自チームの公式戦でも起きたハイプレスの苦しみ
この回は、前回取り上げたアーセナル対ブライトンのハイプレスマンツーマンが、ゆうせいさん自身の指導現場でも起きたという話から始まります。
シルバーウィーク中に行われたリーグ戦第5節は、結果は1対1の引き分けでした。前半にプレスを受けてミスが出て、終盤に大きなミスから失点したといいます。
後半はハーフタイムに話し合い、途中でシステムを変更して同点弾を決めました。ただ、追加点までは奪えずにドローで終わっています。
自チームのフォーメーションは4-1-2-3、相手は4-2-3-1で、ミッドフィールダーがマンツーマンでマークされる形でした。アーセナル対ブライトンと全く同じ形ではないものの、ハイプレスに苦しめられたという点が共通していたとゆうせいさんは話します。
相手のプレス構造と、詰まってしまった前進
相手のプレスは、ワントップがパスコースを切りながらパスを出させないようにし、トップ下が自チームのボランチをマンツーマンで見る形でした。
自チームのサイドバックには相手のサイドハーフがマンツーマンで付いてきました。そのため、キーパーとセンターバックがフリーになる局面はあったといいます。
ところが、少し高い位置まで前進したあとにパスコースが見つからず、出しどころがなくて詰まってしまいました。そこでパスミスが起き、相手にインターセプトされて失点につながっています。
相手がワントップなので、最初の前進はそこまで難しくないとゆうせいさんは見ていました。しかし実際のピッチでは、選手たちに焦りが見え、強度の高いプレスにビビる素振りがあったといいます。
相手がワントップだとしても、なかなかセンターバック2人とキーパー、そこに加えて(ボランチが)入ってくるかで、センターバックによって前進するかどうかっていうのはなかなかできていなかった。
外から「センターバックがフリーだぞ」と声はかけたものの、選手はキーパーを使って逆のセンターバックに変えるところまでしかできませんでした。フリーになったセンターバックからのドリブル前進以外の解決策を、選手自身が導き出せていなかったといいます。
ワントップがコース切り
相手のワントップがパスコースを切り、パスを出させないようにする
ボランチとサイドバックにマンツーマン
トップ下がボランチを、サイドハーフがサイドバックを人に付いて見る
高い位置で出しどころが消える
センターバックが前進しても次のパスコースがなく詰まる
ミスから失点
詰まったところでパスミスが起き、インターセプトされて失点
ハーフタイムのボードで選手が見つけた前進策
ハーフタイムには、相手がどうプレスをかけてきているかを選手からヒアリングし、ボードに磁石を並べて「どう前進できるか」を話し合いました。
ボードで見ると選手たちは冷静に話すことができ、前進の道筋が見えてきたといいます。ゆうせいさんは、ボード上だと選手が落ち着いて考えられるという手応えを語っています。
出てきたのは、ボランチがサポートして3人目で逆のセンターバックに届ける案や、インサイドやウイングが関わって3人目、または直接フリーになって届ける案でした。
後半に入ると自チームはボールを握ることができ、序盤は相手のプレスにそこまで困らなかったといいます。サイドバックも、相手のサイドハーフがセンターバックに寄った瞬間を突いてサポートに動き、前進する素振りがありました。
一方で、インサイドの選手がマンツーマンで付かれたときの対応は、後半もなかなか出てこなかったといいます。相手がどこまで付いてくるかを見て大きく動く、あるいはセンターフォワードが落ちて3人目で前向きに届ける、といったプレーを今後練習で身につけてほしいと話しています。
なぜハイプレス相手だとビルドアップが難しいのか
後半はハイプレスの打開方法へと話が移ります。まず、なぜハイプレス相手だとうまくビルドアップできないのか、ゆうせいさんは3つの理由を挙げます。
1つ目は、キーパーを含めない場合に人数が同数になり、味方が余らないことです。ただし今回は相手がワントップでセンターバックが空いていたため、この点はあまり当てはまらないといいます。
2つ目は、自陣から短いパスをつなぐのが難しくなることです。ビルドアップは近くの味方でつなぎながら相手陣に侵入するのが基本ですが、ハイプレスだと短くつなぐこと自体が難しくなります。
3つ目は、ライン間 ── 相手のディフェンスラインと中盤のラインのあいだにできるスペース。ここで前向きにボールを受けられると、一気に前進しやすくなりますにスペースがあっても届けられないという技術的な問題です。パスコースを作れない前線と、そこへ届けられないボール保持者の両方に原因があるといいます。
つまりこの試合は「スペースが無い」問題ではなく、フリーな味方が見えているのに届けられない問題だったといえます。
人数が同数になる
キーパーを数えないと味方が余らず、フリーな選手が生まれにくい
短くつなげない
近くでつなぐ基本の前進が、強いプレスで成立しなくなる
届けられない
ライン間が空いていても、コースを作れず、パスも通せない
キーパー参加と大きな移動でつくる打開策
ここからは打開策です。1つ目は、キーパーをビルドアップに参加させて数的優位をつくることです。前から人に付いてくるチームはフィールドの10人を10人で見るため、担当のいないキーパーを足せる、という発想です。
今回は相手がワントップだったので、キーパーが加わればフリーになったセンターバックへ簡単に届けられました。相手がツートップの場合は話が変わりますが、キーパーが加わることで常にフリーな選手が生まれる構造をつくれるといいます。
2つ目は、長い距離を移動して相手がどこまで付いてくるかを確認することです。試合中も、インサイドハーフの選手に「長い距離を動いてみよう」と伝えたといいます。
マンツーマンは人に付く守備なので、大きく動けば相手は反応せざるを得ません。ウイングが逆サイドまで動いたり、センターフォワードがボランチの位置まで落ちたりすると、相手に迷いが生じます。
付いてこなければフリーな選手が生まれ、付いてきたとしても元いた場所に大きなスペースが空くので、そこを活用できるとゆうせいさんは説明します。
動いた選手がそのままフリーになり、直接受けられる
元いた場所に大きなスペースが空き、そこを別の味方が使える
ロングボールと3人目で届ける2つの打開策
3つ目の打開策は、ロングボールの活用です。前から捕まえに来るチームは必然的にラインを上げているので、背後は必ず広くなります。
背後へボールを蹴れる選手がいれば、センターフォワードやウイングが背後へ走ることで、直接相手陣に侵入できます。ゆうせいさんは、昨シーズンのアーセナルでもハヴァーツ ── カイ・ハヴァーツ。アーセナルの前線の選手で、前線で体を張ってボールを収める役割を担っていますやギオ・キエレスが前線で体を張り、ライヤやガブリエルからのロングフィードでハイプレスをかいくぐる場面があったと挙げます。
4つ目は、比較的長い距離のパスで、直接または3人目を経由してフリーな味方に届けることです。ライン間が空いていても、近くでつなぐことにこだわると届かないためです。
これはアイデアがないとその場では発揮できないので、練習や事前のミーティングで設計しておく必要があるとゆうせいさんは話します。
実際に自チームでは、ゴールキックのときにキーパーからウイングの手前へ落としたり、インサイドの前にある広いライン間へ直接蹴ったりと、少し長めのボールで前進する練習をしているといいます。
システム変更が生んだ同点と、次戦への視点
4つに共通するのは、その場の思いつきではなく事前に決めておける話だという点です。自チームも後半はできましたが、技術は前半と同じで、変わったのは相手の絵を渡したかどうかだけだったといいます。
同点の場面では、システムを途中で変更していました。給水タイムで選手交代をしながら、4-1-2-3から中盤ダイヤモンドの3-4-3へと組み替え、両サイドはウイングバックに任せて中央から打開する狙いです。
これが功を奏し、中央のコンビネーションで崩したところから、ウイングバックのスルーパスにセンターフォワードが抜け出し、相手のクリアが足にかかってPKを獲得しました。これで同点に追いついています。
3-4-3ダイヤモンドに変えてからは相手のマークに捕まらず、終始ボールを握れていたといいます。ゆうせいさんは、自チームにとってこの形は有効な手段かもしれないと振り返ります。
同じフォーメーションにこだわらず、時には違う形で試合をやってみることが、選手に違う刺激を与え、流れを変える一手になるとゆうせいさんは指導者に呼びかけます。
次戦のアーセナルはリーズ戦です。同じようにハイプレスで来るのか、来た場合にどう解決するのかを見ていきたいと締めくくっています。
4-1-2-3でマンツーマンに捕まり、前進が詰まっていた
中盤ダイヤモンドの3-4-3に変え、中央から崩して同点PKを獲得
まとめ
アーセナルと自チームが共に苦しんだハイプレスマンツーマンを、現場の失敗と4つの打開策から整理した回でした。共通するのは、打開策はその場の思いつきではなく、事前に決めておけるものだという視点です。
- ハイプレスで詰まったのは、スペースが無いからではなく、見えている味方に届けられなかったから
- 難しさの理由は、人数が同数になる、短くつなげない、届けられないの3つ
- 打開策は、キーパー参加・大きな移動・ロングボール・3人目で届けるの4つ
- 4つに共通するのは、練習や事前ミーティングで設計しておける点
- 後半に前進できたのは技術ではなく、相手の絵を選手に渡せたから





