なぜ「面談の目的合わせ」が必要なのか
今回の主題は、産業医面談の目的についてです。きっかけは第23回の「予防法務」の回で、弁護士の井山先生から寄せられた質問だったと紹介されています。
その質問は、産業医が面談をするにあたって、弁護士が介入してもいい場面があるのか、というものでした。これに対して小橋さんは、紛争性が高く面談の目的や進め方をすり合わせた方がいい場面では、ぜひお願いしたいと答えたと話します。
そのうえで小橋さんは、紛争性のあるなしに関わらず、社員からの自発的な健康相談を別とすれば、面談の目的を関係者間で共有しておかないと結果的にトラブルになりやすいと指摘します。
そもそも産業医面談って、(社員からの)自発的な健康相談は別として、紛争性のあるなしに関わらず、産業医面談の目的を関係者間でしっかり共有しておかないと、結果的にトラブルになりやすいんですよね。
その理由として挙げられるのが、会社として必要だから産業医面談をやっているケースが多いという点です。ここが、面談の目的を丁寧に共有すべき理由になっています。
会社が産業医を置く理由と「本来の流れ」
なぜ会社が産業医を置いているのか。小橋さんは、会社には社員の健康を確保しなければいけない義務があるからだと説明します。安全配慮義務 ── 使用者が労働者の生命や健康を危険から守るよう配慮する義務。労働契約法などに基づく。
ただし会社は医学の細かいところがわかるわけではないため、産業医の協力を得ながら安全衛生活動を進める、という枠組みがあると整理されています。
具体例として挙げられたのが、十分な労務提供ができていないパフォーマンス不良の社員がいるケースです。背景に健康の問題がありそうなら、本来どう進めるべきかが語られます。
会社が課題を共有
会社が本人に、まずはパフォーマンス不良という事例性の課題を伝える
産業医面談へつなぐ
その課題を踏まえて産業医面談へ案内する
産業医と事前共有
産業医も経緯を会社と事前に共有する
目的をクリアして当日へ
面談の目的や進め方を整理したうえで当日を迎える
つまり、会社が本人に課題を伝え、産業医もその経緯を事前に共有したうえで面談当日を迎えるのが本来の流れだと説明されています。
「元気なさそうだから」で呼ばれる面談の落とし穴
一方で、あるあるとして挙げられるのが、目的があいまいなまま面談が設定されるケースです。
なんかちょっと元気なさそうだから、とりあえず産業医面談受けてきてね、と言ったような、そもそもパフォーマンス不良だっていう自律性の共有がないまま、ふわっとした理由で産業医面談を本人に会社が勧めているようなケースです。
さらに、産業医の方がむしろ面談をしたがっている、というニュアンスで面談が設定されることもあると指摘されています。
本人の健康が心配だから面談をすること自体は間違いではありません。本人もパフォーマンス不良や体調不良を自覚していれば、会社も本人も困っている状態なので、今後の方向性をすり合わせやすいとされています。
問題になるのは、十分に働けているかどうか、病的なのかどうかについて、会社と本人で認識のずれがあるケースです。
体調不良の原因はわからないが、とりあえずパフォーマンス不良で困っている
体調もパフォーマンスも問題ない、あるいは体調は悪いがパフォーマンスは問題ない
あらかじめパフォーマンスについての認識合わせができていないと、産業医は面談で健康面の評価はできても、その先の就業上の意見が言いづらくなると説明されています。
話の流れによっては、会社が心配している点や困っている点を産業医が本人に伝えることもあります。ただ、本人からすれば「聞いていない」「パフォーマンスは問題ない」という話になってしまいます。
(産業医は)パフォーマンスの部分をできてる・できてないってジャッジすることはできませんから、結局そこは当事者同士でまずは話し合ってくださいね、そんな感じになります。
事例性と疾病性──会社が見るべきは「働けているか」
ここで小橋さんは、面談を考えるうえでの重要な区別として、事例性と疾病性という言葉を挙げます。
第8回の休職の回でも触れた通り、会社が見るべき・伝えるべきは事例性、つまり働けているかどうかだと強調されています。
そして、働けていないというときに、そこに疾病性、つまり病気の存在がありそうかどうかを判断していくのが産業医の役割だとされています。
(働けていないときに病気があるかどうかを)医療と企業の翻訳家としてコーディネートしていくのが、産業医をはじめとした産業保健専門職なんですよね。
だからこそ、なぜこの面談をする必要があるのかを、事例性の観点から会社と本人がしっかり共有したうえで産業医面談へつなぐことが大事だと語られています。産業医の側も、面談の目的を事前に会社へ聞いていくことが望ましいとされています。
法令3点セット──長時間労働の面談で気をつけたいこと
事例性以外で、会社側から本人へ働きかける産業医面談として挙げられたのが、長時間労働、健康診断、ストレスチェックという法令3点セットです。
まず長時間労働について。過労死ラインを超えて疲労も蓄積している場合、高度プロフェッショナル制度などの例外を除き、基本的には本人から申し出があれば医師による面接指導をしなければならないと法令で定められています。過労死ライン ── 健康障害のリスクが高まるとされる時間外労働の目安。おおむね月80時間超が一つの基準とされる。
実態としては、本人からの申し出がなくても、一定の基準を超えたら機械的に面談を設定している会社も珍しくないと言います。それ自体は問題ないものの、注意点があると指摘されます。
長時間労働は、健康診断の有所見やストレスチェックの高ストレスと違って、長時間そのものが本人の健康状態を表すわけではない、という点です。
そのため、忙しいうえに希望もしていないのに面談に呼ばれること自体をストレスに感じる社員もいると言います。ここで産業医側の対応にも問題が起きやすいと語られます。
面談の最初に「今日はどうされました?」なんて産業医から言われたもんだったら、いやいや、そっちが呼んだんだろうと、最初から気まずい雰囲気になっちゃうってことがままあります。
だからこそ、会社はなぜ長時間労働で面談をするのかを周知しておく必要があると言います。産業医も、法令や会社の制度、そして時間が全てではないが脳・心臓・メンタルの病気が心配だという目的を、最初に伝えておくべきだと語られています。
健康診断の面談は「自分の健康」だけの話ではない
次に健康診断です。厳密には産業医面談をしなければいけないという決まりはないものの、実態としては産業医や保健師によるフォロー面談を行うことが多いとされています。
ここでのあるあるは、「自分の健康は自分のものだから、なんで面談を受けなきゃいけないのか」と社員から言われることだと言います。
これに対して小橋さんは、本人の健康のためであると同時に、会社には社員の健康を確保する義務があると説明します。その手段が健康診断であり、結果をやりっぱなしにせず医師の意見を聞いて適切な就業処置を講じる、という法令の枠組みがあると整理されています。
特に就業制限や要休業を検討するような場合はなおさらだとされます。だからこそ産業医からも、本人の健康のためであると同時に、会社の安全配慮義務の観点からも必要な面談だという目的を、しっかり伝えていくことが大事だと語られています。
ストレスチェックの面談で伝えるべき「限界」
最後にストレスチェックです。高ストレスと判断された場合、本人の申し出によって医師による面接指導を実施するのが法令の枠組みだと説明されています。ストレスチェック ── 労働者のストレス状態を把握するための検査。一定規模以上の事業場に実施が義務づけられている。
長時間労働や健康診断の面談と同じく、本人や職場の健康のための面談だという目的を共有することは大事だとされています。ただし、ストレスチェック特有の注意点があると言います。
面談を申し込む人の中には、健康のためというより、処遇改善や労使交渉を目的に利用する人も、少ないながらいると指摘されています。
ここで声を上げたら給料を上げてもらえるんじゃないかとか、会社からの不当な評価を正してもらえるんじゃないかといったような、処遇改善や労使交渉の目的で利用される方も、少ないんですけれども、いらっしゃるんですよね。
評価や給料が結果的に健康に影響することは承知しているとしつつも、それが面談の主な趣旨ではないと語られます。だからこそ、目的を伝えるとともに面談の限界を伝えることも大事で、ストレスチェックの面談では特に注意が必要だとされています。
なんとなくの面談を、意義ある面談に変えるために
まとめとして、実際には「なんとなく産業医面談をしましょうか」となっているケースは多いと振り返られています。
産業医面談は日常的にやることではないため、普段から面談をしている産業医の側から、むしろ目的を掘り下げていく姿勢も大事だと語られています。
目的が不明確なら不明確なりに、面談者の健康や従業員体験のために最善を尽くすとしつつも、会社としてやる以上はその意義や目的をしっかり言語化しておくことが必要だと締めくくられています。
なお、次回は産業医面談の進め方について触れる予定だと予告されています。
まとめ
産業医面談は、目的を関係者間で共有しないまま設定されるとトラブルにつながりやすいものです。会社が見るべき事例性を軸に、なぜ面談をするのかを言語化しておくことが、意義ある面談への第一歩だと語られました。
- 産業医面談の目的を関係者間で共有しないと、結果的にトラブルになりやすい
- 会社が見て伝えるべきは「働けているか」という事例性で、病気の有無である疾病性は産業医が判断する
- 長時間労働・健康診断・ストレスチェックの法令3点セットでも、なぜ面談をするのか目的を伝える必要がある
- ストレスチェックの面談では、処遇改善や労使交渉目的の利用もあるため、面談の限界も伝えることが大事
- なんとなくの面談にせず、会社としてやる以上は面談の意義や目的を言語化しておくことが必要


