褒め方の本は少ない?コラム回のきっかけ
第44回は、これまで続いた少し固めのテーマから離れたコラム回として、「正しい褒め方を考えてみよう」というテーマで進みます。
池原さんは、叱り方やフィードバックの本は多い一方で、正しい褒め方についてはあまり知られていないと感じたと話します。
ちまたにはこう叱り方とかフィードバックの本はいっぱい出てますけど、あんまり正しい褒め方って、そういえば知らないなって。褒め方ってどうすればいいでしょうね。
宇尾野さんは冒頭で、自分は褒めるのが苦手だと自己開示します。周囲からも昔からそう見られてきたといいます。
先に自己開示しとくと、褒めるの苦手なんですよね。
さらに宇尾野さんは、褒められる側としても素直に受け取りにくいタイプだと明かします。楽屋トークでも「褒められると本当か?と思ってしまう」と話していたそうです。
宇尾野さんが「刺さる褒め」とは何か
どういう時に褒められると嬉しいかを問われた宇尾野さんは、自分のやってきたことをちゃんと見てくれている人の褒めは届くと答えます。
自分がやってることを、この人がちゃんと見てくれるなっていう人の褒めは届きますよね。
池原さんは、それを「何を言うかじゃなくて、誰が言うかが大事」と言い換えます。宇尾野さんは、プロセスや過程を見て褒めてくれる人にこそ心が動くと続けます。
自分のことよりも、そのやってきたことを見て、過程を見て褒めてくれるみたいなのは嬉しいですし、あ、この人さすがだなって思っちゃいます。
宇尾野さんは、褒めてくれた相手を逆に「すごいな」とメタ的に見てしまうとも話します。池原さんはこれを、自分と相手を俯瞰する参謀的なスキルの高さだと受け止めていました。
褒め方の技術を科学した一冊と「ほめほめワーク」
今回のテーマのきっかけは、宇尾野さんが読んでいた『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方』という本でした。ポジティブフィードバックの技術を扱った、読みやすい一冊だといいます。
池原さんの会社では、研修の中でひたすら相手を褒め合う「ほめほめワーク」を行うことがあるそうです。参加者は「寿命が延びた」ような表情で帰っていくといいます。
皆さん「寿命が延びた」みたいな顔して帰っていくんですけれども。
このワークを通じて池原さんが感じたのは、褒めには語彙力が大事だということでした。苦手な人ほど表現が単調になりがちだといいます。
苦手な人は「すごいですね」とか「いい感じですね」とか「良かったです」みたいな。
一方で上手な人は、「先ほどのコメントが的確で的を得ていました」のように、粒度の細かいフィードバックをするといいます。池原さんはそこに褒める力の差を見ています。
褒めすぎが招く「有能感の暴走」
正しい褒め方は科学されているのかという問いに、宇尾野さんは本の内容を紹介します。具体化して伝える、感謝とともに伝える、といった要素が挙げられていました。
宇尾野さんは、若い人は褒めた方がいいという前提で褒めすぎると、かえってうまく伝わらないと指摘します。受け取る側が重たく感じたり、有能感が上がりすぎて苦しくなることもあるといいます。
有能感が上がりすぎて、逆にその、なんか辛くなるというか、自己認識と実態が乖離していくみたいな話もあったりするんで。
池原さんは、これは実際の現場でも起きていると応じます。管理職層はネガティブフィードバックより褒める方が心理的ハードルが低く、褒め続けた結果、実力との乖離が生まれることがあるといいます。
ずっとずっと褒めていると、それこそパフォーマンスとえらい乖離してきちゃったとか、なんか自意識だけが山のように高くなるみたいな。
資質より変化を褒める——『やればできるの研究』から
池原さんは、キャロル・ドゥエックの『やればできるの研究』を引き、褒め方によって子どもの能力が伸びも潰れもするという実験を紹介します。
池原さんによれば、100点を取ってきた子に「頭がいいね」と資質だけを褒めると頑張らなくなるといいます。一方で努力の過程を褒めると、もっと頑張ろうという方向に向かうそうです。
その人の能力だけ、資質だけを褒めると頑張らなくなっちゃう。でも、そのプロセスを褒めるともっと頑張ろうっていう風になる。
これは子育てに限らず部下への褒め方にも当てはまり、資質よりも変化を褒める方がよいと池原さんは整理します。
「頭がいいね」など能力そのものを褒める。頑張らなくなりやすい
努力の過程や前回からの変化を褒める。もっと頑張ろうと思える
宇尾野さんは、子育ての中で身につけた「プロセスを見る」姿勢が、職場での褒め方にも自然に生きていると話します。
おべっかにならないために——失敗した褒め方
宇尾野さんに失敗した褒め方を問われた池原さんは、失敗はいくらでもあると率直に答えます。ポジティブなことは口に出しやすい分、行き過ぎることもあるといいます。
褒めたつもりが相手にとってあんまり触れられたくないところだったりとか、相手が失敗したと思ってるところをピックアップして褒めちゃったり。
さらに池原さんは、言葉が過剰になっておべっかやお世辞のようになり、その後の関係性が悪くなったこともあると振り返ります。
一方で宇尾野さんは、褒めない人だと思われているからこそ、たまに褒めると強く喜ばれると話します。ただし回数が少ないため、厳しい人という印象にもなりやすいといいます。
褒めないキャラ設定をされた瞬間があったんで、そういう人が褒めるとめっちゃ喜ばれるんですよ。
二人は、褒めは自分一人の中でのバランスだけでなく、組織全体でどう取っていくかという視点も必要だと確認します。
AIがすごく褒めてくる問題
話題は、AIが過剰に褒めてくるという現象に移ります。宇尾野さんは、自分のAIはあまり褒めてこないため、この現象を知らなかったといいます。
めちゃくちゃ褒めてきますが、魚野さんのAIも褒めてこないんですね。
宇尾野さんは、ChatGPTやGeminiに「フラットに回答してほしい」という設定を入れているため、褒めが減っているのかもしれないと分析します。
池原さんは、あまりに褒められて怪しく感じ、「忖度なくフラットに回答してください」と入れても、その姿勢自体を褒め返されてしまうと苦笑します。
「その冷静な視点が素晴らしいですね」とかって言って褒めてくるんですよね。
宇尾野さんは、AIにここまで褒められると、本来はもっと伸びしろがあるのに「これでいい」と思ってしまいかねないと指摘します。池原さんも、AIはフラットに見えてポジティブモードで来ると知り、割り引いて受け止める必要があると応じます。
褒めの目的は「その人の成長」——承認という考え方
褒めすぎが現状維持や甘えを招くのではないかという問いに、池原さんは、褒めもネガティブフィードバックも目的は同じだと答えます。
褒めもある意味one of themでしかないし、ネガティブフィードバックもone of themでしかない。どう伝えればこの人が次に伸びていくんだろうって考えるのが一番重要。
メンターに褒め方のガイドを出しているのかという質問に、池原さんは「褒めは教えない」と答えます。教えるのは、相手を承認するとはどういうことかだといいます。
褒めて、その人の行動にプラスこっちの評価が勝手に入るじゃないですか。それよりも、前回から今回こういうふうになりましたねって、ただ伝えてあげる。
平たく言えば「観察したことを伝える」ということです。池原さんは承認をいくつかの種類に分けて説明します。
存在の承認
名前を呼ぶ、体調を気遣うなど、その人がいてくれることを大切にする
行動の承認
「変化したね」「できたね」など、行動そのものを認める
成果の承認
「結果が出たね」と成果を認める。過剰に乗せる必要はない
池原さんは、成果に「天才だ」といった過剰な言葉を乗せる必要はなく、承認だけで十分だと話します。
相手のタイプと状態でチューニングする
一方で宇尾野さんは、有能感が下がっている時など、勇気づけのためにあえて多く褒める場面もあるのではないかと問いかけます。
池原さんは、メンティーのタイプと状態によって褒め方をチューニングしていると答えます。褒めがない方が伸びる人には言わず、自己肯定感が低い人には手厚く褒めるといいます。
褒めを必要としない、むしろない方がストレッチするタイプの人にはあえて言わない方がいいし、めちゃくちゃ自己肯定感が低い方は、逆に褒め褒めする方がうまくいくフェーズがある。
| 軸 | 褒めを必要としないタイプ | 褒めを必要とするタイプ |
|---|---|---|
| 状態が安定している時 | 褒めがない方がストレッチするため、あえて褒めない | 自己肯定感が低い人には、手厚く褒める |
| 落ち込んでいる時 | 状態が下がっている時は、褒めることで持ち直すこともある | 手厚く褒めることで単純に持ち直す |
宇尾野さんは、こうした状況の見立ての重要さに同意します。落ち込んでいる時は褒めてもらった方が持ち直すこともある、と二人は確認します。
褒めなくても「見たこと」を伝える
宇尾野さんは、自分はチアアップのような言葉は少ないものの、「見たことをちゃんと伝える」ことは強く意識していると話します。
こうだったねとか、それってこういう風に私は感じたよっていうことは話す。褒めてもないし、怒ってもないっていう状況をちゃんと伝える。
褒めても怒ってもいない事実を伝えることが、関係構築の上で大切だといいます。池原さんは、それは実は魚野流の褒めをしているのではないかと受け止めます。
自分を正しく褒める——経営者へのメッセージ
池原さんは、経営者に向けて、自分で自分を正しく褒めることも大事だと投げかけます。経営者は自分に厳しい人が多いからです。
経営者の人って自分に厳しいじゃないですか。
宇尾野さんは、自分に対する存在承認はできている方だと答えます。1日を終えて「今日はよくやった」と認めることを、精神的な栄養として大切にしているといいます。
その上で宇尾野さんは、セルフフィードバックが効きにくい人には、外側からのフィードバックを意識的に届けていると話します。
褒めを仕組みに組み込む
最後に宇尾野さんは、褒めるという行為自体がチーム作りや組織開発に重要だという点は研究でも示されていると整理します。
褒めるっていうことは、行為自体がチームを作っていくとか、組織開発していく上では重要だっていうことは研究でも出てます。
褒めることでメンバーのチャレンジが増えていく構図はどこにでもある話で、うまく仕組みに組み込めるとよいと宇尾野さんは締めくくります。
二人は、褒めは状況を見立てて相手に合わせて行う高度なコミュニケーションだと確認し、宇尾野さんは改めて紹介した書籍を勧めて回を閉じます。
まとめ
今回は、褒めるのが苦手だという宇尾野さんと、1on1のプロである池原さんが、成長につながる褒め方を具体的に掘り下げた回でした。褒めは感覚ではなく技術であり、相手や状況に合わせて使い分けるものだという視点が繰り返し語られました。
- 刺さる褒めは「何を言うか」より「誰が言うか」。プロセスを見てくれている人の褒めが届く
- 資質ではなく変化・プロセスを褒める方が、次への意欲につながる
- 褒めすぎは有能感の暴走や実力との乖離を招く。改善点とのバランスが要る
- 褒めの目的は「その人の成長」。過剰な言葉より、観察した事実を伝える承認が効く
- 相手のタイプと状態でチューニングし、褒めを個人と組織の仕組みに組み込む







