと思うけど、なんか俺が持っとくから一緒に走ってみたいな。(そのうえ)バトン自体がしっかり作られてないような気もする。
この録音自体も、成績表を一つひとつ言葉にして喋る作業になっているからこそ意味がある、と川上さんは受けとめています。
濃厚飼料給与量と繁殖の状況、JMRという指標
表を先に進めると、濃厚飼料給与量の欄が出てきます。検定時に報告した数字に日数などをかけて補正したものと考えられ、日数が多い牛ほど数字が大きくなる仕組みです。
続いて管理繁殖の状況として、寛容日数、分娩間隔、空胎日数、JMRといった項目が並びます。
JMRは種付けしたら0になるやつね。繁殖状況がすぐわかるっていう。どれだけ種がついてないかっていうのがわかります。
つまりJMRの値が大きい牛は、早く種付けしてくださいというサインになります。種がつけば0に戻る仕組みです。
受精の情報としては、直近の受精日、回数、種牛が載り、受精卵移植をした場合はETのマークが付きます。分娩予定日や、次産・次々産の分娩間隔も出てきます。
分娩間隔には、実測値と予測値の2つがあります。すでに受胎している牛の今回のお産についての分娩間隔は、種がついている以上もう実測扱いになります。
(次産分娩間隔は)予想じゃなくてもう種がついてるから、もう実測だよ。
さらに次々産の分娩間隔は、まだお腹の子も産んでいない段階なので、産んだとしたら何日になるか、という予測になります。日数が長い牛には米印が付き、分娩時の注意を促してくれます。
その泌乳を始める前に、休ませていた日数
分娩してから受胎するまでの、妊娠していない期間の日数
どれだけ種がついていないかを示す値。種付けすると0になる
前のお産から次のお産までの日数。理想は380〜400日ほど
体細胞数と未計算情報、参考値は「見ない」という判断
体細胞数については、この累計の欄で見るより、別のページで見たほうがわかりやすいそうです。米マークが付いた牛が体細胞数の高い牛で、淘汰の対象にするか、しっかり治療するかを考える材料になります。
その牛がいなくなった場合に損失率がどれだけ下がるかも出るので、判断の基準にしてもいいと川上さんは話します。
検定日が終わった牛については、次のページに「未計算情報」が出てきます。未計算介入をしている牧場だけに出るもので、介入していない人が大半だそうです。
育成牛の成績を出すには、その牛と父牛・母牛の血統登録が出ている必要があります。ゲノミック検査をしていれば、その結果は別のシステム(繁殖WEBシステム)で確認する形になります。
成績表に出ている育成の数字は「ペアレンツアベレージ」と呼ばれるものです。父の能力と母の能力を足して2で割った、おおよその参考値にあたります。
(ペアレンツアベレージは)めちゃくちゃ信頼度低いんで、ここは全く見ないです僕は。
父牛が無登録のゲノミックヤングサイヤーで、まだ日本で検査されていない場合は数字が計算できず、母牛の成績から数字を引っ張ってくることになります。
もしみんながやったら、日本の酪農の未来まで見えるはずのデータ
本来、牛群検定のデータは畜産クラウドという国のビッグデータの、まず第一に入るべきものだといいます。そこに診療のデータや餌屋さんの売買記録などが加われば、酪農経営を丸ごと見渡せる構想です。
もし多くの農家が牛群検定をやれば、日本全体でどれくらいの牛乳が生産され、どんな牛が育ってくるかが見え、市場の動きまで予測できるはずだ、と川上さんは語ります。人気の種牛の傾向から、次の交配計画も立てられるはずだといいます。
夢のようだな、私には。
研修生は、これを日本の投票システムに例えます。自分一人がやったところで何も変わらない、と思ってしまう構造がよく似ている、という指摘です。
だから川上さんの立場としては、牛群検定をみんなやってよ、と言いながら、こう活用できるんだよと見せていくしかない、といいます。みんながやってくれれば、それをまた新しい数字にできるからです。
牛群検定を「フルコース料理」で説明してみる
研修生は、牛群検定の価値の伝え方を料理の値段に例えて提案します。1000円で買っても、その内訳は1箇所が850円で、周りは100円、さらに5円の部分もある。全部が均等に価値があるわけではない、という考え方です。
ここがメインディッシュで、これはほんま前菜で、これはデザートだよっていうプレゼンをしたら(いい)。
この見方で説明すれば、「全部の料金を払っているのにこの項目は意味がない」という不満に対して、これは前菜であってメインのお肉ではない、と論理的に理解してもらえる、というわけです。
そのうえで、価値をしゃぶり倒せる人はそのままキープでいい、と研修生は言います。意見を言ってくれれば新しい発見にもなり、すでにお金以上の価値を出しているからです。
しゃぶり倒せる人って、逆にこっちのお店側、運営側を盛り上げてくれる人材だから。
一方で、価値を見いだせていない人や、これから新規で囲いたい人向けには、もっとわかりやすいメニューを渡す。プランの切り分けは運営側が面倒になるので、選択肢はむしろ少なくしたほうがいい、という現実的な話にもなりました。
さらに研修生は、牛群検定は1回やるより、2回、3回と続けてデータが蓄積することに意味があると指摘します。だからこそ「いつから旨味が出るのか」を教えたうえで加入させるべきだ、というのです。
あなたたちは、なんぼぐらいの時に、これの意味が出てきますよっていうのがわからんのに、とりあえず3年ローンでとか言うたら組まされるのおかしくて。
「いい機能なのに気づかれていない」問題と、使い勝手を言える強さ
川上さんは、畜産クラウドや繁殖WEBシステムはすでにいい機能を持っているのに、その良さに気づかれていないと感じています。牛群検定をやっている人なら使えるはずなのに、多くの人が存在すら知らないそうです。
開いた時に、あれ、これ全然使えねえなとか思っちゃったりするから。(提供する側が)下手くそ。
研修生は、乳量が1円、2円下がっても声を上げる人たちが、この使えるデータには保険のような感覚で「そんなもん」と接してしまっている、ともったいなさを語ります。
そのうえで、システムに対して「使い勝手が悪い」と言えるようになったほうがいい、と2人は話します。良くなるようにと文句を言うのではなく、どう良くできるかを考え、自分が変われば早い、という向き合い方です。
研修生は、粗探しの100%論ではなく、自分がこうしたいためにこれを利用してやろうという理解がなければ、ちゃんと使えないと指摘します。「めんどくさいから報告していない」でもいいけれど、その報告で何が変わるかを提案できていないのが問題だ、というのです。
画面が変わると使えなくなる人と、「iPhoneを全部知ってるわけない」の話
成績表の見方や並べ方は、毎年のように少しずつ変わってきているそうです。そのため昔の形に慣れた年配の人が、今の形を見られなくなってしまうことがあるといいます。
この帳票も見方とか並べ方とかが変わってきてんだよ。昔のやつと比べると全然見方が違って、今のやつが見れないとかいう年配の方とか(がいる)。
研修生は、パソコンやアプリが苦手という言い分に対しても手厳しいです。自分たちだって新しい端末や新機能をすべて把握しているわけではなく、わからないのはお互い様だ、と話します。
俺らだってiPhone初めて見んねん。全部触れてるわけないやん。なんで(酪農家だけが)全部iPhone持ってるもんね、みたいな(言われ方をするのか)。
川上さんも、SNSで繁殖WEBシステムのことを発信すると「そういうアプリは苦手なんで」という反応が返ってくると明かします。それでも、聞かれれば何でも教える、というスタンスです。
最終的に2人がたどり着いたのは、システムを提供する側の責任という話です。使い方を一方通行でしか想定していない、寄り添えていない作りだからこそ、ユーザーも寄り添ってこないのだ、という見立てでした。
使い方一方通行しか考えてない。(違うやり方で)逆引きした時とかにどうなるかを全然理解してなくて。だから、寄り添ってないねんから、寄り添ってくるわけない。
こうして個体累計成績の解説から始まった研修は、データを本当の意味で使いこなすことの価値と難しさへと広がったまま、成績表の解説をひと区切りとして締めくくられました。
まとめ
牛群検定成績表の個体累計成績は、305日成績や補正乳量、繁殖のJMNといった項目を通して、自分の牛群の中での牛の位置づけを教えてくれます。ただし数字を出すだけでなく、その意味を理解して使いこなせるかどうかが、データの価値を大きく左右する、というのが今回の核心でした。
- 個体累計成績は累計の数字より、305日成績と補正乳量で牛を比較するのがわかりやすい
- 牛表のランキングは世の中の順位ではなく、あくまで自分の牛群の中での位置づけで、交配計画に使える
- JMRや分娩間隔など繁殖の項目は、種付けや分娩のタイミングを知らせるサインになる
- 育成牛のペアレンツアベレージなど信頼度の低い数字は参考値として割り切る見方もある
- 牛群検定のデータは蓄積とみんなの参加で価値が増すが、意味を理解して使いこなせるかが分かれ目になる




