AIとベーシックインカムで社労士はどう変わる?届いた質問
今週のテーマは「ベーシックインカムと社労士業務」です。吉田さんは、リスナーから届いた質問を読み上げるところから話を始めます。
こんばんは。いつも配信を楽しく聞いております。第220回の配信を聞いて1点聞いてみたいことがあります。私は大学時代、労働法を扱うゼミでベーシックインカムについて研究していました。仮にAIの発達とともにベーシックインカムが大幅に普及した場合、社労士の役割や活躍の場はどのように変化していくと思われますか?少し現実離れしたトピックかもしれませんが、ぜひ吉田先生のご意見を聞いてみたくコメントしました。
吉田さんの最初の答えは、ベーシックインカムが本格的に導入されれば、社労士の業務は大きく変わるはずだというものです。育児休業給付金や傷病手当金の手続きの多くが、ベーシックインカムに置き換わると考えられるためです。
加えて、その労使トラブルのあり方とかも少し変わってくるのかなと思います。
ただし吉田さんは、日本でベーシックインカムが実際に導入されるのは難しいとも考えています。この回の答えは、「導入は難しい」という見立てと「導入されたら変わる」という仮定の2本立てで進みます。
導入を阻むのは霞が関の縄張り争い?
吉田さんがベーシックインカムの導入を難しいと考える1つ目の理由は、税と社会保障を一体で改革しなければならなくなる点です。
まずそもそもベーシックインカムをどっちがやるのかですよ。税金としての一部としてやるのか、社会保障の一部としてやるのかみたいなところで、管轄の取り合いみたいな。
吉田さんは、財務省と厚生労働省のどちらが強いかはわからないとしつつ、利権を得られない側が相当反発しそうだと見ています。
さらに、給付の審査に関わる人たちの雇用の問題もあります。吉田さんは、ハローワークで給付を審査している人や、助成金の申請を審査している人を例に挙げ、これまでの連続性から考えると導入は難しいのではないかと話しています。
そもそもベーシックインカムとは何か
吉田さんは、質問者のほうがベーシックインカムに詳しいはずだと前置きしたうえで、昔本で読んだ知識として、ベーシックインカムの考え方を説明します。
要するに人間一人一人に定額の給付金を必ず配るっていうのがベーシックインカムです。例えば月額10万円とかを日本国民全員に配るんですよ。
吉田さんによれば、背景にあるのは、憲法が定める最低限度の生活の保障です。現在の日本では、生活保護、要件を満たした場合の失業給付、育児休業給付金、傷病手当金など、アクシデントが起きたときにお金を出す仕組みがいくつも用意されています。
ベーシックインカムは、こうした個別の給付を介護休業給付金なども含めていったん取り払い、一定の金額を全員に出せばいいという発想だと、吉田さんは理解しています。
アクシデントが起きたら、生活保護・失業給付・育児休業給付金・傷病手当金などを個別に支給する
個別の給付をいったん取り払い、国民全員に一定額(例: 月額10万円)を配る
月10万円で働かない人が出てくる?サボりの問題
ベーシックインカムを前提にしたとき、吉田さんが最初に出てくる問題として挙げるのが、働かない人が出てくることです。
例えば月額10万円でなんか働かずに生きていく方法みたいなのをインターネットに上げて、なんかライフハックみたいなのを作り出すやつがいて。
こうした動きがあることから、吉田さんは、ベーシックインカムは日本全体のためにはならないのではないかと考えています。
給料の差はどう埋める?給付を一本化しても残る課題
吉田さんは、社会保障や税の還付をベーシックインカムに一本化しても丸く収まるわけではないと指摘します。現在の傷病手当金や失業給付の基本手当は、もらっている給料に比例するからです。
吉田さんの例では、給料50万円の人と給料25万円の人が傷病手当金を受け取る場合、金額はおよそ2倍違います。ところがベーシックインカムだけにすると、誰が休んでも同じ金額になります。
元の給料に比例する。給料50万円の人と25万円の人では、給付額がおよそ2倍違う
元の給料に関係なく、誰が休んでも同じ金額になる
元の給料が少ない人はやった、ラッキーとか思うかもしれないですけど、元の給料が高くて、例えば高い家賃のマンションに住んでる人とかだったら、じゃあどうやって生活していくんですか?
吉田さんは、日本で無理にベーシックインカムを入れた場合、その上に大幅に減額された傷病手当金や育児休業給付金のような、差額を埋める特殊な給付金ができてしまうのではないかと予想します。
そうすると結局なんかベーシックインカム入れた意味なくない?みたいな話になると思うんですよ。
吉田さんは、ここまでの理由を3つにまとめ、ベーシックインカムは日本では導入されないだろうというのが自身の意見だと述べています。
サボりの問題
月10万円で働かずに暮らす方法が広まるなど、働かない人が出てくる
省庁の縄張り争い
税と社会保障のどちらで扱うかをめぐり、財務省と厚生労働省が管轄を取り合う
給料の差の問題
元の給料が高い人と低い人の差を埋めるのが難しく、差額の給付が残る
給付金の手続きが消えたら社労士は失業する?
ここから吉田さんは、仮にベーシックインカムが導入された前提で、社労士の役割がどう変わるかを考えていきます。1つ目は給付金のあり方の変化です。
みんな平等でいいという社会の合意が形成されれば、傷病手当金も育児休業給付金も基本手当もなくなり、個人向けの給付金はすべてなくなる可能性があります。そうなれば手続きがなくなり、社労士が大幅に失業するのではないか、という見方も出てきます。
その時はなんか社労士も当然ベーシックインカムもらえるんで、なんか嬉しくなるのか嬉しくならないのかわからないですけど。
それでも吉田さんは、現実には差額調整金のような手続きだけは残っていくと考えており、社労士の仕事は結局なくならないのではないかと見ています。
解決金や解雇規制も変わる?労務トラブルの行方
2つ目の変化として吉田さんが挙げるのは、労務問題の種類です。辞めてもどうせベーシックインカムがもらえるという感覚が広がれば、会社に反抗する人が増えるかもしれないといいます。
「どうせお金もらえるからまじめにやる意味ない」という人もでてくる
トラブルの解決方法も変わる可能性があります。吉田さんは、解決金を支払って退職勧奨で辞めてもらうような場面で、ベーシックインカムの月額分を差し引いた解決金でいいか、という話になるかもしれないと話します。
使用者側が強気になる可能性もあります。吉田さんは、ベーシックインカムがあるから労働者の生活に配慮しなくてよいという考え方が強まり、解雇規制のあり方も変わるかもしれないと指摘します。
もちろん、人の職業を奪うっていうことは、その単純にお金の問題じゃないところもあるんで、そんな簡単にはならないと思うんですけど。
生活残業は減る?働く側の変化と国力への懸念
吉田さんは、労務トラブルの一つとして「生活残業」にも触れます。残業命令が出ていないのに会社に残り、残業代を得ようとする働き方です。
例えば給料が25万だけど、月額5万円ぐらい残業してないと生活していけない人とかっているじゃないですか。
吉田さんは、こうした人にベーシックインカムが入れば、早く帰ってくれるかもしれないと考えています。
一方で、吉田さん自身が働く側だったら、ベーシックインカムの分だけ労働時間を減らしたいと思うといいます。その結果、日本の国力は下がっていくのではないかと懸念しています。
結論は「難しい、でも変わる」。AIとの組み合わせの理想
吉田さんは最後に結論を繰り返します。日本での導入は難しいと考える一方、導入されれば社労士業務が変わっていくのは間違いないとしています。
質問にあったAIとの組み合わせについては、吉田さんは理想として、ベーシックインカムでお金が入り、嫌なことは全部AIに任せて毎日寝て暮らせるなら、自分もリスナーもうれしい生活になるかもしれないと話し、そうなったらうれしいと締めくくっています。
まとめ
吉田さんは、ベーシックインカムが導入されれば社労士業務は大きく変わると認めつつ、日本での導入自体は難しいという立場から、仮に導入された場合でも差額の手続きなどが残り、社労士の仕事はなくならないのではないかと考えています。
- 導入が難しい理由として、サボりの問題、財務省と厚生労働省の縄張り争い、給料の差を埋める難しさの3つが挙げられた
- 給料に比例する傷病手当金などを一律の給付に置き換えると、高収入の人の生活が成り立たず、差額の給付が残る可能性がある
- 導入されれば個人の給付手続きは減る一方、差額調整金のような手続きは残ると吉田さんは見ている
- 解決金の算定や解雇規制、生活残業など、労務トラブルのあり方は変わる可能性がある





