AI登場前のSaaS設計、その鉄則とは
今回のテーマは、生成AIによる業務フローの変化です。吉田さんは、生成AIの台頭でSaaSのあり方や業務フローの組み方がどう変わるのかを解説していきます。
吉田さんはまず、生成AI登場前のSaaSの組み方から整理します。中小零細企業や予算の限られた会社は、SaaSやクラウドツールのできる範囲内で業務フローを組むというのが鉄則だったと話します。
その理由として、SaaSが苦手とするものが挙げられます。代表的なのが、その会社の独自ルールです。
吉田さんが挙げる例の一つが、勤怠の丸め処理です。ただしこれは違法なのでやめた方がよく、一般的な勤怠システムはデフォルトで1分単位で法律通りに集計するようになっていると説明します。
他にも、複雑な条件分岐はSaaSが苦手だとされます。吉田さんは「雨の日だけ遅刻がノーカンになる」といったローカルルールを例に挙げ、こうした処理はクラウドツールが苦手だと話します。
年次有給休暇についても、社長に気に入られた人だけ付与されるような運用は明らかにダメだとしつつ、そうした会社も世の中には存在すると指摘します。まずは法律通りに就業規則を作ることが重要だと述べます。
SaaSが苦手な「変則的な業務設計」の例
吉田さんは、法律では違法ではないものの、SaaSが苦手とする例として、変則的な固定残業手当の組み方を挙げます。
通常の固定残業手当は、たとえば20分ぶんが設定されていれば、残業1分から20分までがその手当で吸収され、超過分は1分単位で支払われる仕組みです。
ところが世の中には、最初の20分は1分単位で払い、20分から40分までは固定残業で処理するといった、非常に変則的な会社もあると吉田さんは言います。
こうした変則的な固定残業は、一応違法ではないものの、SaaSでは処理が難しいため、やめた方がよいというのが吉田さんの考えです。
このラジオ聴いてる人だったら、こんな業務フローの設計なんかしないよっていうと思うんですけど、まあこういうのは世の中にあるんです。
吉田さんは、その会社なりの文化を尊重した結果こうなった、という背景があると理解を示しつつ、こうした設計はやめた方がよいと話します。とにかくクラウドツールに合わせて働き方や会社のルールを設計するのが、これまでの鉄板で無難なやり方でした。
紙をデジタルにする「ゼロイチ」がAIで変わる
吉田さんは、この鉄則が生成AIの登場で変わるのではないかと言われていると話を進めます。
一つ目のポイントが、ゼロイチにする作業です。たとえば紙のタイムカードしかない場合、それをCSVに手作業で打ち込んでデジタルに置き換える作業がこれまで大変でした。
今はまだ品質管理の面で低いものの、そうした変換が生成AIでできるようになりつつあると吉田さんは述べます。
他業界の例として会計業界が挙げられます。領収書はスキャンすれば、たとえば99.9パーセントの精度で正しい仕分けが切られるのが当たり前になってきていると話します。
吉田さんは、近い将来、労務でも紙のタイムカードや紙の申請書を読み込ませれば、クラウドツールの中で勤怠が綺麗に再現されることがあり得るのではないかと予想します。
デジタル化できない会社にAIが開く道
これまでは、紙のタイムカードを使う会社があれば、紙をやめてデジタル勤怠システムに入れ替えましょうと提案してきたと吉田さんは言います。承認決済機能もついており、デジタルの方が合理的で質が高いからです。
ただし現実には、それができない会社もあります。ご高齢の方が多い業界や、屋外で作業する会社では、タイムカードをどこに置くのかといった問題が出てきます。
デジタルにしなきゃいけないのはわかってるけれども、まあうちの会社だともうできねえよみたいな会社があったんです。
吉田さんは、そうした会社でもAIを使えば、デジタル勤怠システムへの入れ替えをやらなくても、うまくクラウドツールにデータを載せられるのではないかと期待を示します。
SaaS同士をAIがつなぐ「イチとニ」の未来
吉田さんは次に、ゼロイチの次の段階として、SaaS同士の連携、いわば「イチとニ」の部分に話を移します。
相性のよいSaaS同士もあれば、そうでないものもあります。吉田さんは、KingofTimeとマネーフォワードクラウド給与は相性がよい一方、APIでつながらないSaaSもあると説明します。
APIでつながらない場合は、iPaaSという伝言役のようなツールを間に挟めばよいものの、その設定自体が大変で難しいと吉田さんは指摘します。
吉田さんは、両方のツールにAIがついていれば、「これとこれを繋げたいんですけど」という曖昧で言語的な指示だけで連携ができるかもしれないと話します。プログラムのような指示でなくてもよくなる可能性です。
ただし、ライバル関係にある企業同士がAPIを開放してデータを受け渡すことにはなりにくいだろうとも述べます。そうした制約を越えられるかどうかで、状況は変わっていくと考えています。
今後のクラウドツール、2つの流派
ここで吉田さんは、今後のクラウドツールのあり方には二つの流派があると、SaaSの開発者から聞いた話を紹介します。
チャットに指示すると、そこで業務がすべて完結するタイプ
今のクラウドツールの見た目はそのままで、裏側でAIが動いて体験が変わるタイプ
チャットボット形式は、オンラインアシスタントに近いイメージだと吉田さんは説明します。たとえば給与データを渡して「給与計算しといてください」と伝えると、AIが動き、しばらくすると結果が出てくるような状態です。
もう一つは、今のクラウドツールのインターフェースはそのままに、裏でAIが動いて顧客の体験が変わっていくという説です。吉田さんは、こちらが主流になると考えています。
吉田さんは、チャットボット形式は自由すぎて一般の人には何をしていいかわからず、普及しないのではないかと見ています。
一方、裏でAIが動く形式なら、何をすべきかがわかりやすいといいます。サービス名が「なんとか勤怠」「なんとか給与」となっていれば、それが何をしてくれるツールなのかを認識した上で指示を出せるからです。
AIは「自炊」か「カップラーメン」か
吉田さんは、今のAIをわかりやすくするために、料理にたとえて説明します。
ChatGPTやGeminiのような今のAIは、料理でいえばCookpadのようなもので、素人にはかなり厳しい仕様だと吉田さんは言います。料理好きなら食材を買ってメニューを探して作るのが苦になりませんが、自炊しない人には苦痛です。
そのうえで、世の中で流行るのはカップラーメンのようなものだと述べます。ズボラな人でも熱湯を入れれば、高い確率で正しいアウトプットが出るようなものが支持されるという考えです。
吉田さんは、この流れから、クラウドツールは請求・勤怠・給与といった用途に絞り込まれた形でリリースされると予想します。裏で高度にAIが動き、ものすごく気の利くクラウドツールが受けるのではないかと話します。
AIで変わる労務の現場、そして社労士の仕事
最後に吉田さんは、社労士業務や労務業務がどうなっていくかを語ります。ここでも裏でAIが動く説が強いという立場です。
勤怠の例では、締まっていない人や打刻漏れのリストアップと催促が挙げられます。今は労務部の人が二打刻や退勤打刻漏れのリストを作り、社内チャットで個別に催促していますが、これが自動化されるはずだと述べます。
たとえば月初になれば、出退勤が揃っていない人にAIが自動でSlackなどで通知するようなイメージだと吉田さんは説明します。
シフト管理も例に挙がります。飲食店などシフト系の商売ではシフト組みが大変ですが、勤怠ツールにAIがつき、諸条件を設定しておけば「今月のシフト作っといて」で自動的に組まれ、給与計算まで進むようになるのではないかと話します。
入社手続きでも、履歴書を読み込ませて必要な情報だけ拾い、労働者名簿のような労務データベースを作る機能はすでに出ていると吉田さんは言います。SmartHRがこうした機能を出していると紹介し、これがより一般化するはずだと述べます。
さらに、提出された個人情報で性別や生年月日が抜けているといった不備を、AIが前さばきとして自動でチェックし、社労士やお客様に通知する機能も出てくるはずだと予想します。
こうしてAIが処理を担うようになると、社労士がやることは、出来上がったアウトプットが正しいかを点検することになると吉田さんは言います。
吉田さんは、AIが定型処理を担う分、経営にとってプラスになる情報を提供できるかが、これからの社労士に求められる要素になると締めくくります。
まとめ
この回では、生成AIの台頭でSaaSに合わせて業務を組む鉄則が変わりつつあること、そして労務の現場と社労士の仕事がどう変化していくかが解説されました。吉田さんは、裏でAIが動く「カップラーメン型」のツールが主流になると見ています。
- AI登場前は、SaaSのできる範囲内で業務フローを組むのが中小企業の鉄則だった
- 独自ルール・複雑な条件分岐・変則的な固定残業などは、SaaSが苦手な処理の代表例
- 生成AIは、紙をデジタル化するゼロイチや、APIでつながらないSaaS同士の連携を変える可能性がある
- 今後のクラウドツールは、自由なチャットボット型ではなく、裏でAIが動く「カップラーメン型」が主流になると吉田さんは予想する
- AIが定型処理を担う中で、社労士には経営にプラスとなる情報提供の力が求められる






