テンションが上がった一冊
きっかけは、『実例から眺める「豊かな」文法の世界』という別の本でした。その本を読んでいて、『実例が語る前置詞』にたどり着いたんです。
2021年の本で、今年出たベストとは言えないんですけどね。
前置詞の話そのものも面白いんですが、僕が一番グッときたのは冒頭の「本書が推奨する学習姿勢」という部分でした。
「はじめに」でこんなにテンションが上がる本は、ここ最近なかったです。
「抽象」と「具体」は、わかりにくさの話じゃない
この本で出てくるのが、抽象知識と具体知識という話です。
抽象と具体という言葉は、最近はもう当たり前になってきていると思います。でも「抽象的」というと、わかりにくいとか図示できない、というイメージを持つ人もいるんじゃないでしょうか。
この本では、そういう意味ではないと書かれています。「抽象」とは「共通性の抽出によって得られるような」という意味で、「具体」とは「共通性抽出の母体として使われるような」という意味なんです。
聞いてもピンと来ないので、日本語で考えてみます。この本では「治安」という言葉が例に使われていました。
もし子供に「治安ってどういう意味?」と聞かれたら、皆さんはどう答えますか。
多くの人は、頭の中で「治安がいい」「治安が悪い」という言い方を思い浮かべるんじゃないかと思います。海外のこの国は治安が悪い、日本は治安がいい、というふうに。
そういういろんな場面で使われるものから抽出したものが抽象で、「治安がいい」「治安が悪い」という実際に使われる場面が具体、というわけです。
英語も「使われる場面ごと」で覚えておく
これが僕らのやっている英語学習の話につながります。
英語学習だと、まず単語の意味を覚えますよね。でも実際に英語を使うとき、単語だけで使うことってあんまりないんです。
英語は一単語では使われないから、フレーズで覚えましょう、文で覚えましょう、とよく言われます。これはまさに、この本にある使用基盤モデル ── 実際に使われている用例をもとに言語を習得していく、という言語学の考え方に沿っているんだと思います。
たとえば薬を飲むというとき、drink medicine とは言わないですよね。take medicine と言う。実際に使われる場面ごと覚えておくと、そのまま使えるわけです。
前置詞の in も同じでした。in は何かの「中で」というイメージで捉える。それも大事なんですが、ネイティブはそのイメージだけで話しているわけじゃない。
in a moment とか in his room とか、具体的な使い方を頭の中に入れておいて、それを引っ張り出しながら話しているんじゃないか、と本には書かれています。
確かにそうだよなと思いました。僕らも日本語で「治安が高い」とは言わない。それは「治安がいい・悪い」という並びの中で高いとは言わないよな、という具体的な知識にアクセスして判断しているんですよね。
本質主義から脱却する、というおもしろさ
この本には「アウトプットにおける具体知識優先の原則、本質主義からの脱却」という見出しがあります。
一単語の本質的な意味だけを頭に入れておくんじゃなくて、いいとか悪いとか、そういう言葉とセットで頭に入れておくのが大事、ということですね。
実は僕、抽象知識が好きなんです。文法のルールとか、単語のイメージとか。大西先生に出会ったこともあって、一つの事象でいろんなことをカバーできる知識に惹かれてきました。
でも言葉を使うという点においては、めちゃめちゃ具体を頭の中に入れておかないと使えないんですよね。
じゃあ熟語を覚えればいいのかというと、in の例でもわかるとおり、熟語でもない。熟語も知識として必要だけれど、この本は熟語を覚えようという本でもないんです。
わかりやすいのは、また日本語の例でした。「そんなこと急に言われても」の後には、何が続くと思いますか。
「そんなこと急に言われても困る」「そんなこと急に言われても無理」。僕らはこういう具体的な文でインプットしているんですよね。熟語でもないし、文全体でもない、よくある言い回しというのがたくさんあるんです。
当てられて口から出てきた言い回し
話しながら思い出したことがあります。大西先生の講演会で、一度当てられたことがあるんです。
僕は前列に座るタイプで、その日も開演のだいぶ前に行って前列に座りました。そうしたら「おかけになった電話番号は?」と、僕に向かって言われたんですよ。
そこで僕は「使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度おかけ直しください」と、思わず言ってしまったんです。
この最初の学習姿勢を読むと、英語学習に迷わなくなるんです。どっちが大事とかじゃなくて、抽象も具体もどっちも大事。ただ、言葉を使う上ではこういうモデルがあるから、具体を意識しておいた方がいいよね、という話です。
前置詞は、英語を長くやっている人ほど大体わかっているし、踏み込みすぎると危ういと知っているものだと思います。それでも発見できることがたくさんありました。
普段から内省しがちな人、自分の頭の中でぐるぐる考えがちな人、言葉が好きな人はかなりハマると思います。特に最初の部分だけでも見てみてください。書店にいつも並んでいる本ではないですが、Kindleでも手に取れます。
もし間違っているところや「簡単に言うとこういうことじゃないの?」ということがあったら、ぜひ教えてもらえたら嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました。それではまたお会いしましょう。
まとめ
抽象知識だけでなく、実際に使われる場面ごと具体的にインプットしておくと、言葉は使えるようになる。『実例が語る前置詞』の「はじめに」を読んで、そう改めて気づきました。
- 抽象は「共通性の抽出」、具体は「共通性抽出の母体」で、わかりやすさの話ではない
- 英語は単語のイメージだけでなく、in a moment のような具体的な使い方ごと覚えておく
- 熟語でも文全体でもない「よくある言い回し」を具体的にインプットするのが大事
- 抽象も具体もどちらも大事だが、言葉を使う上では具体を意識しておくといい



