面談は「段取り八分」。準備で結果の8割が決まる理由
前回のテーマは産業医面談の目的でした。今回はその内容を踏まえ、実際の産業医面談がどう進んでいくのかを解説していきます。
小橋さんは、面談の質は事前の設計で大きく決まると話します。「段取り八分仕事二分」という言葉を引きながら、面談の目的と設計で8割方が決まるのは現場感覚としても嘘ではない、と述べています。
なんでその面談をやるのか、どういう風に進めていくのか。八割方、この目的と設計で決まるっていうのは、現場感覚としても嘘じゃなくて。
面談そのものも大事ですが、面談をする上での事前準備は、不要なトラブルを防ぐためにも怠るべきではないと小橋さんは考えています。
この回では、前回に対して産業医の大先輩からコメントが寄せられたことも紹介されています。面談を始める前に環境を整える戦略が重要であり、上司が問題を指摘してもすぐパワハラと言われないような言い方をアドバイスすることも大事だ、という内容でした。
小橋さんはこのコメントに共感し、言い方や持っていき方はとても大事だと応じています。この点は第7回で少し触れており、また改めて掘り下げたいと話しています。
産業医が面談で見る「三本柱」とは
本編ではまず、産業医が面談を通じて何を見ているのかが整理されます。小橋さんは、これは第12回で伝えた産業医業務の三本柱に沿っていると説明します。
仕事による健康被害の有無
仕事によって健康を害していないかを見る
医学的に働けるか
医学的に働けるかどうかを判断する
健康に働くための方策
心身とも健康に働くにはどうしたらいいかを考える
この三本柱のために、産業医は職場巡視をしたり、健診判定をしたり、衛生委員会で意見したりします。産業医面談も、当然その延長線上にあるものだと小橋さんは位置づけています。
その上で、面談の具体的な進め方を5つのセクションに分けて紹介していきます。今回はこのうち前半3つを扱います。
面談前にそろえておきたい「法令三点セット」
1つ目の導入に入る前に、小橋さんは「0番目」として事前準備を挙げます。面談をより正確で質の高いものにするために、本人に関する人事情報と健康情報をそろえておきたいと話します。
人事情報としては、どういう雇用形態でどういう業務を担当しているのかを把握しておきます。健康情報としては、いわゆる法令三点セットが欲しいところだと述べています。
残業や勤務状況の実態を把握する材料
医学的な健康状態を確認する材料
心理的な負担の状況を確認する材料
過去の面談記録や産業医の意見書があれば、これまでの文脈を知る上でも参考になります。場合によっては、本人に問診票を書いてもらったり、上司からの事前ヒアリングシートを共有してもらうこともあるといいます。
一方で、事前情報はバイアスにもなり得ると小橋さんは注意を促します。本人の話も聞かずに決めつけてしまうのは良くない、と釘を刺します。
ただし、事前情報がしっかりあると面談の道筋を立てやすくなるメリットもあります。決めつけを避けつつ準備を整える、というバランスが求められます。
導入の要は「ラポール形成」。不信感をどう取り除くか
ここからセクション1の導入です。小橋さんは、この場面で一番大事なのはラポールの形成だと話します。
この人だったらまあ話してもいいかなって、不信感を少しでも取り除くっていうのが大事かなと思います。
そのためにまず行うのが、挨拶と自己紹介です。「産業医の小橋と申します。今日はお忙しいところお時間いただきありがとうございます」といった言葉から入ります。
特に会社から呼び出された面談であれば、感謝やねぎらいの言葉を添えるとよいと小橋さんは言います。産業医は一般の社員が普段接する機会が少ないため、産業医がどういう仕事をしているのかを簡単に伝えることも有効だと話します。
こうしたやり取りを通じて、本人が少し安心したり、アイスブレイクにつながったりすることがあります。導入は、いきなり本題ではなく、この温度づくりから始まります。
目的と背景をどう説明するか
コミュニケーションが一通り終わると、いよいよ本格的な導入に移ります。まずは目的と背景の説明です。
例えば勤怠やパフォーマンスに不良がある社員の場合、「今回、体調が悪そうでお仕事にも影響が出ているということで、人事の方から産業医面談の依頼がありました」といった形で背景を伝えます。
その上で、面談全体の流れを示します。小橋さんは、30分の中で仕事や生活の状況、困りごとを聞いた上で、現状の確認と今後の進め方を一緒に考えたい、と全体像を説明すると話します。
現状の確認と今後どういうふうにしていけばいいか、一緒に考えていければと思います。
何を、どういう順序でやるのかをあらかじめ共有することで、本人も見通しを持って面談に臨めるようになります。
最も肝になる「情報の取り扱い」の伝え方
小橋さんが導入で最も大事だと強調するのが、情報の取り扱いです。特に事例性があり会社から依頼された面談では、扱いを丁寧に説明する必要があります。
会社の安全配慮義務の履行補助として産業医がいる以上、面談の内容を会社へフィードバックする必要が出てきます。ただし、何でもかんでも伝えればいいわけではない、と小橋さんは言います。
具体的な薬の名前や、業務に影響しないプライベートのコアな部分など、フィードバックする必要のないものまで伝える必要はありません。あくまで就業上の措置を実行する範囲で、必要な情報を伝えられればよいという考え方です。
そこで小橋さんは、面談内容や産業医の意見を最低限は会社に伝える必要があるという前提を先に示します。その上で、同意していない内容を勝手に漏らすことはしないと約束します。
面談の最後にどういう内容でフィードバックするかっていうのは、一緒に(本人と)話し合った上で決めていきますよと。
さらに、職業としての守秘義務があることも伝え、会社に言いづらいことがあっても安心して話してほしいと促します。この説明をしないと本人も安心して話せないため、導入で最も肝になる部分だと位置づけています。
この姿勢は面談全体に通じるものだと小橋さんは言います。本人を無理に救おうとしたり、言いくるめようとするのではなく、一緒に考え、一緒に作り上げていく姿勢が大切だと話します。
情報収集の基本は「仕事・生活・健康」の3つ
続いてセクション2の情報収集です。面談の目的に応じて体系的に聞いていきますが、どの面談にも共通するのは仕事面、生活面、健康面の3つだと小橋さんは整理します。
まず仕事面です。仕事の全体像を把握する意味に加えて、有害物や無理な勤務体系など、働くことで健康を害していないかを確認します。運転や高所作業のように、仕事と健康状態の適合性から検討すべき点がないかも見ます。
具体的には、担当業務はオフィスか現場か、働き方は出社か在宅か客先か、移動や出張の多さ、通勤時間、残業や休日勤務の状況、日勤だけか深夜勤もあるか、といった点を聞いていきます。
さらに、本人のことだけでなく、職場にどんな人がどれくらいいるのか、同僚や上司とのコミュニケーションはどうかといった、周囲との状況も併せて確認します。
生活面と健康面をどう掘り下げるか
次に生活面です。1日の生活リズムや1週間、場合によっては1ヶ月のスケジュールを聞いていきます。何時に寝て何時に起きるか、食事は取れているか、お酒やタバコはどうか、といった点です。
運動や余暇についても、1日や1週間の中でリラックスやリフレッシュができているかを確認します。小橋さんはこれを「食う寝る遊ぶ」の観点と表現します。
生活環境も重要なポイントです。一人暮らしかどうか、本人をサポートしてくれる家族や友人が周りにいるかは、何かあったときに大事になるため併せて聞くといいます。
最後に健康面です。仕事や生活に支障が出るレベルで困っていることがないか、つまり本人にとっての事例性の観点から聞いていきます。過去の大きな病気や、定期的に主治医にかかっているかも確認します。
聞き方としては、まずオープンクエスチョンで話してもらうことが多い一方、本人が気づいていない場合もあります。取りこぼしを防ぐため、クローズクエスチョンも合わせて使うと小橋さんは話します。
本人に自由に話してもらう。まずこちらで状況を語ってもらう
こちらから具体的に確認する。本人が気づいていない点や取りこぼしを防ぐ
健康面では、まず「寝れてますか」「食べれてますか」「息抜きできてますか」という生活リズム三点セットを確認します。その上で、フィジカル面とメンタル面の症状をチェックしていきます。
睡眠の状況を確認する
食事の状況を確認する
リフレッシュの状況を確認する
頭痛、めまい、動悸、吐き気などの身体症状
感情のコントロールの難しさ、やる気の低下、以前は楽しめたことが楽しめないなど
これら生活リズム三点にフィジカル面、メンタル面を加えた計5点について、取りこぼしがないようにチェックしていくのが小橋さんのやり方です。
情報収集は「すでにやっていること」まで聞いて完結する
ひと通りの情報を拾った後も、情報収集はそこで終わりではないと小橋さんは言います。困りごとに対して本人が何か対応しているか、周りに相談したかまで確認します。
例えば、すでに量を調整している、すでに主治医にかかっている、といった健康のためにやっていることがあるかも合わせて聞きます。ここまで聞いて初めて、現在までの状況を体系的に把握したと言えるという考え方です。
今回は事前準備、導入、情報収集という、いわば過去から現在にかけてのセクションでした。次回は意向確認、フィードバック、ネクストアクションという、現状を踏まえて未来をどうプランニングするかの部分に進むと予告されています。
まとめ
今回の産業医の本音は、産業医面談の実際の進め方のうち、事前準備、導入、情報収集を解説する回でした。準備で結果の大半が決まるという前提のもと、本人が安心して話せる土台づくりと、体系的な情報の聞き取り方が具体的に語られました。
- 産業医面談の質は目的と設計で8割方決まり、事前準備は不要なトラブルを防ぐためにも欠かせない
- 産業医面談は「仕事による健康被害」「医学的に働けるか」「健康に働くための方策」という三本柱の延長線上にある
- 導入ではラポール形成が要で、なかでも情報の取り扱いを丁寧に伝えることが最も肝になる
- フィードバックは必要な範囲に限り、内容は面談の最後に本人と話し合って決める
- 情報収集は仕事・生活・健康の3面を体系的に聞き、本人がすでにやっている対応まで確認して完結する


