なぜ育休中に狩猟を始めたのか
バイオテクノロジー系メーカーで会社員をしているあきさんは、子どもが生まれたことをきっかけに育休を取りました。出産から1ヶ月半ほどが経ち、とみーさんの体調も落ち着いてきたため、かねてからやりたかった罠猟を始めたといいます。
あきさんととみーさんは田舎に引っ越しており、その地域は農業被害が多いため、害獣駆除として年中狩猟してよいという土地柄でした。二人とも罠猟の免許をすでに取っていました。
二人が狩猟に関心を持ったのは、周りの友人がイノシシやアナグマを捕まえ、その肉を分けてもらったり、バーベキューで食べさせてもらったりしていたからです。自分たちでもできればと考えたのが出発点でした。
先に免許を取ったのはとみーさんのほうでした。友人がイノシシを捕るたびに、とみーさんはついていって一緒に解体していたといいます。
初めての解体で感じたのは怖さではなく興奮
とみーさんが初めて解体したのは2年前の10月末で、獲物はアライグマ2頭でした。そのときは、あきさんも少し手伝ったそうです。
なんかあの怖いとか気持ち悪いっていう感じはあんまりなくて。
ただ、なんだろう、脳が結構アドレナリンがドワッと出て興奮した記憶はありますね。
あきさんが「美味しそうだと思ったのか」と尋ねると、とみーさんは否定します。とみーさんの興奮は、届いたときにはすでに死んでいたものの、見た目が完全に獣の状態だった個体に向き合う緊張から来ていたようです。
なんかとにかく初めてのことだから、目の前のその個体に向き合わねばみたいな。
(捌くのが)なんか間違ってたら、なんだろう、個体にも失礼だしなみたいな。
一方のあきさんは、解体のときに狩猟本能が目覚めるような感覚があると話します。さらに、内臓を目の当たりにして体の仕組みがわかることにも惹かれているといいます。
体の仕組みってなんか子供の時に絵本で読んだんだけど、それが本当にここに目の前にあるんだなっていうのが面白い。
命を頂いてるんで、興味本位でそんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、純粋に面白いなと。
生命科学を扱う番組の出演者らしく、あきさんは命をいただくことへの敬意を口にしながらも、生き物の体の構造への純粋な好奇心を隠しませんでした。
免許を取っても、すぐには猟に出られなかった理由
とみーさんは免許を取ったものの、実際に罠を仕掛けには行っていません。地域の猟期 ── 狩猟が法律で認められている期間。多くの地域では11月中旬ごろから翌年2月ごろまでで、地域や獲物によって異なりますが始まるのが11月で、とみーさんはちょうどその11月下旬に妊娠したからです。
妊娠中は体調が不安定だったうえ、気持ちの面でも狩猟に行こうという感じにはならなかったといいます。とみーさんは、狩猟が基本的には安全に行うものでありながら、何が起きるかわからない営みだと説明します。
(罠猟も銃の猟も)命懸けではあるんですよ、一応。
でお腹に赤ちゃんがいる状態で私は命をかけたくないので。
狩猟の始め方は地域によって違います。隣町では同じ時期に免許を取った友人が猟期の前から罠をかけていたそうで、あきさんは所属する猟友会 ── 狩猟者が加入する団体。各地域の猟友会が狩猟の指導や、自治体から依頼される有害鳥獣駆除の担い手になっていますによって違うのかもしれないと話しています。
あきさんたちの地域では、まず猟期があり、猟期の終了後は害獣駆除として捕り続けてよい別の許可があります。あきさんは今、その許可のもとで猟をしているそうです。
師匠について学ぶ括り罠と、獣道の見極め
とみーさんの体調が安定し、あきさんが「猟をやりたい」と伝えると、とみーさんは「どんどんお肉取ってきてよ」と快く送り出してくれたといいます。あきさんは2週間前から、友人で猟師の師匠について回り、罠のかけ方を習い始めました。
罠には箱罠と括り罠の2種類があり、あきさんが取り組んでいるのは括り罠です。括り罠は地面に仕掛けを埋めるタイプで、まず山に入り、獣がどこを通っているかを見極めるところから始まります。
地面に仕掛けを埋め、踏んだ足をワイヤーで捉える。穴を掘る手間がかかり、置きっぱなしにできない
入り口を閉じるかワイヤーを外せば、置きっぱなしにしても大丈夫
あきさんは、この獣道探しがなかなか面白いと話します。最初はまったくわからなくても、探し続けるうちに、よく通っている道筋が本当に見えてくるそうです。
目線を低くしてですね、イノシシの視線になってみると、本当にこう、スーッとこう1本、あの藪の中がですね、もう抜けてるような感じが見えてきたりとか。
手がかりは藪の抜け道だけではありません。踏み跡や、木の葉や木に付いた泥から進行方向がわかり、泥が湿っていれば足跡が残るので、イノシシかアライグマかアナグマかも見分けられるといいます。
米ぬかを食べて罠を暴く、イノシシとの知恵比べ
括り罠は、動物が仕掛けを一歩踏むとワイヤーが跳ね出し、輪が縮まって足を捉える仕組みです。そのため、埋めた場所にちょうど一歩を置いてもらわなければ作動しません。
乗り越えられても、足が少しずれても、埋まっていると気づかれて避けられてもいけません。あきさんはこれを「本当に知恵比べ」と表現し、鼻のいいイノシシは人間が掘った気配も感じているのではないかと考えています。
1週間ぐらい全然何もかからなくて、なのに罠から半歩ずれてるところに足跡があったりとかして、ほんともうめっちゃ悔しいっていうことが何度もありました。
あきさんは餌でおびき寄せようと、罠の周りに米ぬかを置いてみました。ところがイノシシは米ぬかだけを器用に食べ、さらに埋めた罠のバネの部分だけを掘り返して露出させていったといいます。
あるんだろう、バレてんだぞみたいな感じでやられたりとかして。
あきさんは悔しさを抱えながら、罠を埋め直し、落ち葉でごまかすことを何度も繰り返しました。
2週間目、餌を撒かなかった罠にかかった初めての獲物
罠を埋めてから2週間目ごろ、ついに獲物がかかります。かかったのは、米ぬかを撒いた罠ではありませんでした。
米ぬかを撒いた罠は、斜面で2本の道がY字に合流する股の部分に仕掛けたものでした。あきさんはその道を上へたどった先に、1本の細い獣道を見つけ、そこにも餌なしで罠をかけていました。
イノシシがかかったのは、この上の獣道の罠のほうでした。手をかけた餌場ではなく、道の元になる場所に正しく置いた罠が成果につながった形です。
収録は赤ちゃんをあやしながら進められていて、この場面では赤ちゃんの泣き声が入ったことをあきさんがリスナーに断っています。
木の股に挟まったイノシシと、うまくいかなかった止め刺し
罠にかかっていたのは30〜40キロほどの、それほど大きくない個体でした。イノシシは牙をカチカチ鳴らして激しく威嚇し、暴れた跡で近くの木の根元はだいぶ掘り起こされていたといいます。
このイノシシは暴れた勢いで木の股に体が挟まり、抜けなくなっていました。とみーさんの言葉を借りれば、捕る側にとっては「身動きが取れないのが一番ありがたい」状態です。
括り罠のワイヤーは3〜4メートルほどで、木の根元にくくりつけられています。ワイヤーが自由に動く状態だと、イノシシは半径3〜4メートルの範囲を一直線に突進してこられるため、近づくのは危険です。
通常は、別の輪っかのワイヤーを鼻先にくくりつけ、足と鼻の2箇所を別方向から引っ張って固定します。そのうえで、鎖骨のあたりからナイフで心臓を目がけて刺す止め刺し ── 捕獲した獲物にとどめを刺して命を絶つこと。肉質を保つためにも、素早く確実に行うことが重視されますを行います。
今回は木の股に挟まっていたおかげで、鼻の固定はとても楽でした。あきさんが作った輪が大きかったため、鼻ではなく首がくくれ、右足と首の2箇所で固定できたといいます。
あきさんは師匠に教わった通り、右前足と右後ろ足を持ってイノシシをひっくり返し、左側の鎖骨から刺しました。しかし、本来はイノシシの頭から尻尾の方向へ刺すべきところを、背中側へ抜けるように直角に刺してしまったそうです。
何度か刺し直そうとしても、肋骨に阻まれたのか、刃が体の奥へ向かいませんでした。それでもどこかの動脈は切れていたようで、イノシシは大量に出血して亡くなりました。
もちろん殺す前にはもう本当に命に感謝ということでですね、あの、お祈りさせていただいて。
あきさんは「刺させていただいた、という言い方もどうなのか」とも付け加えています。その後、師匠の猟師が刺し直したところ、やはり心臓には当たっておらず、さらに血が出てきたといいます。
自分で食べなかった初めての獲物と、坊主の日々
本来なら初めての獲物は自分で解体したかったと、あきさんは話します。しかしその日は、前日から1泊2日でシーカヤック ── 海で使うカヤック。安定性や直進性に優れ、ツーリングや釣り、島へのキャンプなどにも使われますに乗り、釣りをしながら無人島でキャンプをして帰ってきたばかりでした。
体がかなり疲れていたため、あきさんは自分で肉を取ることはせず、友人が作った簡易の食肉処理場に個体を渡しました。あきさんの初めての獲物は、あきさん自身が食べることはなく、そこで肉になってどこかで売られていくことになったようです。
初捕獲から1週間ほど経ち、あちこちに罠をかけているものの、それ以降は一向に気配がないそうです。あきさんは毎朝見回っては「今日も坊主だった」を繰り返しながら、少しずつ罠かけが上手くなりたいと話しています。
毎日の見回りが必要な罠猟と、兼業猟師の悩み
あきさんは、育休が終わったら罠猟はなかなかできなくなるだろうと見ています。とみーさんはその理由として、罠をかけたら毎日見回る必要があることを挙げます。
(罠に)かかっている時に、そのまま何日も放置してしまうっていうのは、あの、猟師のマナーというか、決まり的にNGで。
泊まりがけの出張中に罠にイノシシがかかってしまうと、それだけで問題になります。そのため、とみーさんが代わりに見回ったり、友人の猟師仲間でチームを作って見回りを分担したりしているそうです。
あきさんは、会社員に戻っても家にいる日の朝の見回りだけならできるかもしれないと考えています。ただ、獲物がかかれば解体にかなり時間がかかり、その日は働けなくなることもあるため、週末だけになりそうだといいます。
括り罠は仕掛けるだけでも手間がかかります。木の根をスコップで切るように掘り、石が出てきてもう少し掘って、それでも諦めることがあるため、1個仕掛けるのにまあまあ手間がかかるそうです。
とみーさんは、箱罠なら入り口を閉じるかワイヤーを外しておけば置きっぱなしにできるが、括り罠はそれができないと補足します。あきさんは、復帰後は今1つ使っている箱罠だけにするかもしれないと話しています。
みたいなところが猟師と兼業猟師のあれだね、悩みどころだね。
イノシシ肉のおいしさと、捨てられていく害獣の命
あきさんは、自分たちの猟を趣味のレベルだとしつつ、イノシシの肉がとてもおいしいと強調します。きちんと血抜きをして捌き、冷蔵庫でしばらく熟成させてからパッケージして冷凍しているそうです。
イノシシを家畜化したのが豚で、とみーさんはDNA的にもほとんど違わないと話します。あきさんは、オーストラリアでは逃げ出した豚が野生化してイノシシのような姿に戻り、大きな被害を出しているらしいとも触れています。
日本の田舎でもイノシシの農業被害は深刻です。二人の友人も、稲刈り間近の田んぼをイノシシにやられ、稲穂がすべてなくなって稲だけが立っている状態になってしまったといいます。
なので、その、動物を殺すなんてっていう話もあるけど、なかなかね、議論難しいところだよね。
あきさんによると、豚肉がピンク色なのに対し、イノシシ肉はもっと赤く、味が濃くておいしいそうです。それでも、害獣駆除で捕られたイノシシの多くは、猟師が食べきれず捌くのも大変なため、ほとんどが捨てられているといいます。
ただただあの、害獣駆除のために殺されて、で、捨てられてしまうですね、イノシシっていうのはちょっとさすがに可哀想なので、えーと、僕は取った分はきちんと利用させてもらいたいなと思っております。
あきさんにとって罠猟は、都会にいたら経験しなかったであろう営みです。取った命をきちんと利用するという姿勢が、育休中に始めた猟師体験の芯になっています。
まとめ
育休中に罠猟を始めたあきさんは、獣道を読み、米ぬかだけ食べて罠を暴くイノシシに悔しい思いをしながら、2週間目に初めての捕獲を果たしました。止め刺しの失敗や兼業の難しさも含めて、命と食に向き合う現場のリアルが語られた回です。
- 罠猟の第一歩は、目線を低くして獣道の踏み跡や泥の跡を読み取ること
- イノシシは鼻がよく、米ぬかだけ食べて罠を掘り返すなど、まさに知恵比べになる
- 初捕獲は餌を撒かなかった上の獣道の罠で、止め刺しは心臓に届かず課題が残った
- 括り罠は毎日の見回りが必要で、会社員に戻ると箱罠中心になりそうだという
- 害獣駆除のイノシシの多くは捨てられているため、取った命はきちんと利用したいと語られた




