9月最終日、牧場ではどんな仕事をしている?
この回は9月30日の水曜日に収録されました。川上さんは、最高気温28度で1日中晴れの過ごしやすい天気だと話しています。朝晩は冷えるようになり、半袖で作業していても「ちょっと寒い」と感じる季節になってきたそうです。
この日の川上牧場の仕事は、毎週水曜日の繁殖検診から始まりました。検診の結果は順調で、牛にきちんと種がついていたといいます。川上さんは「やっと涼しくなった」と、夏を越えた安心感をにじませています。
繁殖検診のあとは、注文が入った堆肥の配達です。帰りには牛舎で使う籾殻を取りに行く予定で、こうした外仕事をこまめにこなす1日になるそうです。
さらに川上さんは、来週から再来週にかけて牛をまとめて出荷する準備も進めています。夏を越えて乳が出にくくなった牛や、体調が戻りにくい牛を出荷する予定だと話しています。
物価の話題にも触れています。長雨の影響で野菜が高くなり、卵も値上がりしているなか、川上さんは牛乳は値上がりしない商品だと強調します。値上がりして見える分は物流費などの上乗せで、酪農家が売る価格は変わっていないそうです。
おかしな話だ、本当に。
価格はもう決まっているので、川上さんはリスナーに「牛乳はお買い得商品だと思って、しっかり飲んでほしい」と呼びかけています。
リスナーから届いた「酪農の農繁期」の質問
この回のお便りコーナーでは、TikTokに届いた質問が紹介されました。
酪農って年間で、繁忙期、いわゆる農繁期みたいなものはあるんですか?
野菜や果物なら、春には春野菜、夏には夏野菜と、忙しい季節がイメージしやすいですよね。一方で牛乳は365日いつでも買えるので、酪農にとっていつが忙しいのかは想像しにくいかもしれません。
川上さんの答えは「農繁期はある」です。ただし、忙しくなる理由も時期も、牧場や地域によってまったく違うといいます。
川上牧場はね、ちょっと特殊というか、1年を通して仕事の量の波がまあ比較的小さい牧場だと思います。
川上牧場で仕事量の波が小さい理由は、自給飼料 ── 牧場が自分の畑で育てて収穫し、牛に与える餌のこと。牧草や飼料用トウモロコシなどが代表的ですを作っていないからです。そこでこの回は、「酪農家は1年中何をしているのか」と「なぜ他の牧場では急にものすごく忙しくなるのか」の2つを軸に話が進みます。
酪農は、なぜ暇な時期を作りにくい?
川上さんはまず、一般的な農業と比べます。お米なら田植えと稲刈り、野菜なら植え付けと収穫に仕事が集中し、1年の中で「ここが勝負」という時期がはっきりしています。
酪農はそうはいきません。牛は毎日餌を食べ、水を飲み、うんちやおしっこをして、毎日牛乳を出します。
なので、お正月だから今日は搾乳お休みですとはできません。
そのため酪農家には、365日続く基礎の仕事があります。川上さんが挙げたのは次のような作業です。
- 搾乳、餌やり、餌寄せ
- 牛舎の掃除と糞尿処理
- 子牛の世話と発情確認
- 治療と分娩の対応
こうした基礎の仕事は、春だからなくなる、冬だから休めるというものではありません。
川上牧場は牧草や飼料用トウモロコシを自分の畑で作っていないので、この毎日の牛の仕事が1年の中心になります。春に何十ヘクタールも畑を耕したり、夏に牧草を一斉に刈ったり、秋に何日もかけてデントコーン ── 飼料用として育てられるトウモロコシの一種。実だけでなく茎や葉ごと刻んで、牛の餌にすることが多いですを収穫したりする仕事は、川上牧場にはないそうです。
もちろん川上牧場にも季節の変化はあります。夏は暑さ対策や牛の病気が増え、冬は寒さへの対応が必要になります。分娩が重なるのはちょうど今の時期で、機械が壊れればそれだけでめちゃくちゃ忙しくなるといいます。
川上牧場のいまの季節仕事は、堆肥の配達です。この時期は堆肥を取りに来る人や注文が増え、積み込みの作業も加わります。
いつもの搾乳もやって、餌やりもやって、牛の管理も全部やった上で、さらに堆肥の仕事が乗ってくるということですね。
そのため川上さんは、川上牧場の忙しさを「農繁期というより、通常の営業に季節仕事が上乗せされる時期」と表現しています。
自給飼料を作る牧場の「明日にできない」忙しさ
ここから川上さんは、自給飼料を作る他の牧場の話に移ります。牧草や飼料用トウモロコシ、稲のホールクロップサイレージ ── 稲を実が熟す前に茎や葉ごと刈り取り、発酵させて作る牛の餌。略してWCSと呼ばれますなどを自分で作る牧場には、はっきりとした農繁期があるそうです。理由は、牛の仕事をしながら畑の仕事もするからです。
自給飼料を作る牧場の収穫期は、たとえば次のような1日になります。
朝
搾乳をして、牛に餌をやる
昼
畑で草を刈って乾かして集め、サイレージやロールにする。またはトウモロコシを収穫・裁断してサイロに詰める
夕方
牛舎に戻って、また搾乳
収穫が大変なのは、仕事の量が多いからだけではありません。川上さんは、タイミングがものすごく重要だからだと説明します。
牧草は育ちすぎると栄養価や消化のしやすさが変わりますし、干し草にするなら雨に濡らしたくありません。サイレージにする場合も、ちょうどいい水分や生育段階で刈りたいところです。飼料用トウモロコシも、いつ刈っても同じ品質になるわけではないそうです。
今日は疲れたからちょっと明日にしようかなと言っているうちにですね、雨が来るかもしれませんし、台風が来るかもしれません。
農繁期は何月?北海道と九州で違う答え
では、自給飼料を作る牧場はどのくらい忙しいのでしょうか。川上さんは最初に、日本の酪農の農繁期は「何月です」とは一概に言えないと強調しています。
川上さんが紹介したのは、農林水産省の畜産部会で取り上げられた事例です。この牧場では、牧草の1番草が6月前半、2番草が8月前半、3番草が10月後半から11月に収穫されます。さらに10月ごろにはデントコーンの収穫が重なるそうです。
この事例では、天候によってはほぼ24時間体制に近い形で収穫作業をすることもあると説明されています。朝晩は牛、昼は畑、天気がいいうちにできるところまで収穫する。これが自給飼料を作る酪農家の農繁期だと川上さんは話します。
九州では時期がまた違います。農林水産省が紹介している熊本県の事例では、飼料用トウモロコシを春と夏の2回作る「2期作」をしています。
同じ酪農でも、北海道や本州の牧場と九州の牧場では農繁期がずれます。何を作っているか、気温や雨、標高、畑の面積によって、全部変わってくるそうです。
酪農の農繁期は何月ですか?という質問への一番の正確な答えは、その牧場が何を自分で作っているかによりますということになると思います。
自給飼料を作らないのは楽なのか?コントラクターという選択肢
ここまで聞くと、自給飼料を作らない川上牧場のほうが楽に思えるかもしれません。けれど川上さんは、「作らない=仕事が少ない」わけではないと、誤解しないでほしいと話しています。
自給飼料を作らない牧場は、餌を外から買う必要があります。価格が上がる、物流が止まる、欲しい粗飼料 ── 牧草や干し草など、繊維が多くてかさのある餌のこと。牛の胃の働きを保つのに欠かせませんが手に入らない、ロットによって品質が違う。こうしたリスクを引き受けることになります。
畑仕事が増えて農繁期ができる一方、自分の土地から牛の餌を作れる
仕事量の波は小さいが、餌の価格や物流、品質のリスクを受ける
川上さんによると、農林水産省も自給飼料の生産を、餌のコストを下げて畜産経営を安定させる取り組みと位置づけています。ただし、これもケースバイケースだそうです。
どちらが正解ということではなく、仕事をどこで持つか、リスクをどこで持つかが違うという方が近いかなと思います。
最近は、農繁期そのものを外注する牧場もあります。そこで活躍するのがコントラクター ── 飼料作物の種まきや収穫などの作業を、農家から請け負う専門の組織のことです。昔は酪農家がトラクターに乗って草を刈るのが普通でしたが、いまは収穫を専門組織に任せ、酪農家は牛の管理に集中するやり方もあるといいます。
熊本の事例でも、飼料用トウモロコシの種まきや収穫をコントラクターが請け負い、畜産農家の負担を減らしています。一方で、コントラクターへの支払いが外部費用としてかかるため、結局は購入飼料のほうが安かった、ということも起こりうると川上さんは指摘しています。
ここまでの話をふまえて、川上さんは酪農の忙しさを2種類に分けます。1つは搾乳や餌、掃除、牛を見るといった、薄く長く1年中続く仕事。もう1つは牧草やトウモロコシの収穫、堆肥の配達、畑仕事など、季節によって一気に押し寄せる仕事です。
川上牧場は前者の割合がとても大きい牧場です。自給飼料をたくさん作る牧場は、前者を1年中続けながら、そこに後者がドンと乗ってきます。同じ酪農家でも、1年の時間の使い方はかなり違うということです。
農繁期は「なくす」こともできる?
川上さんは、農繁期は昔から農業に当たり前にあるものと思われてきたと話します。そのうえで、人手不足が進むこれからの農業では、「どうやって農繁期をなくすか」という発想も大事になると考えています。
自給飼料を全部自分で作るのか、コントラクターに任せるのか、TMRセンター ── 牛の餌を配合してまとめて作り、複数の牧場に届ける施設のことを使うのか、餌を買うのか、地域で機械を共有するのか。どれも、何を自分でやって何を外に任せるかという経営判断です。
農繁期というのは自然に決まっているわけではなく、牧場の設計によって、経営者、経営主の考え方によってある程度変えることができるということですね。
川上牧場の場合は、大きな農繁期はないものの、小さな季節の変化はちゃんとあります。いまの時期は堆肥の需要が増え、夏は暑さ対策や牛を見る時間が増え、冬は寒さや水回りの管理が変わってくるそうです。
川上さんが仕事量の平準化を選んでいるのには、はっきりした理由があります。川上牧場は、ほぼ川上さん1人で牛を管理しているからです。
一時期だけ仕事がドーンと増えると困るんですよね。
質問への答えを締めくくるにあたって、川上さんは酪農家の農繁期を印象的な言葉でまとめています。牛は分娩などでこちらの都合を待ってくれず、作物は天気を待ってくれない、という話からの一言です。
これからは「農繁期をどう乗り切るか」だけでなく、「そもそも農繁期を作らない牧場をどう設計するか」が大事になるかもしれない、と川上さんは話しています。自分で全部やる、外注する、地域で分担する、購入飼料を買う。どれが正しいかではなく、その牧場がどこに時間を使いたいかから逆算すればいい、という考え方です。
川上さんは、酪農をひとくくりにして「どこも一緒」と考えるのは違うとも話しています。畜産団地のように同じ地域に固まっている牧場でも、隣同士でまったく違う作業のやり方をしていることがあるそうです。SNSで、地域性も歴史も違うのに「あれは違う、これは違う」と言い合うのは不毛だと感じているといいます。
牛乳の値段はなぜ上がらないの?
質問に答え終えたあと、配信中のコメント欄から「牛乳の値段が上がらないのはなぜ?」という質問が届きました。
川上さんによると、牛乳の価格は酪農家の団体と乳業メーカーの団体が年に1回交渉して決まります。ただいまは関東で牛乳が余り気味で、脱脂粉乳も積み上がっている状況だそうです。
ここで値段を上げると、高いからと買い控える人が増え、消費がさらに落ちてしまいます。そうなると余った牛乳の出口がなくなるため、値上げができなかったと川上さんは説明しています。
値段が上がるのが先か、それとも酪農家が減るのが先かというね。デスゲームになってきますね。
いちばんの問題は消費が減っていることだと川上さんは考えています。消費が増えれば値段も上げられそうだとして、リスナーに牛乳をたくさん飲んでほしいと呼びかけて、この回の配信を締めくくりました。
まとめ
「酪農に農繁期はある?」という質問への答えは「ある。ただし牧場によってまったく違う」でした。自給飼料を作るかどうか、どの地域で何を育てるか、どこまで外に任せるかによって、牧場の1年の忙しさの形は大きく変わります。川上さんは、農繁期は自然に決まるものではなく、経営の設計で変えられるものだと話しています。
- 酪農には、搾乳や餌やりなど365日休めない基礎の仕事がある
- 自給飼料を作る牧場では、牛の仕事に天候しだいの収穫作業が重なり、はっきりとした農繁期が生まれる
- 農繁期の時期は地域によって違い、熊本県ではトウモロコシの2期作をしている事例もある
- 自給飼料を作らない川上牧場は仕事量の波が小さい一方、餌の価格や物流のリスクを受ける
- 人手不足の時代には、コントラクターや購入飼料を組み合わせて「農繁期を作らない牧場の設計」も選択肢になる


