グローバル派がなぜ日本人学校を選んだのか
坂本達夫さんが切り出したのは、森下明さんがFacebookに書いていた「子どもがシンガポールの日本人学校に入った」という話題です。森下さんの長女は、シンガポールにある日本人学校の小学校に編入しました。
坂本さんはヨーロッパで、企業から2〜3年の任期で赴任し、いずれ日本に帰る前提の家庭が日本人学校を選ぶ例をよく見てきたといいます。グローバルを掲げる森下さんが、帰国前提ではなく「あえて」日本人学校を選んだことに、素直に驚いたそうです。
そうじゃなくて、あえて日本人学校っていうのが、え?って結構もう素直にびっくりしたんで、その辺の意思決定の背景とか聞いてみたいなと思った次第でございます。
森下さんによると、長女は2026年1月からブリティッシュ系のインターナショナルスクールに通い、同年9月1日に日本人学校へ編入しました。日本人学校は日本と同じ4月始まりのため、「入学」ではなく「編入」になります。
最初にインターナショナルスクールを選んだ理由は、英語に加えて日本人の先生による日本語サポートがあったからです。シンガポールでは、日本語サポートが付くインターナショナルスクールはそれほど多くないといいます。
文化祭の出店で見えた「グダグダ」
森下さんは、これは良い悪いの話ではなく個人の価値観を多く含むので、話半分で聞いてほしいと前置きしました。インターナショナルスクールは開かれた環境で、親はいつでも校舎に入って様子を見られ、イベントも多かったといいます。
子どもや友達、先生の振る舞いを見ていて、森下さんはポジティブに言えば「自由な校風」だと感じる一方で、懸念も持ちました。田舎出身で体育会育ちの森下さんは、自由は規律・規範・マナー・ルールを前提に謳歌するものだという立場をとっています。
その懸念がはっきりしたのが、文化祭のような行事でした。子どもたちが育てたレモンでジュースを作るなどして出店し、親が払ったお金を寄付に回す、よくできたプログラムだったといいます。
ところが約4時間の開催時間のうち、出店は開始早々に売り切れ、残りの3時間45分ほどは手持ち無沙汰な人が大勢いたそうです。来場者数から必要な量を逆算する、あるいは多めに準備するという感覚が見られなかったと森下さんは話します。
なんですけども、立ってたら日本人からするとオペレーションが完全にグダってるんですよ。
予測とかって何?みたいなのがまあまああったんですよ。
森下さんはさらに、小さな子どもが商品を正確に渡して代金を受け取るには先生の指導が必要なのに、その介入もあまりなかったと指摘します。規律のなさが、子どもの所作に染み出ていると感じたそうです。
娘のレジ当番と授業中のトイレ
坂本さんが「お金を受け取ってもお礼がない」「レジから作る人への引き継ぎがない」といった例を挙げると、森下さんは、まさにそうした状況だったと応じます。長女のひなこちゃんのレジ当番の時間には、本人も先生もその場に現れず、連絡のやり取りもなかったといいます。
それがじゃあひなこちゃん固有の問題なのかっていうと、見渡すといや、これはどうやら固有の問題ではなく、これ全体間の問題だぞっていうことを観察して見て取れたんですよね。
森下さんは行事以外の教室の様子にも目を向けました。授業中にちょっと抜け出してトイレに行く生徒も見かけたといいます。
森下さんが通った日本の公立小学校では、トイレは授業の合間の5分休みに済ませるものという暗黙のルールがありました。坂本さんも、行くなら先生に許可を得てから、と日本の小学校の「あるある」を重ねます。
トイレは休み時間に済ませ、授業中は先生の許可を得る。明文化されていなくても規律が共有されている
自由な校風で、授業中に抜け出す生徒もいる。行事でも先生の介入や引き継ぎが少ない
流行に流されず「どういう人になってほしいか」を考える
森下さんは、そうした振る舞いがインターナショナルスクールとして当たり前なのかは、自身が受けたことがないのでわからないとしています。そのうえで、母子留学や教育移住といった流行の言葉に流されず、自分と対話することを大事にしました。
どういう人間になってほしいかをゼロベースで考えた結果、森下さんが望んだのは、規律や規範をわきまえた上で自由を選ぶ人でした。叩き上げの妻も、その考えに同意したといいます。
それでも本人の意思を尊重するため、森下さんは娘と手をつないで買い物に行く道中に、日本人学校についてどう思うかと切り出しました。少しビビっていた森下さんに対して、娘の返事はあっさりしたものでした。
手繋ぎながらさあこれさ、どう思う?って言ったら、うん、いいんじゃない?とか言ったから、あ、いいよと思って編入させたんですけど。
長く住むからこそ日本語と文化を先に
森下さんの家族は、天変地異などがない限りシンガポールに長く住むつもりです。そのため、語学は腰を据えて見られると考えています。
判断の背景には3つの考えがあったと森下さんは話します。まず日本語と日本の文化を人として身につけてほしいこと、言語は時期さえ間違えなければ後からどうにでもなること、そしてテクノロジーの進歩でマルチリンガルやトライリンガルになる意味そのものを考え直す必要があることです。
観察
インターナショナルスクールで規律の弱さを感じる
価値観の確認
規律を前提に自由を選べる人になってほしいと考える
前提条件
シンガポールに長く住むので語学は後からでも見られる
決断
本人の同意を得て日本人学校へ編入
教育に正解はなく、あるのは価値観
坂本さんが強く共感したのは、教育には絶対に正しいやり方があるわけではなく、どういう人間になってほしいかは正解・不正解ではなく価値観だという点です。
やっぱりその教育ってなんか一個のやり方が絶対正しいとかでは全然ないし。
坂本さんは例として、年上を敬う東アジアの儒教 ── 古代中国の孔子に始まる思想。親や年長者を敬うことや礼節を重んじ、東アジアの家族観や社会規範に大きな影響を与えてきました的な価値観と、年齢に関係なくフランクに接する価値観を挙げます。自主性に任せる緩い環境と規律ある環境も、どちらが良い悪いではないと話します。
森下さんは、最終的には本人次第だとしつつ、夫婦とも日本語しかネイティブではないことに触れました。家族が心底分かり合うには、言語そのものより、その前提にある文化や規範の理解をそろえておきたいという「親としてのわがまま」があるといいます。
母国語で考える力が土台になるという考え
坂本さんの子どもが通うオランダのインターナショナルスクールも、保護者に「母国語教育をちゃんとやってください」と強く求めてくる学校だそうです。基礎となる言語力や論理的思考力は、母国語で学ぶのが一番発達するという考え方です。
きちんと発達させた上でアプリケーションとしての言語っていうのができるみたいな順番じゃないと、
ね、なんか言語は喋れるんだけど、すげえ考え浅いとか、めっちゃ幼稚なことしか言わないみたいな人になっちゃいかねないので、
そのため、幼いうちから日本語を忘れさせて英語だけで育てるやり方は、坂本さんが今いる環境ではあまり推奨されていないといいます。
母国語
言語力と論理的思考力の土台を育てる
応用としての外国語
土台の上に使える言語を積み上げる
翻訳技術の時代に残る人間の価値とは
森下さんは、少なくとも5年以内に、互いに違う言語を話していてもほぼリアルタイムでネイティブのように通じる技術が実現すると信じていると話します。そうなれば、言語を話せること自体の価値は大きく下がると考えています。
森下さんによれば、そのとき重要になるのは、どんな文化や規範を背負った人間であるかです。AIをめぐる議論でも、人が物理的にいる価値は「気持ちいいやつか、会いたいと思わせるやつか」という人格の部分に移ると言われているといいます。
楽しいやつとか、なんかそういったところの方が大事なんだ、人間が持つなんかフィジカルな要素がもっと前面に出てくると思うんで、そこ重視なのかなって個人的には思ってる。
坂本さんも「めちゃくちゃわかる」と応じ、昼間の30分収録では足りない、お酒を飲みながら3時間話したいテーマだと笑います。反響があれば続編もあるかもしれない、として回は締めくくられました。
まとめ
森下さんが娘を日本人学校へ移したのは、インターナショナルスクールで感じた規律の弱さと、言語よりも文化や人格を大切にしたいという価値観からでした。坂本さんも、教育に正解はなく、母国語が考える力の土台になるという点で共感を示しています。
- 文化祭や教室の様子から、森下さんは規律の弱さが学校全体の傾向だと感じた
- 森下さんは、規律や規範を前提に自由を選べる人になってほしいと考え、本人の同意を得て編入を決めた
- 坂本さんの子が通うオランダのインターも、母国語教育を重視するよう保護者に求めている
- 翻訳技術が進めば、言語より文化理解や「いいやつ」であることの価値が高まると森下さんは見ている






