初動対応の次に多い「休復職」の相談
前回のテーマは、メンタルヘルス不調者が出たときの初動対応でした。今回はそれと同じくらい企業からの問い合わせが多い、実際に休んでから復職するまでの「休復職」がテーマになります。
産業医の小橋正樹さんは、この休復職の対応について、普段から3つのキーワードで伝えていると話します。今回はその3つを順番に解説していきます。
1つ目「病気かどうかではなく、働けるかどうか」
1つ目のキーワードは、病気かどうかではなく、働けるかどうかを見ましょう、というものです。
勤怠やパフォーマンスの不良が続くと、企業の担当者からは「この人はこういう病気なのではないか」「この病名は実際どういうものか」といった質問がよく出ると言います。
小橋さんは一般的な回答はしつつも、病気や病名に引っ張られすぎないよう注意を促します。企業が重視すべきは、あくまで働けるかどうかだという立場です。
たとえとして挙げられるのが高血圧や糖尿病です。持病があっても、受診して薬を飲みながら普通に活躍している人はたくさんいます。
これはメンタルヘルスでも同じで、抗不安薬や睡眠薬を飲んでいても、生活と仕事が両立できて問題なく活躍できていれば、特に介入の必要はないと説明されています。
メンタルヘルス不調だからとか、あの人は精神科や心療内科に通ってるから、こういう理由で本人の就業を不当に制限するっていうのは、企業のリスクにもなり得るというところです。
専門家でない担当者が病気かどうかを診断することはできず、それを安易に本人へ伝えるべきでもない、と小橋さんは指摘します。担当者が見るべきは、あくまで働けているかどうかです。
そして働けていないときに、その原因が病気かどうかはわからないため、そこを産業保健専門職につなぐことが大事になると話します。
2つ目「休むハードルは低く、戻るハードルは適切に」
2つ目のキーワードは、休むハードルは低くして、戻るハードルを高くしましょう、というものです。小橋さんは、正確には高くするというより適切にするほうが正しいと補足します。
なぜこのキーワードを持ってきたかというと、現場ではどうしてもこの逆をやってしまいがちだからだと言います。
たとえば、主治医が休みの診断書を発行し本人も会社に提出しているのに、忙しさから長く働かせてしまう。逆に体調がまだ不安定なのに、早く戦力に戻ってほしくて早めに復職させてしまう、といったケースです。
気持ちはわかるとしつつ、小橋さんはこれをやると安全配慮義務違反や再休職のリスクが上がると指摘します。体調が悪く休みの診断書が出ているときは、ハードルを低くしてすぐ休ませることが大切だと話します。
一方で、戻るハードル、つまり復職条件については適切な基準を設ける必要があります。小橋さんは医学的な相場感として、寝る、食う、遊ぶ、考える、この4条件が安定していることを一つの目安に挙げます。
この4条件は、復職に向けた段階として整理できます。
小橋さんは、この第3段階のような状態が2週間以上安定して行えていると、復職に向けて次のステップに進んでよいのではないかと、まともな産業医や主治医は考えると説明します。
復職にあたって主治医の受診を終えていなければならない、薬をやめていなければならない、と考える人もいますが、そうではないと小橋さんは話します。
むしろ復職後は環境の変化があるため、主治医の受診や服薬は継続し、軌道に乗る数か月ほどは安定を確認してから、だんだん減らしたり通院を終えたりすることが多いとのことです。
つまり1つ目のキーワードと同じく、大事なのは働けているか、仕事や生活との両立ができているかという点だと強調されます。
ここまでは医学的な目安であり、小橋さんは復職で最も大事なのは本人と会社との対話だと話します。本人に復職の意思があること、そして会社側もどんな業務をどんなスケジュールで進めるかを話し合うことが欠かせません。
お互い話し合って、その上でじゃあ復職していきますという合意のもとで進めていくこと、これがやっぱり一番大事なことになります。
さらに、本人も会社も今回の休職を振り返り、それぞれができる対策があるかを確認して、再発防止に努めることが大切だとまとめられています。
3つ目「健康管理と人事労務管理は分けて考える」
3つ目のキーワードは、人事労務管理の問題と健康管理の問題を分けて考える、というものです。これは復職後によく質問される点だと言います。
復職は、1か月後や3か月後、長い場合は6か月後を本人へ期待する最終ゴールとして設定し、そこから逆算して段階的に業務負荷を調整していくことが多いと説明されます。
復職スタート後の展開は、大きく3パターンに分かれると小橋さんは整理します。
当初のスケジュール通り、またはそれより早く順調に進む。双方にとって良いパターン
勤怠やパフォーマンスが崩れて再休職となる。残念だが対応は明確なパターン
問題になるのが3つ目のパターンです。体調が超不安定というわけではなく小康状態だけれど、ローパフォーマンスが続いてしまう状態で、これがよく相談を受けるケースだと言います。
休ませるわけでもなく、かといって期待する成果も出てこない。この宙ぶらりんな状況をどう扱うかが難しいところです。
小橋さんは、大前提として健康管理の観点から本人の健康を第一に考え、体調が不安定そうなら無理をさせることはできないと話します。
一方で、いつまでも期待値と本人とのギャップが埋まらないなら、期待値そのものを変更したほうがよいのではないか、と人事労務管理の観点から考える必要があると指摘します。健康管理と人事労務管理を分けて考えるのが、この3つ目のキーワードの核です。
個人的な実感ですけど、やっぱり周りが待てるのって、3か月ぐらい、長くても半年ぐらいが限界なんじゃないかなっていう感じを持っていて。
3か月や半年たっても期待する業務をやってもらえる見込みがないと、周囲も辛く、周りの人たちの健康状態にも影響します。小橋さんは全体最適の観点からも、長期的な目線で本人とどう働くかを話し合うのがよいと述べます。
ただし注意点として、この対応は場合によって配置変更につながる可能性があります。そうしたケースでは、社労士など他の士業とも必要に応じて連携し、本人と丁寧に対応しながら進めることが大事だとまとめられています。
原理原則はあれど、最適解はケースごと
今回は休復職の対応について、3つのキーワードで解説されました。小橋さんは、こうした内容は多くの人から質問を受け、その都度同じような話をしていると振り返ります。
ただし、原理原則はあっても最適解はケースによって異なるため、実際に困ったことがあれば問い合わせフォームから相談してほしいと呼びかけています。
まとめ
休復職の対応で小橋さんが繰り返し伝えるのは、病気そのものではなく働けるかどうかを軸に、休むときは早く休ませ、戻るときは適切な基準で判断し、健康管理と人事労務管理を切り分けて考える、という3つの視点でした。
- 企業が見るべきは病名ではなく、働けているか・仕事と生活を両立できているか
- 体調が悪く診断書が出ているときは休むハードルを低く、戻るハードルは寝る・食う・遊ぶ・考えるの4条件で適切に
- 復職の医学的目安に加え、本人と会社の対話と合意、再発防止の振り返りが最も重要
- 復職後にローパフォーマンスが続く場合は、健康管理と人事労務管理を分け、期待値の見直しも検討する
- 配置変更につながる場合は社労士など他の士業と連携し、本人と丁寧に進める


