産業医は「企業」と契約する、という前提
今回のテーマは、企業における健康管理のお困りごとです。パーソナリティを務めるのは、株式会社oneself.代表で産業医の小橋正樹さんです。
話の前提として、小橋さんはまず契約の形の違いを説明します。病院の医師や看護師は、患者個人と治療契約を結んで仕事をします。
一方で産業医や産業保健師といった産業保健専門職は、企業と契約を交わします。その上で、企業やそこで働く社員の健康管理に従事していく、という形です。
我々産業医や産業保健師といった産業保健専門職は、企業と契約を交わして、その上でその企業であったり、そこで働く社員さんの健康管理に従事していく。
そのため、仕事の依頼をしてくるのは、企業の経営者や人事担当者といった人事労務に関わる人たちです。どんな問い合わせが来るかを知ることは、企業にどういう健康管理の課題があるかを知るヒントになると小橋さんは話します。
なお今回想定しているのは、保健師や産業医を自前で雇用できるほどではない、数十人から数百人規模の企業です。
問い合わせの型1: メンタル不調の個別事例が最も多い
小橋さんは、お問い合わせには大きく3つの型があると整理します。1つ目は、純粋な課題型です。これはさらに個別面と体制面に分けられます。
個別面は、いわゆる個別事例です。社員が脳卒中になった、がんの治療をしていて仕事とどう両立すればいいか、といった問い合わせもあります。
ただ、多くを占めるのはメンタルヘルス不調にまつわる相談だといいます。
そうは言っても、やっぱり多くはメンタルヘルス不調にまつわるところからのお問い合わせが多いです。
具体例として小橋さんが挙げるのは、勤怠やパフォーマンスの不良が続き、本人もつらそうだが、会社としてどう対応すればいいかわからない、というケースです。
また、すでに休職している社員が回復し、主治医から復職の診断書が出てきたが、どう進めればいいかわからない、という段階の相談もあります。
さらに、復職はしたものの、不安定な状況が続いてどうしよう、という相談も寄せられます。こうしたメンタル不調の個別事例が、純粋な課題としては一番多いと小橋さんは感じています。
問い合わせの型1のもう一方: 体制づくりの相談
同じ課題型でも、段階が進むと体制面の相談になります。個別事例への対応から一歩進んだ、会社としての健康管理の仕組みづくりに関する問い合わせです。
具体的には、会社としてこういう健康管理体制を築きたい、健康経営を本格的にやっていきたい、といった相談です。
また、拠点が増えてきたが拠点ごとにやり方がバラバラなので、統括して管理してほしい、という体制づくりの依頼も実際に来ているといいます。
問い合わせの型2: 「50人」という法律のキーワード
2つ目の型は、法律の課題が出てきたから、という問い合わせです。企業の健康管理のバックボーンには、労働安全衛生法という法律があります。
この法律の中で、小橋さんが一つのキーワードとして挙げるのが「50」という数字です。
具体的には、社員を50人以上雇用している場合、より細かくは同じ場所で50人以上の社員がいる場合に、企業にはさまざまな義務が生じます。
産業医の選任のほか、衛生管理者の選任、社員の健康について話し合う衛生委員会の開催、ストレスチェックの実施などが求められます。
50人未満なら社員の健康管理をしなくていいというわけでは決してありません。ただ、この50という数字が一つのマイルストーンになっていると小橋さんは説明します。
そのため、50人を超えそうだ、超えたので、あるいは労働基準監督署から言われたから、という形での問い合わせも実際に多いといいます。
問い合わせの型3: 今の産業医サービスへの不満
3つ目の型は、いわゆるリプレースです。今契約している産業保健のサービスに課題があって、問い合わせをいただくケースです。
oneself.は保健師と産業医をセットにしたサービスを提供していますが、世の中には産業医や保健師を単体で契約しているケースが多いといいます。
具体的には、今の産業医を交代したいという相談です。小橋さんはこれをハード面とソフト面に分けます。
ハード面は、純粋にその先生が忙しくて時間が取れない、というものです。背景として、日本では病院やクリニックで臨床医をしながら、その傍らで産業医をしている先生が多いという事情があります。
多くの産業医の先生は、病院やクリニックで普段は臨床医をしていて、その傍らで産業医をしているという先生が、全体的には日本の場合多い。
熱心に活動している先生もたくさんいる一方で、時間が合わないために交代を検討するケースがある、というのがハード面の話です。
ソフト面は、コミュニケーションの問題です。医師として熱心で専門性が高くても、企業というフィールドでは担当者と話が噛み合わなかったり、社員への当たりが強く避けられたりすることがあります。
産業保健業界の「人材紹介」という構造的な課題
交代を検討する理由には、専門職個別の問題だけでなく、契約の仕方の問題もあると小橋さんは指摘します。
産業保健の世界は、弁護士や社労士といった他の士業の業界と違い、人材紹介業がまかり通っているといいます。
具体的には、とある企業が産業医や保健師のプールを持ち、ニーズに応じて紹介するサービスです。このスタイルにはメリットも多くあります。
ただ一方で、紹介する企業自体が企業の健康管理に詳しいとは限らないケースも多い、と小橋さんは言います。
表向きにはサポート体制整ってますよって言ってたりするんですけど、実質的に、良くも悪くも、紹介した産業医とか保健師任せってなってるところもある。
その結果、サービスの質の担保がバラバラになってしまうケースもあるといいます。
これに対し、弁護士事務所や社労士事務所のように、保健師や産業医が個別あるいはチームを組み、プロフェッショナル集団としてサービスを提供する事務所も増えてきています。小橋さんはこれを独立系と呼びます。
oneself.もこうした直営型で、基本的にそういう課題を持つ企業から問い合わせをいただく、というのが3つ目の型です。
課題型
個別事例やメンタル不調、体制づくりなど純粋な健康管理課題
法律型
50人という基準を超えて法的義務が発生した
リプレース型
今契約している産業医サービスへの不満や交代検討
コーポレートサイトのリニューアルと相談窓口
小橋さんは、今回このテーマを選んだ背景を明かします。11月29日に、oneself.のコーポレートサイトが全面リニューアルされたことがきっかけです。
新しいサイトには、どういう経緯でサービスを導入したかを紹介する導入事例のページや、よく寄せられる質問への回答をまとめたコラムのページなどが盛り込まれています。
企業の健康管理に困っている人にとって役立つ情報が入っているとのことで、小橋さんはサイトの閲覧を呼びかけました。あわせて、リニューアルに関わった人たちへの感謝も述べています。
サイトには無料オンライン相談のボタンもあります。相談したからといって必ず契約する必要はないため、安心して利用してほしいと小橋さんは話します。
もちろん相談したからといって必ず契約してくださいっていうわけではありませんので、安心して、遠慮なくご相談いただければ。
相談は企業だけでなく、産業保健と隣接する事業の人や、同業の人でも歓迎するとのことです。
まとめ
今回は、企業の人事労務担当者から産業医に届くお問い合わせを、課題型・法律型・リプレース型の3つに整理し、そこから見える健康管理の課題を解説する回でした。
- 産業医は患者個人ではなく企業と契約し、企業や社員の健康管理に従事する
- 問い合わせで最も多いのは、メンタルヘルス不調にまつわる個別事例
- 同じ場所で社員50人以上になると、産業医選任や衛生委員会など法的義務が発生する
- 今契約中の産業医サービスへの不満から、交代を検討するリプレース型の相談もある
- 産業保健業界には人材紹介型が多く、サービスの質がバラバラになる課題がある


